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『追放悪役令嬢の発酵無双 〜腐敗した王国を、前世の知識(バイオテクノロジー)で美味しく改革します〜』  作者: 杜陽月
科学の王国と支配の聖女

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新時代の礎

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

第二部の連載を開始いたします。

第一部で蒔かれた種が、いかにして国を支える大樹へと育っていくのか。新たな仲間、新たな技術、そして新たな敵。スケールアップしたイザベラの改革を、どうぞお楽しみください。

 新体制が発足して、一ヶ月が過ぎた。

 王都の混乱はレオンハルトの剛腕によって急速に収束し、国は束の間の平穏を取り戻していた。しかし、水面下では、私が設計した、静かだが巨大な革命が、すでに始まっていた。


「以上が、王立技術院(おうりつぎじゅついん)における『豊穣の女神(デーメーテール)改』の量産計画です。ギムレック院長、何か問題は?」



「おうよ、お嬢ちゃん。いや、イザベラ総帥。この歯車の素材を鋳鉄から鋼に変えれば、耐久性が15%は向上する。コストは嵩むが、長期的に見りゃ安くつくぜ」



「承認します。すぐに見積もりを」


 王城の一室で開催されているのは、王国再生会議おうこくさいせいかいぎ。摂政レオンハルト臨席のもと、各分野の責任者が一堂に会する、この国の新たな最高意思決定機関だ。

 工部卿(こうぶきょう)を兼任する王立技術院長ギムレックが、分厚い資料を手に熱弁を振るう 。彼の隣では、農林再生院(のうりんさいせいいん)現場総監督となったエリックが、全国の土壌調査から得た最新データを報告している 。



「総帥。北部D-3地区の土壌から、予期せぬ塩害が確認されました。輪作計画の一部見直しを具申します」



「データを見せて。……なるほど。原因は古代の魔法汚染の残滓ね。対策として、塩分を吸収する特殊な作物の栽培と、浄化菌の追加投入を許可します」


 そして、会議室の扉を守るように立つのは、内務卿(ないむきょう)王国治安維持局おうこくちあんいじきょく長官、クラウスだ 。彼の任務は、もはや単なる警備ではない。



「イザベラ様。先日ご報告した、旧王都貴族と西方の商人との不審な金の流れですが、金の出所が判明しました。(せい)アグネス神聖法国(しんせいほうこく)です」



「……やはり」

 私の呟きに、レオンハルトの銀灰色の瞳が鋭く光る。

「奴らめ、早くも嗅ぎつけてきたか」


 だが、神聖法国の介入は、まだ先の話だ。目下の戦場は、経済にあった。

「アルフレッド。現在の『(むぎ)手形(てがた)』の流通状況は?」

 会議の末席に控えていたアルフレッドが、今や私の私設秘書官長として、淀みなく報告を始める 。



「はっ。ヴェルテンベルク再生銀行(さいせいぎんこう)が発行した銀行券は、シュヴァルツェンベルク領との交易において、完全に基軸通貨としての地位を確立。王都の旧通貨との交換レートは、本日付で1対500を突破いたしました」



「結構ですわ。では、次の段階へ移行します」

 私は、集まった全員に宣言した。

「本日をもって、**『ヴェルテンベルク王立発酵(おうりつはっこう)ギルド』を正式に設立します。ギルドが品質を保証した全ての製品――パン、酒、そして新たに開発した『ザワークラウト』は、今後、『麦の手形』以外での取引を一切禁止(・・・・)**とします」


 その言葉が持つ意味を、ここにいる誰もが理解していた。

 それは、旧体制への、完全な経済的勝利宣言。そして、神聖法国が「奇跡」と「信仰」で人々を支配するのに対し、我々は**「品質(・・)」と「信用(・・)」**で世界を動かすという、新時代の価値基準の提示だった。


 会議が終わり、執務室でレオンハルトと二人きりになった時、彼は静かに私に尋ねた。

「……お前のやり方は、あまりにも急進的だ。敵を作りすぎるのではないか?」

「敵は、すでに存在していますわ。ならば、彼らが我々を理解する前に、我々が彼らを凌駕するしかない。科学とは、そういうものです」

 私は窓の外に広がる、再生を始めた王都の街並みを見つめる。

「それに、私にはあなたという、最強の『剣』と『盾』がおりますから」

 私の言葉に、彼はふいと顔を背けた。その耳が、わずかに赤く染まっているのを、私は見逃さなかった 。


 その時、私たちはまだ知らなかった。

 遥か西方の聖アグネス神聖法国。その大聖堂の最奥で、教皇ヴァレリウスが、水晶盤に映る私たちの姿を冷ややかに見つめていたことを 。



「……面白い。科学、か。だが、子供の火遊びは、本当の火の恐ろしさを知らぬゆえの戯れ。セラフィナよ」

 彼の傍らに控えていた、フードを目深にかぶる人物が、静かに顔を上げる。そのフードの下から現れたのは、神々しいまでの美貌を持つ、銀髪の少女だった。

「はい、猊下」

「お前の『奇跡』で、あの()(たん)魔女(まじょ)に、世界の真の理を教えておやりなさい。我らが神の御業は、人の小賢しい知識など、遥かに超越しているのだと」



「御意のままに」

 聖女(・・)セラフィナ・リリエンタール。その唇に浮かんだのは、慈愛に満ちた、しかしどこまでも冷たい微笑みだった。

 第二の聖女がもたらす、本物の「奇跡」が、私の科学に牙を剥くまで、あとわずか。

第二部、いかがでしたでしょうか。

新たな仲間たちと共に、国家再建を本格化させるイザベラ。しかし、その背後には、新たな聖女と教皇という、これまでとは比較にならない強大な敵が動き出しました。

本日19時10分に更新予定です。

次回「発酵ギルドと経済戦争」。イザベラの経済改革が、旧体制派に最後通告を突きつけます。

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