過保護、とは?
アガタがエアヘル国から旅立ち、ダルニア国で暮らしてから一年が過ぎ、季節は春になっていた。
やっていることは変わらないけれど、この一年でアガタはすっかり健康体になったし、少しだが背も伸びて胸や腰も成長した。自分で言うのも何だが、すっかり女性らしくなっている。今までの服が着れなくなり、同じく成長した(まだ抜かれていないが、目線はあまり変わらなくなった)メルと共に、サマンサに連れられて新しい服を買ったくらいだ。
(エアヘル国では、地味だのみすぼらしいだの言われたけど……髪はサラサラになって艶も出たし、顔色も良くなって目の下の隈も出なくなったし)
そもそも異世界なので、髪や目の色が派手寄りなのだ。前世日本人からすれば、茶色の髪と目も十分、華やかである。あと、前世男性の目から見ても成長した現世の自分は客観的に見て可愛らしい。
(もっとも、周りが派手だからこう、色めいた声はかからないけど……客商売的には、好評だし。今のところ、お付き合いとか考えてないから良いか)
前世は男性だったが、あくまでも記憶なので同じ男性と恋愛出来ないということはない。
幸いと言っては何だが、ダルニア国では女性も働いているせいか結婚適齢期が前世と同じ、二十代半ばくらいだ。少なくとも『外国就労』の期間が終わるまでは、焦る必要はない。
……そう結論付けて、また料理に集中し出したアガタは知らない。
「いらっしゃいませ」
「あの、アガタさんは」
「申し訳ありません。今、厨房ですのでぇ」
「そうなんですね……その、休憩時間とかは」
「休息時間は文字通り、休息や食事の為ですのでぇ」
アガタ狙いで店に来た客を、サマンサが笑顔で追い払い──すごすごと引き下がるのを見て「あっさり引き下がるなんて骨がないわ」と呟いていたり。
「弟君、買い物? お姉さんは、店に」
「……アガタ姉様から、知らない人と話さないように言われてます。では」
「あっ……」
アガタが勉強するだろうからと店に残し、休みの日に買い出しに出たメルが、やはりアガタ狙いの男性に塩対応で接したり。
「何か可愛い子が来てますね。よし、声かけてお近づきに」
「って、待て待て新人! あの子は、パーサの『お気に入り』だっ」
「今はアイツ、エアヘル国だけど……帰ってきてバレたら、殺されるぞ!?」
「げっ!」
狩人達の武器や防具の為、詰め所に行ったところでパーサの根回しにより、声をかけられそうになったのを未然に防がれていたり。
「いらっしゃい、ランさん」
「アガタ、元気にしてるか?」
蜂蜜の行商に来ているランが、個スペースに向かう時、アガタに(隣にいるメルがランを睨んでいるが)優しい声と笑顔で話しかけたり。
……知らなかったが、発覚した時にアガタは軽く目を見張り。
「もう、過保護なんですから」
アガタは前世男性でもあったが、大往生した老人でもあった。
それ故、可愛い独占欲だと笑って済ませたので、周囲はアガタに近づくのを諦めるしかなかった。




