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姫は愚者だが、領主は平和を望む  作者: LAST STAR
リテーレ領とゲレーダ領
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第35話 アンカル領の動き

ミルドが経済長官へ就任して数週間が経過した。

ミルドには『出来るだけ早く利益を上げられる方法を考えてくれ』とは言ったものの、連絡や報告はなかった。その一方で俺とルカは西、東の地区の視察に向かいながら魔術の練習を積む毎日を過ごしつつ、陽動作戦を仕掛けたアンカル領の出方を見ていた。


そんな日の朝、マレルから吉報と嬉しくない情報が俺の元にもたらされた。

吉報は『転移陣が完成した』ということだった。これにより大規模な軍でも一瞬で最前線まで到達することが出来る。


「よし、これでゲレーダに対抗することは何とかできるだろうが……」


俺は次の文を見て頭を抱えた。アンカル領が不穏な動きを見せている。


アンカル領の旗をつけた騎馬隊500がリテーレ領内に向けて進発しているらしい。

隠者率いる小隊が監視しているからどこに居るのかについてはすぐに分かるが、意図が全く分からない。


いくらアンカル領が馬鹿でも、戦争を吹っかけるならもっと大軍でやってくるはずだ。たった500の騎馬隊で突っ込んでくるはずが無い。


それについてはルカも同意見だった。


「達也さん、こちらも兵力を西に出しますか?」

「念のために派兵して、俺たちもそっちに向かおう。他の要所が手薄にならない程度に」

「かしこまりました。では、すぐに用意します」


緊急事態に動じることなく、俺とルカは各々、用意を進めた。そして、数時間後には騎馬300が護衛兼戦力として俺とルカの直営に回ったのだった。


「前衛、出陣!」


ルカがそういうと騎馬隊が隊列を組み、西の砦へ向け、走り出した。

ゲレーダ領によるリテーレ侵攻後、西と東には他領土と隣接する形で砦が築かれている。ルカが言うには砦自体はフェィーリスの劣化版みたいなものなのだそうだ。

実質、その砦が落ちれば、実害がリテーレ領内に及ぶことになる。


「急ぐぞ!」


俺の掛け声でみるみる速度を上げ、小一時間ほどで砦へ到着した。

そして、砦に到着してから30分も経たないうちに偵察の任務をしていた隠者から一方が入る。


「まもなく、アンカル軍が目視できる街道に出ます」


よし、ここだと言わんばかりに城壁に張り付いている兵士に俺は指示を出した。


「アンカル軍が来るぞ! 全員、弓矢を構えろ! 曲射で地面に刺さるように弓矢を放つ! 準備しろ!」

「え!? 弓矢を放つおつもりですか!?」


ルカは俺の声にびっくりする。だが、これはあくまで攻撃ではなく「これ以上、近づいたら攻撃するぞ」という意味での威嚇射撃だ。そのため、わざと弓矢を曲射し、地面に刺さるように撃てと指示を出している。


「構え! ――――放て!!」


俺の号令で一斉に数百本の矢が放たれ、地面に刺さった。

さすがにそんな目立つモノがアンカルの軍から見えないはずがなく徐々に減速し、やがて止まった。アンカル軍の動きが止まってからしばらくして騎馬一騎が砦へ近づいてきた。


「アンカル領の領主、アルビレス様からの書状である! 門を開けよ!」


さて、どうしたものか……。

あちらが戦争を起すつもりなら、無闇に門を開ければ突撃される可能性もある。


「……門は開けるな。鉄格子の隙間からもらってくれ」

「はっ!」


すぐに兵士がその指示通り、書状を受け取り戻ってきた。


「(さて、中身には何とか書いてあることやら……)」


その中身を見るとそこには『リテーレ領に協力するため、領主自ら騎馬隊500騎と共に話し合いに来た。砦を通過させてほしい』ということが書かれてあった。


「よし! これでリテーレ領も一安心だ」

「つまり、コレってこちらの思惑にアンカル領が乗ったってことですよね!?」

「ああ。これで活路が見えてきた」


ルカもその文面を横から盗み見ながら興奮していた。

アンカル領が共闘の話に乗ってきた事で実質、リテーレとゲレーダの戦いの中にアンカル領を巻き込むことに成功したのだ。だが、コレはあくまで始まりに過ぎない。軍備について話し合ったり、戦略に関する話し合いなどを進めなければならない。とにかく時間が今はない。


「よし、城門を開けてやれ、それと、ここでゲーレダの領主と対談をするから、その用意も頼む」


俺とルカはテキパキと兵士達に指示を出し、アンカル軍を砦内に招きいれた。

しかし、それも束の間の出来事だった。


アンカル軍が砦内に入ったところでヒューン! と音を立てて緑色の煙球が空に撃ちあがったのだ。そして、次の瞬間、後方から凄まじい爆発音が鳴り響き、黒煙が上がった。


「うそ、でしょ……リュナの街が!」


ルカやリテーレの兵士達が動揺する。あまりに突然の事態に全体がリュナの方を呆然と眺める。そして、悪夢は更に続く。


「今だ! かかれ!」


その掛け声と同時に砦内に招き入れたアンカル軍の兵士は一斉に抜刀し、リテーレ軍に襲い掛かった。


「バカな……! なぜ!?」


俺も突然の事態に頭が回らない。だが、アンカル軍が攻撃を仕掛けてきたのは明白だ。となれば、もう降りかかる火の粉を払いのけるしかない。俺はあらん限りの声で城壁から叫んだ。


「リテーレ軍に告げる! アンカル兵を殲滅せよ! 数は高が知れている! 砦の外に押し出せ!」


リテーレ軍も突然の奇襲に動揺するも抜刀し、乱戦に突入した。

俺は、ルカとともに城壁へ上って来る者たちを魔術で無力化していく。


しかし――――。


「領主様! 申し上げます! この砦におよそ1000人規模のアンカル軍が接近中! およそ10分で到達するとの事です!」


新たなる敵の増援が迫っているとの一報を受け、戦局は大きくアンカル軍に傾いた。兵数は差ほどないにしろ、敵軍が人数では勝っている。その上、砦が落ちれば平地を撤退しなければならず、多くの兵が弓矢の攻撃を食らうことになる。となれば、早期の撤退も視野に入れなくてはならない。


「達也さん、ここは退きましょう! ここで粘っても兵を無闇に減らすだけです!何の得もありません!」

「敵兵力の総数1500……」


冷静にみて、さすがに800人程度の兵力で凌ぎきれるレベルじゃない。ここが山岳地帯や森林地帯であれば、小隊に分けてヒットアンドウェイで減らすことも出来るだろうが、ココは平地だ。ここは砦を失ったとしてもルカの言うとおり撤退すべきだろう。


「よし、全軍――――」


そこまで言いかけたときだった。

コミラートがカチン、カチンと鳴り響いた。その通信相手はミルドだった。


「良かった! 達也様、無事でしたか! まもなく2000の兵力でそちらの砦に到着します!」

「え……2000!? こっちに向かってきてるのか!?」


俺は理解が追いつかなかった。リュナの街には500人程度の兵力しか置いていなかったはずだ。それなのにミルドは2000の兵力で向かってきているという……全くもって意味が分からないが、それが事実なら巻き返せる。


「本当に、2000の兵力で来るんだな!?」

「私は嘘はつきません! 信じてくださいませ!」


その瞬間、俺は決意を固めた。ここでケリをつけると――。


「ミルド、俺たちは何とか開いているアンカル側の城門を閉めに行く。ミルドは砦に着き次第、入り口を確保して砦内のどこかに居るアンカル領の領主を探しだして無力化しろ! この際、生死は問わない!」

「承知しました! 達也様、どうか、ご武運を」


そこで通信は切れた。俺は声を張り上げ、周りに指示を飛ばす。


「全軍、開いている城門まで進軍するぞ! 俺たちに続け! 押し返すぞ!」


俺とルカは互いにカバーするようにして城門へと向かいつつ、敵兵士を無力化していく。とはいえ、乱戦だけに接近して呪文を放つという危険な戦闘が続いた。


「ひるまないで! 城門を取り返すのよ! くっ……」


俺とルカの魔術の効果もあり、あと少しのところまで到達するが、ルカが辛そうな表情を浮かべ、片膝を地面に付いた。まだ完全ではないマナ濃度であるにもかかわらず、魔術を発動したせいだ。


「ルカ……! 大丈夫か!?」

「何とか……大丈夫です」


ルカがそう言いつつ、立ちあがった瞬間だった、


「危ない!!」


ルカが体当たりで俺を後方へと吹き飛ばした。気付けば目の前にはルカの姿は無く、うめき声が聞こえる方に目を向けるとそこには光の矢が腹部と肩に刺さり、壁にぶら下がりながら悲痛な声を上げるルカがいた。


矢が飛んできたであろう方向に目を向ければ左手をこちらに向けて歩いてくる男が居た。その男の相貌は鉄のボディーメイルに黒マントというイカつい戦士といった感じだ。


「惜しかったぜ……。あと少しで領主の首(アタマ)れたっていうのにガキめ……邪魔しやがって」

「っ……!? アルビレス……!」

「ほう? リベルトのガキだけに俺の名前は知ってたか」


ルカは鋭い目線でアンカル領の領主、アルビレスをにらみつけた。


「何だ? その目は! 教育が必要みてぇだな! <光の刃よ!>」

「てめぇ、こっちを無視してんじゃねえよ! <クイックキャスト!>」


俺は防御呪文が練りこまれた緑の魔法石を起動してルカを庇う形で立ちふさがった。突然、攻撃を仕掛けてきた上にルカに対してガキだの何だのと上から目線でほざくアルビレスに心底、頭に来た。


それにここで奴を、アルビレスを狩ればすべてが終わる。


「ガキだの何だのって! さっきから随分、上から目線じゃねぇか!」

「あ? 壁に刺さってるガキより弱ぇお前が出てきてどうすんだよ。このガキが!」

「さっきからガキ、ガキってうるせえつってんだろ! なぜ、リテーレに攻めこんできた!」


俺がヒートアップするとさらに見下した視線を俺に向けた。俺はそっと腰に手を回し、魔術石を手にする。


「はぁ……俺だってこんな面倒な戦争なんて、ごめんだったんだけどよ? 立場もわきまえねぇクソッタレが俺に対していかにも対等ですって言わんばかりの文面を寄こしたからよぉ……! <クイックキャスト>」

「なっ……!」


突然、アルビレスの腰から魔法石が落ち、股下から光の刃が俺に肉薄する。


「達也さん……!」


ルカが悲痛な叫び声を上げたときだった。


「<クイックキャスト>」


気温をグッと下げるような冷ややかな声が響き、俺に向かってきた光の刃は寸前のところで防御された。


「ご無事で何よりです。達也様」


横を向くとそこにはマレルが立っていた。


「申し訳ありません。“閉める”のに手惑ったもので遅くなりました」


その言葉を聞いて城門の方をチラッと見ると城門はきっちり閉まっていた。


「マレル、ありがとう。マレルが居なかったら絶対、死んでたよ……俺」

「……後はお任せください。達也さんは成すべきことを」


マレルはルカのほうをチラッと見た。


「ああ、わかってる。後は頼んだぞ!」

「はい……。この命に代えても」


少しマレルの顔が赤くなったような気がしたが、恐らく気のせいだろう。眼が完全に殺気立ち、視線がアルビレスに向いている。


俺はマレルにアルビレスを任せ、急いでルカへ近寄り、言葉を紡ぐ。今の俺には、数週間の特訓もあり発動すべき呪文が手に取るように分かる。


「<天地の理よ・摂理の業を以て・無の理を此処に示せ!>」


すると、ルカに刺さった矢は霧散し、ルカが落下してくる。

俺はその体を受け止め、地面に下ろした後、更に言葉を紡ぐ。


「……<癒しの精霊よ・栄光の光を以て・かの者を癒せ>」


ルカの体を直すために体の中のマナに意識を集中させていく。


「申し……訳ありません。リテーレ最強とか、言われていたはずなのに……」

「今は少し黙ってろ。というか、そんなこと気にしなくていい」


俺は持てる力でルカに治癒魔術をかけ続ける。その一方でマレルは……というと一進一退の攻防を繰り広げていた。


そんな中、遂にミルド率いるリテーレの増援が到着した。


「全軍、突撃せよ! 狙うのはアンカル領の領主、アルビレスの首! ただ一つだけだ!」


一気に押し寄せたリテーレ軍の増援に成すすべも無くアンカル軍は崩壊して行った。そして、逃げようとするも城門が閉まっているため、逃げ道が無く一方的な殺しへと発展して行った。


頼みの綱であったであろうアンカル軍の増援部隊も城壁からの弓矢と魔術攻撃により圧倒され進行できず、一対一だったマレルの元にも増援が駆けつけ、一瞬で勝負が決したのだった。


この戦いで敗北したアルビレスは体の至る場所を切り刻まれながら捕縛され、見るも無残な姿になっていた。


「チッ……! なんでこんなに早く増援が着やがったんだ……!」

「さあな? 俺もさっぱりだ」

「はぁ? 領主がしらねぇとはな……」


アルビレスはあきれた顔を見せた。そのタイミングでちょうど、この絵を描いたであろうミルドがやってきた。ミルドはどうやら話を半分聞いていたらしく、アルビレスの前にちょこんとしゃがんで殺気染みた言葉を放つ。


「……教えてやろうか? そのアホな頭の中にしっかり聞き残して置けよ? 分かったかクズが……!」


ミルドがキレている。一体、何があったのか俺はまだ分からなかったのだった。


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