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エメラルダの卵  作者: 佐藤 綾
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クリステル=アディール 66


目の前には、懐かしい風景が映し出される。


愛しいあの人と、過ごした街。前世の私の生まれた場所。


「あの日の続きを見ましょう」


そうパックに言うと、大きな交差点の銅像の前で彼と待ち合わせをしたときの場面が映し出される。


ここで、前世の私が死んだ。


あの時と同じ様に彼のことを、ドキドキしながら待っている自分がいる。


だがそこへは、彼ではなく、見知らぬ女が私の前に立ちはだかる。


女は、私のことを睨みつけて、

鞄から光るものを出して私に言った。


「夫は渡さないから!」


光るものが、私に向かって近づいてくる。

女と私の間には、なにも障害物はなかった。

私は、不意に目を閉じて、その瞬間を待った。


「やめろ!」


あの人が、女の人の手を後ろから押さえつけている。


「離せ!あの女を殺してやる!夫を返せ!」


泣き叫ぶ女は、あの人を振り払った。


「逃げろ!」


あの人の叫び声で我に返り、そこから逃げるように走った。あの女が追いかけてこないか、不安だったがひたすら前を向いて走る。ちょうど近くに住んでいたため、自分の家に逃げ込もうとアパートへと急ぐ。

アパートの玄関前にたどり着き、ドアの鍵を探す。鞄の中を確認するが、なかなか見つからない。

ようやく、鍵を探し当てドアノブに当てたその瞬間、鋭い痛みが私を襲う。


「これで、あの夫はわたしものよ」


誰かの悲鳴と共に、私はまるでこわれた人形のように地面へと崩れ落ちた。地面についた血は、水たまりのようにどんどん広がっていく・・・


遠くで人の声が聞こえる。起き上がろうとするも、体に力が入らず血の海はどんどん広がっていく。

私を刺した人が、あの人の奥さんということは・・・私はあの人に騙されていたのだろう。


せっかくプロポーズされたのにな。

こんな状態なのに、あの人の顔を思い出す。


これは走馬灯だろうか・・・

あの人の笑った顔や、怒った顔・・・

あの人は、私が死んで悲しむだろうか?

悲しんでくれるといいな・・・


ああ、好きだったのにな・・・そこで私の意識は途切れた。




視点が切り替わった。

どうやら、私の葬式の場面まで見せてくれるらしい。


(婚約者の人もなくなったらしいわよ、かわいそうね)

(通り魔にさされたらしいわ。)

(最初に刺されたのは、男性らしいわよ)

(女性をかばって刺されたらしい。)

(その後、犯人は婚約者の女性を追いかけて刺したらしい)

(それで婚約者の女性も亡くなったらしいわ。)

(刺した女は、夫って言ってたらしいけど?)

(違うわよ。あの女の勘違いらしいわよ。あの男の人とは、なにも関係ないらしいわよ)

(やだ、人違いだったの?お気の毒に・・・)


周りの人の声を聞いて、私は驚いた。

あの人も死んでしまったの・・・?

あの女とあの人はなんの関係もないということ?


私は安堵した。

騙されていたんじゃなかったんだ。あの人は、私だけだったんだ・・・

2人同時に死んでしまったけれど、愛し愛されていたのなら片方だけ残らなくてよかったかもしれない。


私の胸に暖かいものが宿る。裏切られ、忘れようとしたもの。気づいてよかった・・・

あの人の愛をもう一度知ることができてよかった。

これで、私は前世の恋とさよならすることができる。


また暗い空間へと場面は映った。ここには、パックと私の二人だけしかいない。


「お姉さん、お姉さんの大切なものもらってもいいかい?」


私は、笑顔でパックに頷いた。


「パック、ありがとう。私の大切なものに気がつかせてくれてありがとう。」


パックは私の暖かい心に手を伸ばす。心に手が触れた途端、パックの片方の羽が光って弾け飛んだ。まるで流れ星のように、私の頭上に流れる。


「対価を頂いた。これで、契約は成立したよ!」


私は最後にあの人の笑顔を思い浮かべ、一粒の涙をこぼした。


さよなら、わたしの愛した人・・・





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