二日目-9
僕らは他愛ない話をしていると、ようやく先輩が戻ってきた。
背中に大きなリュックを背負い、片手にもビニール袋を持っている。
「ふぅ…結構大変だった」
「それ、どうしたんですか?何かたくさん物を持ってきたみたいですけど」
「ふっふっふっ…聞いて驚け、こいつは肉だ!」
「…お肉?」
気の抜けたような唯の声に先輩は負けじとリュックを下ろし中身を取り出した。
中からは組み立て式の器具が出てくる。
これは…
「そう、バーベキューをしよう!」
「おにく~」
まみこちゃんは大喜びだ。
「折角俺たちは出会ったんだ。親睦を兼ねてこういう催しも悪くはないだろ?」
先輩は目線で同意を求めてくる。
なるほど、そういう事なら同意するに決まっている。
「ええ、全然構わないですよ。むしろ大歓迎!」
「コンビニ弁当ばっかりじゃ味気もないしな、みんなもいいか?」
「バーベキューか…若い頃はよくやったもんじゃのぅ。私も歓迎するぞー」
「おにっく~」
「みんなが…いいなら私も…文句ない」
全員満場一致で歓迎の言葉を出す。
さすがは先輩だ。こんな事を即座に思い付いて実行するなんて。
「幸い素材なんかは幾らでもあったし、使わないと勿体ないだろ?とはいえ、なんか品薄だったのか揃えるのに苦労したけど」
「まみこちゃんや、私が焼いてやるからたんと食うんじゃぞ」
「わ~い!」
「はははっ、みんな大喜びだな。聞いちゃいねえ」
先輩は満足そうだ。
現状は辛い状況のままだけど、やっぱり気分は沈めちゃいけない。
士気を高めるという意味ではこの上ないアイディアだ。
僕は先輩の元に駆け寄ると、準備の手伝いを買って出た。
「ああ、皿とかはコップはコンビニの紙皿とかを使おう。厚川悪いが持って来てくれ」
「…分かった」
「浩人は炭の用意を。俺はコンロや網の準備をするよ」
「了解です。ちゃっちゃとやっちゃいましょうか」
僕らは足早に準備に取り掛かった。
コンロや炭火焼きセットを駐車場に設置し、食材を取り出してすぐ使えるようにする。
先輩は抜かりがなくてトングや割り箸、更には串なんかもしっかりと持って来てくれていた。
ホームセンターで器具を、スーパーなどで肉や野菜をそれぞれ調達してきたらしい。
流れで手伝う事になった唯は、食器を持ってきた後野菜などを串に刺す係に任命。
不器用ながらも頑張ってくれていた。
僕は炭を使いやすいように砕いたり、コンビニから飲み物を取ってきたりした。
山下さんはまみこちゃんのお守りをしてくれている。
準備が終わると僕らはすぐに焼き網の周りを囲んだ。
先輩は鍋奉公ならぬバーベキュー奉公となって積極的に焼き作業をしてくれた。
僕らはおいしい肉や野菜を存分に味わい、みんなで楽しい夕食を過す。
緊張感に欠けた雰囲気だったけど何も問題ない。
逆にみんなリラックス出来たと思うし、本当に楽しかった。
僕らは食べ終えた後、駐車場に座り込む。
楽しかった余韻に浸るとともに談笑した。
「しかし先輩は機転が利くというか…さすがですよ。まさかバーべキューをするなんて」
「まあな。こうやって知り合えたんだ、交流記念ってのもあったし上手く行ってよかったよ」
「せんぱい…楽しかった」
「厚川にそう言われるとやってよかったって思えるな!」
唯もさっきの不思議な事は忘れたようで、リラックスした柔らかい表情を見せている。
先輩のタイミングも絶妙だったと言えるだろう。
「仁君のおかげで非常に美味い夕食になったわい。のう、まみこちゃんや?」
「おにっく~おいしかったよ~!お腹いっぱい!」
「喜んで貰えたのは何よりだな。また機会があったらやろう」
「そうですね、こういうのは大勢でやるから楽しいし」
陽も傾きもうじき夜が来る。
僕らは別れる前にある提案をした。
「それじゃ…じゃんけんってことになりますね」
「うむ。負けんぞ!」
「さ~て、運命やいかに!」
まみこちゃんを取り囲んでのじゃんけん勝負。
僕らは今日まみこちゃんがどこに泊まるかを賭けて勝負することになった。
唯だけは参加しないみたいで、結局男三人でやることになる。
「じゃ~んけぇ~んッ!ポンッ!!」
僕はグー。山下さんもグーだった。
「ん~ということは今日は俺の勝ちってことだな」
先輩は気合のグーではなく普通にパーだった。
ぐぬぅ…勝負事もやっぱり強いのか。
「ぬおぉぉ!すまんまみこちゃん!負けてしもうたわい」
「おじいちゃんとはまたこんどだね~」
「ううぅ…次こそは勝つからの!今夜は寂しく枕を抱いて寝るわい…」
山下さんは本気で泣いているようだった。
そこまで悲しいのか…。
けれどその光景は微笑ましいもので、少しだけ笑ってしまった。
「こほっ…こほっ!」
「おっと、そういえば体は大丈夫なのか?風邪気味っぽいけど」
「うん、だいじょぶ…!ただのかぜ…だとおもう」
「無理しちゃ駄目だぞ?辛かったらすぐに言うんだからな?」
出会ったときからまみこちゃんは何度も咳をしている。
元気だと取り繕ってはいるけど、本当に大丈夫なのだろうか?
今日もずっと走り回っていたくらいだから問題はないだろうけど、最初よりも回数が多いしやっぱり心配になる。
「先輩。まみこちゃんの体調だけはしっかり見ててあげてくださいね」
「ああ、任せておけ。後で薬局にでも行って薬を貰ってこよう」
「おくすり…嫌い…」
「大丈夫だよ、最近の風邪薬は飲みやすいように甘いからね。苦くなんてないよ~」
薬という言葉を聞いた瞬間まみこちゃんの表情が曇ったが、それとなく僕がフォローしておく。
やっぱり子供って薬大嫌いなんだよね。
苦いって先入観が抜けないのはしょうがない。
僕は先輩に近づくと、耳打ちするように一つ注意を促した。
「…先輩、まみこちゃんは小学生ですからね。…変な気は起こしちゃ…駄目ですよ?」
「なっ…するかっ!コンニャロォ!」
僕はチョークスリーパーを食らい、羽交い絞めにされた。
勿論先輩も冗談ということは分かっているので強くはない。
けど唯だけは慌てふためいて同様し始めたので、すぐに開放された。
「…お前こそ厚川とよろしくやるんだろ?ニヤニヤ…」
「そっ…そんな事はないですよっ!唯と僕は別に!」
「ははははは!!予想通りの焦りっぷりで面白いな!」
先輩は一人高笑いだ。
お陰で僕は変な想像をして顔が真っ赤になってしまった。
「青春じゃのぅ…」
「せい…しゅん?」
「まみこちゃんも大きくなったらいずれ分かるよ」
山下さんは他人事だと笑顔で眺めている。
「浩人…楽しそう。瀬上…先輩の…おかげ」
唯も表情こそ変えないものの、凄く楽しそうだ。
こんな訳の分からない現状になったけれど、今日だけは…この瞬間だけは、僕はここに居られて良かったと心底思った。




