第7話:festoso
明るくなる空と共に俺たちは歩き始めた。
今度はシフトに合わせ、でも出来るだけ早く。
きちんと話し合ったことだった。
「次に行く町はな、少し特別なんだ」
「『汚れのない町』・・・」
火の勢いが風に煽られ、強くなる。
「ああ。イノセンスはな、魔族を拒絶した町だ」
「そんなのどこの町もじゃんか」
ゆっくり体を倒しながら言った。
「いや、他の町の比じゃない。あの町は魔族がかかわったと思われるものは好まない。
食物や布であってもな」
「あ!そうか、だからシフトは着替えさせたのね。あたしたちは魔族と会ったときの服のままでったから」
「そういうこと。入れてもらえないかもしれないからね」
「さすが、情報屋ね」
コルダがそう褒めた。
認めてくれたのは嬉しいが・・・なんだこれ。
ちょっぴりイライラする。
「さ、さぁ。明日は早いんだ。もう寝なきゃな」
そう言って眠れなかったのをよく覚えてる。
「・・・結構かかったな」
「嫌みかょ?」
「まさか」
まだイライラしているのは確かだが。
町の前で話していると一人の老婆が俺たちを招き入れた。
「まぁまぁ、こんな山奥にわざわざようこそ。ゆっくりしてってくださいな」
自らを町長と名乗り出た老婆は、最も立派な家へと案内した。
そして俺たちに適当に寛いでおくように言うと、食事の用意に行ってしまった。
「・・・おい、シフト話と違うぞ」
「おかしいな、厳重な検査があると聞いたのだけれど」
最近は違うのか?、と短く繋げた。
「ハイハイ、お待たせしましたね。あの山を登って来たのですから、お腹が減ったでしょう。どうぞお食べになってください」
町長は3人の娘を引きつれて戻ってきた。
3人の娘たちはそれぞれが大きなお盆を持っていて、そこから魔法のように料理を出した。
すべての料理が並び終わると町長はもう一度繰り返した。
「どうかしましたか。さあ、どうぞ。せっかくの食事が冷めてしまいますよ。」
どうすればいいものか、とシフトに目を向けた。
シフトは目の前の料理と町長を見比べると丁寧な口調に変えた。
「どうして、僕達にそんなに親切になさるのですか。ここの町は魔族対策が厳しいと聞きました。なのにどうして、何者かもわからないような我らを町に入れてしかもこのような待遇を・・・?」
町長は微笑むと俺たち全員をゆっくりと見渡した。
「この町は、辺鄙なところにあるせいか、なかなか人が来ないのですよ。数少ない観光客を遇さないわけにはいきませんよ」
「そうだぜ、シフト・・・いやナイフだな。せっかく料理を出してもらってるってのに、失礼な奴だな」
俺は料理に手を伸ばしながら、話を切った。
「ん・・・んまいっ」
「あ、ほんとにおいしいわね」
「て、もう食べてるし・・・君たちは自由人か」シフトは一口お茶を啜って再び町長に向き直った。
「すみません。疑り深くて。ただ噂に聞いていたのとあまりに違っていたものですから」
「ふふっ、よろしいのですよ。確かにこちらもあなた方を疑っていたのですから」
その言葉に皆が止まるのは目に見えていた。
「はい・・・?」
「シフトさん、でしたか。すみませんね、騙していました。私達はただ意味もなく、お食事に誘ったのではありません」
「あなたの仰る通り、この町は魔族を嫌っています。昔は念入りな検査をしていました。しかし、それでは町が廃れてしまいます」
町長は思い浮べるように目をつぶった。
「そんなある日、町の科学者達は見つけたのです。魔族を溶かす水を」
「水・・・?」
シフトは顔を白くした。
何かに気付いたように。
「はい、所謂"聖水"というやつです。それを飲めば、身体中の細胞は死滅し、この世から消えてなくなってしまうそうです。水なので飲ませるのは、なかなか難しいですが、料理に入れれば容易いのです」
「は!!?」
俺とコルダは食べるのを止め、町長と料理を視界にいれた。
「まさか、まさか、これに」
「入ってますね、たっぷりと」
町長はあっさりと言ってのけた。
「うわぁああ!!どうしよう!がっつり喰っちゃったよ!」
「あら、がっつり溶けますね、それは」
「いやだあああ!!!」
「ていうのは、嘘ですが」
今にもショック死してしまいそうな俺を見て、老婆は笑った。
「先ほど言いましたが、聖水は魔族にのみ効果があります。それはもう、ひとくち口にするば死んでしまうほどに。しかし、人にとってはただの水ですよ。むしろ肩凝りが治ると評判です」
「ふぇ?」
「安心して下さい。あなた方は仲間だと、認定されました。改めて、イノセンスへようこそいらっしゃいました!」
「ふああああ!心臓に悪いっての」
先ほど、町長から無料で借りた宿泊施設で叫んだ。
「ほんと、びっくりしたわ。話も長いし」
肩が凝るわ、と腕を回した。
「話が長い割に、一番聞きたいこと聞けなかったな」
「リベルテへの洞窟のことだね」
俺はシフトの言葉に頷いた。
村長には、強く否定された後だったのだ。
「この近くにあるはずなんだ」
「明日から、もっとちゃんと洞窟探さなきゃね」
一応、村や村の周辺を回ってみたが洞窟らしきものは見付からなかった。
シフトの情報なので、信憑性はあるんだが。
「ま、存在自体あまり知られてない町だ。さすがに洞窟の場所までは分かんなかったな」
「町の人にも聞いてみたんだけどね」
もちろん成果はなかった。
皆、嘘をついている感じもなかった。
「あぁ、くそ。行き詰まりかぁ」
そんな時だった。
「あの・・・旅人さん・・・?」
部屋にノックの音が響いた。
こんなタイミングで来るなんて、誰かに操られているみたいだった。
それほどまでに順調なこの旅は―――
「わたし、洞窟のこと知ってます・・・」
まだ順調なままであった。




