クリステル=アディール 64
エリザベートは疲れたように、ぽつりぱつりと語り始めた。
「あのお方は、いつでも自分のことは後回しにして国のため、民のために思う国王じゃった。妖精である妾の力もかりず、対等に話をし、からかって遊ばれることもあった。だがある時、あのお方の前にあの女が現れた。あの女のせいだ・・・あの聖女を愛してしまったせいで、裏切られて悲しみに暮れて、国が荒れてしまった。美しかった国や、民を隣国がめちゃくちゃにした。妾は、そんな姿を見ていることができなかったのじゃ」
「エリザベート様は何をしたのですか?」
「あのお方から聖女を忘れるために、妖精の契約に対価をつけるようにしたのじゃ。そして、隣国に邪魔されないように、国を保つため、あのお方と契約した。聖女への思いを忘れたお方は、前のような国王に戻ったと思ったが、妾に対して冷たい目で見るようになった・・・大切なものを無くしたというのは、どこかで分かるものなんだろうか。その眼差しにたえきれず、それから妾はこの水晶の宮であのお方を・・・あのお方がいる国を守ると決めたんじゃ」
まずい。
エリザベートの周りが、水晶に覆われていく。
「小娘、楽しかったぞ。お主がいっていたことも、夢のような話じゃった。だがな、他の国がどう滅んでも、あのお方が愛したこの国をこのまま守らせておくれ」
「クリス!まずいぞ、石碑も水晶に覆われるぞ」
「このまま、水晶に覆われて自分ごと眠りにつくつもりみたいだよ!そうなったらなにもできなくなるよ!」
このまま、自分の殻に籠もるなんてさせない!
まだ、なにも終わってないんだから・・・
私は結界箱を最大出力で展開させる。
目の前にいるのは、気高い妖精の女王でもあり、1人の恋する女だった。水晶で固められた心に、届きますようにと魔力を念じる。
体の内側でくすぶっていた優しいウェル様の魔力とライアー先輩の熱い魔力が混ざり合い、私の魔力へと変換されていく。風と炎が混ざりあった結界箱を、水晶が覆われる前に発動させた。
同時にエリザベートの元へ走る。覆われた水晶が、風と炎に煽られて次々に爆発していく。
ようやくエリザベートの目の前まで来た私は、彼女のほっぺたを両手でぐにゅっと窄めた。
目をぱっちりと明けて驚いたような顔をした姿に、私は一喝する。
「しっかりしなさい!あなたが望んだのはこんな結末なの?あのお方の希望じゃなくて、私はあなたの今の願いを聞いているのよ」
「わらわは・・・・」
覆われた水晶がぱりぱりと崩れていく・・・
「妾は、人間のように愛されたかっただけじゃ・・・」
私は、エリザベートを抱きしめた。水晶のように冷たい体を、暖かくなるようにぎゅっと力をいれる。
「妖精だって人間と同じよね。何千年いきてたって、好きな人に冷たくされたら嫌になっちゃうわよね。好きな人に本当の気持ちが言えていたらいいのにね・・・あのお方じゃないけど、私が側にいるのじゃだめかしら?」
「そなたがか?」
ええ、っと答えると、自分の濡れた瞳の雫を指で弾き、面白い小娘じゃ っと返事が返ってくる。
「小娘と話していると、何千年の前のことなんてバカバカしく感じるな」
その途端、エリザベートの隣にあった石碑が砕け散り、エリザベートの体がぽうっと光だした。
「えっ?どうして・・・やっとこれからエリザベート様とわかりあえたと思ったのに・・・」
エリザベートは、私の頬にそっと口づけをした。
「そなたが最初に望んだことだろう?妾の友として、最後の願いを叶えてやるぞ」
「エリザベートっ!」
エリザベートの体が光に包まれ、やがて赤く輝く水晶となり、空中で砕け散った。
それに合わせて、水晶の王宮がガラガラと崩れ落ちていく。
「いや!エリザベートっ!!」
「お姉さん、お兄さん、急いでクレイブとアクアの近くへ!」
「クリス、こい!」
ライアー先輩に手をひかれるまま、パックの魔法を使ってここを脱出した。
★☆★
巻物から出ると、目の前にはウェル様とダニエル先生がいた。クレイブとアクアも水晶から開放されて、地面に座り込んでいた。
「一体どうした?何があった?」
ライアー先輩が、4人に水晶の王宮であったことを説明した。
「契約は壊された。このままだと隣国のやつらがくるかもしれない。」
「お姉さん、国を守るには新たな契約が必要だよ?」
そうだ。私がやらないといけないこと・・・
エリザベートが、友達が私の願いを叶えてくれたから今度は私が頑張る番だ。泣いてなんていられない。
「パック、契約しましょう」
私の大切なものを対価にして




