クリステル=アディール 44
「クリス!」
見計らったように、ウェル様が側にきた。
相変わらずの王子様スマイルに
私はたじろいだが、有無を言わさずに
ウェル様に連れ去られた。
「ご機嫌ななめのようだね」
ウェル様に連れて行かれた場所は綺麗な湖だった。
少し、みんなから離れているが護衛として、後ろにイリヤ様もつくということで許可をもらったらしい。
にっこり笑うウェル様に、私はほっぺを膨らまして抗議をした。
「ウェル様は、嘘つきです。聞きましたよ、挨拶でキスはしないって」
私がぷんぷんして怒りだすとウェル様は、
下を向いて俯いた。
言い過ぎたと思って、下から顔をのぞくと
目が合い、ウェル様はこらえるように笑った。
「怒ってるのに、心配してくれたの?」
ウェル様は、そっと私の髪を一房とり
口づけをした。
ウェル様は、昔からお茶目な一面があることを思い出した。こちらが怒ると、しょんぼりしたフリをするのだった。しょんぼりしている人を怒り続けることができない私はいつも、許してしまうのだ…
「クリス、好きだよ。なぜ、僕を避けていたの?ナターシャと婚約を解消したから?それともクリスは、別の誰かを好きになったの?」
ウェル様は、奥にいる先輩をちらりと見た。
それを見て、私はあわてて訂正した。
「ライアー先輩は、学園の先輩なだけです。確かに、ウェル様とお姉さまが婚約解消されて私は少なからずショックを受けました」
「解消したのは、ナターシャも合意の上だったよ。それに…もともとは、クリスが本当の婚約者だったんだ」
ウェル様とこんな言い合いしたくないのにと思いつつ、私はまた嫌な過去を思い出す。ウェル様にきちんと向き合うために。
「それでも、お姉さまはウェル様をお慕いしていたんですよ。気づいていたでしょう…」
ウェル様は、私の瞳にたまっていた涙を指ですくいとった。
いつでも、お姉さまはウェル様を見つめていた。
私もウェル様が好きだったから…
「ウェル様は、覚えていますか?私が誘拐されたときのこと…あの事件で私の母が亡くなりました」
ウェル様は、頷いて私を見つめた。
「あの事件以来、私の家族は父と姉だけになりました。私、家族みんなに祝福されたいんです。私だけが幸せになるなんて嫌なんです」
「でも、それは…」
「わかっています。私のエゴだということが…それでも、決められている半年までは待ってくれませんか?自分で納得できるまでがんばりたいんです」
ウェル様は、私を抱きしめた。
懐かしいこの腕に、ずっと守られていたいのに…。
「さっき、危ない目にあったばかりなのに…」
「はい」
「自分からは、危険なことはしないでくれ」
「はい」
「あの騎士を好きに…いや、なんでもない」
「ウェル様?」
なんでもないと言って、ウェル様は首を振った。
「殿下、そろそろ」
イリヤ様の言葉に頷き、あたたかい温もりから離された。
私達はみんながいる場所へ戻ることになった。




