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姫は愚者だが、領主は平和を望む  作者: LAST STAR
リテーレ領とゲレーダ領
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第44話 終戦と復讐の行く末

「父の……仇!」


ルカは腰に差していたもう一本の短剣を抜く。その目は復讐に満ちた目だった。

そして、またレオルもそれを受け入れるかのようにルカの前に膝をつく。


そんなことをして何になるというのか……? 俺は知っている。

復讐を遂げることで、また自分も同じ人間がなってしまうことを――――。

俺は一歩前に近づき、ルカを説得する。


「やめろ……! 約束しただろ?」

「それでも……!」


ルカの手は震えている。そして、目からは涙が零れ落ちている。

まだ、今のルカなら止められる。


俺はとにかく考えた。ルカを止めるすべを――。


「(きっと何かあるはずだ……! 考えろ……!)」


俺が考えているとレオルは穏やかな表情をしてルカをみていることに気付いた。

殺されるかもしれないというこの状況で、だ。


というか……この状況は明らかにおかしい。

全軍がひれ伏す状況を作ったのにも関わらず、領土は一切、要らないと言い張り、そして、自分達の領土もくれてやるなどと言う……。


この戦争に何か裏がある。俺はとにかく頭をフル回転させる。


そもそも、ゲレーダとリテーレの戦争はなぜ、起こった?

そして、兵糧攻めの戦略。それからデオルト川での戦略の謎。

それにレオルはなぜ、ゲレーダ領主の安全を約束させた?

そして、あの最後の言葉の意味は?


すべてが繋がっていく。

俺はルカから目線を外し、レオルに語りかけた。


「今から一年半前の領土戦争の時、本当はリベルトは死ぬはずじゃなかったんじゃないか?」

「……何を急に」


レオルは口を閉じた。目を逸らし明らかに動揺している。

そして、続いて俺はこう問いかけた。


「なぁ、レオル。アンタ、もしかして反乱を起すつもりだったんじゃないのか?」

「何を馬鹿な……私にそんな力があるとでも言うのか?」

「だから、リベルトという駒が必要だった……違うか?」


それを聞いたルカはどういう事なのか分からず、俺の方を向く。


「そのような事はない! 気にせず、私を殺して復讐を――」

「あくまで! あくまで……俺の推測だが、この戦いの裏にあったのはゲレーダ領の解体、内乱に向けた工作だったんじゃないのか?」

「何を! そのようなことがあるわけがないだろう。実際に私がリベルトを倒したのは事実であるし、それにリテーレ領内に魔術収縮陣を張ったのだって――」

「だから、余計におかしいんだ。最初は兵糧攻めの戦法だと俺も思ったさ。それなのにお前は俺が来る前……つまり、ルカが領主をやっていた半年の間、軍を動かさず、傍観を決め込んでいただろう? そんなのは戦略とはいえない! そして、極めつけは、半年前のリテーレ侵攻の時、領主と意見が衝突してお前は軍を抜けた。策を仕掛けて抜ける馬鹿がどこに居る! とにかく、すべてにおいて辻褄が合わないんだよ!」

「そ……それは……」


完全にレオルは黙りこくった。無言は肯定と受け取れる。

レオルは口下手なタイプではなさそうだし、本当にリテーレに侵攻してくるつもりだったなら確実に反論できるはずだ。それにあんな規格外な奴が攻めて来ていたら当の昔にリテーレは滅んでいる。


つまり、俺の推測は確証に変わった。


当のルカはレオルが軍を抜けていたことをここで始めて知り、鋭い視線をこちらに送ってくる。正しく「私、そんなの聴いてない」みたいな視線だ。

俺は再び、ルカの方に視線を戻して語りかけた。


「つまり……だ。コイツはリベルトをゲレーダ領の領主にしたい……そう思っていたんだよ」

「意味が分かりません! なんで、そうなるんですか!」

「理由は……ルカも知ってのとおり、領民に圧政を敷いて領民をないがしろにしていたからだろうな。トリー・ゲレーダを失脚させ、リベルトをその席に入れようとしたんなら、それも説明がつく。領民に慕われるその存在が必要だったってことだ。だが、それ以上の事はコイツ本人から聞くしかないだろうな」


そこまで言うとルカは剣先をレオルの目に近づけ、脅すように叫んだ。


「レオル・エバース! 一体、何があったのか教えて……教えなさい!!」


レオルはルカの悲痛な叫びに心を打たれたのか。ふぅーと息を吐いて語り出した。


「確かに今、彼が言ったように私は君の父、リベルトをゲレーダの領主にさせようとしていた。……トリーが民を重んじない重税を課し、自分が神様で在るかのように振舞っていたからだ。もちろん私も幾度と無くいさめようとしたが、聞く耳を持たなかったのだ。だから、トリーを領主の座から引きずり落とさねばならなかった。故に、あの戦地でその話をリベルトに打診したのだ」

「ならば、なぜ! なぜ……あなたが生きていて、父だけが死ななければらなかったんですか……!」


ルカの反論はご最もだ。デオルト川での決闘でけりがついていた話だ。


「我、領主トリーはリベルト様を……『最強の魔術師』を妬んでいたんです」

「ま、まさか……! 私の父への攻撃は……!」

「本来なら、あの場でリテーレが降伏する手筈だった……それなのにトリーが兵士達に矢を放つように命じてしまったんです……。それが事の真相です」


レオルは目を閉じてゆっくりと確実な言葉で話した。その顔は悲しげで申し訳なさが色濃く見える表情だった。ルカはその真実を聞き、剣先をレオルに向けながら呆然としていた。


「あなたが……父を殺していない事は良く分かりました。でも……その原因を作ったのはレオル! あなたです!」


まずい。そう思ったときには体が動いていた。

それはひとえに、ルカに人殺しをして欲しくない。

ただ、その一つの思いで俺は駆けた。


「だから、ここで死になさい!」

「殺しちゃ駄目だ! ルカ!」


間一髪の所でルカの体に体当たりを食らわせ、レオルから引き剥がす。

だが、それでもルカは諦めない。立ち上がり俺に鋭い目線を向ける。


「達也さん……どうして邪魔をするんですか!」

「ルカ、約束を忘れたのか? 殺しはしないって約束しただろ!」

「何度も言わせないでください! それとこれとは違うんですよ……。退かないというのなら……」


ルカは剣先を俺に向ける。その気迫は本物だ。

だが、俺は何があっても退く事はしない。


「(ルカの剣さえ、何とか出来れば……)」


俺は冷静にその剣筋をみる。短剣は短い故に、手を掴んで捻り倒すしかない。

だが、相手はそれなりの剣術も携えているルカだ。真っ向勝負では分が悪い。


(ここからは駆け引きで勝つしかない……!)


簡単に行くかどうか分からないが、それでもやるしかない。

俺は覚悟を決め、懐から長剣を抜いた。すると、ルカの視線が一瞬グラついた。


「どうした? お嬢様気取りだったくせに今更、びびってるのか?」

「言いますね……? 本当に怪我をしても知りませんからね!」


ルカは右手に短剣を持ち、俺を目掛けて駆けてくる。


(それでいい……。挑発に乗って突っ込んで来い)


俺はそれに対して正面に剣を構える。


「(最初の一撃で勢い良くスピード重視で決めに来るはず! その一撃を受け止められれば……!)」


ルカは左側から右側に切り込むように猛スピードで一閃。


キィーーン!


強い金属音が鳴り響く。

だが、ルカは靴底を滑らせながら左後方から剣の刃先を横にして突っ込んでくる。


(そういう攻撃になることは予測できてる……!)


そこで俺は早口で言葉を紡ぐ。


「<天の理・我が脈動を以って・祝福せよ!>」


俺は身体強化を体に掛け、ギリギリの所で剣先を交わす。

それと同時に通り過ぎるルカの右肩を掴んだ。


(よし! 次は振り替えしが来る……!)


当然、勢いがついているルカはその勢いを殺され、同時に右手の剣を振り替えして攻撃をしてくる。だが、当の昔に見切っていた俺はそれを手で押さえ込み、そのまま地面にルカの体を倒した。もちろん、腕が伸びている状態で落ちるため、それなり痛みがに走る。


「あぐっ……!」


ルカが悲痛な声をあげる中、俺は体をがっちりホールドする。

後は剣さえ、手から落ちればこちらのものだ、


「ルカ! 剣を離せ! 離さないとますます、痛くなるだけ……だぞ!」

「いっ……! 痛ぁい……!」


ルカはさすがの締め上げに負けを認めたのか、剣を捨てた。

この時だけは祖父から確保術を教わっていて良かった。そう思ったのだった。


俺はルカの捨てた剣を遠くに捨てた後、俺はルカを解放し真正面から少し怒るように言った。


「良く見ろ! あいつは死にに来てるんだ! この意味、分かってるのか?」

「そんなの知る必用なんてない! 殺して欲しいなら望みどおり――」

「コイツを殺せば確かにルカの復讐は叶うだろうさ。だけど……ルカは一回、ぽっきりの殺しで万々歳なのか?」

「そんなの当たり前じゃないですか……父の仇なんですよ!」


ルカは両手に握りこぶしを作りながら、そう言い張った。

だが、殺すことこそが何も復讐ではない。


「(本当は……こんな手段使いたくないし、ルカに嫌われるから嫌だけど……理解させるためにはコレしかない)」


俺は覚悟を決め、闇を吐きまくるように言い始めた。


「ああ、そうか……! ルカの復讐ってやつはたったそれだけ、一回ぽっきりの事で満足なのか……安いんだな、ルカの復讐ってやつは」

「何が安い……ですって?」


ルカは恨むような、殺してやるとも見えるような目でこちらを見る。


「一回、殺したら終わりなんていう復讐劇に何の意味があるっていうんだ? 悲しんだのは一時だけなのか? 復讐して殺せば簡単に忘れ去られるものなのか? 俺ならそんなのはごめんだね。深く、もっともっと深く反省させて、一生悔ませてこの世から退場させなきゃ気が済まない」


ルカは目線を下に落とした。恐らく、自分の中で自問自答しているのだろう。

殺すことこそがすべてなのか? それとも生かすことが復讐になるのかを――。

そして、ルカは口を開いた。


「殺す以外にどんな……どんな復讐の方法があるっていうんですか?」

「うーん、そうだな。トリーは奴隷商に引き渡すとかかな? レオルは他領に流れれば戦争の火種になるし、うーん……そう! 魔術道具をひたすら作らせるとか、薬の実験体になってもらうとかかな?」


ルカは俺の話を黙って聞いた後、納得したのか肩の力を抜いて薄ら笑いを浮かべ始めた。


「……最初から父はこうなることを読んでいたんでしょうね。私もまだまだ子どもですね」


正直、どうなるか分からなかったが、ルカの心は決まったようだ。

ルカはレオルの元に行って鋭い視線を向けて手錠を嵌めた。


「あなたを殺しはしません……。その命、誰かのために犠牲となって死んで行きなさい。それが私の……いえ、わたしの父の復讐です。苦痛はこれからですから覚悟しなさい――」


こうして、ゲレーダ領とリテーレ領の戦いに幕が落ちたのだった。










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