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二日目-7




コンビニから離れ、住宅街へと足を伸ばす。

唯は女の子らしくゆっくりとした足取りだ。歩幅を合わせないと僕が一人抜きん出てしまう。

何だか自分からは話しかけにくい雰囲気になっているからか、会話が弾まない。


「あ…あのさ、この前この町が好きって話をしたけど、唯はどうして好きなの?何か特別な思い入れでもあったりするんだ」


「…そんなんじゃない」


「えっと…」


どこか態度が余所余所しい。本当はこの話題って触れられたくなかったのかな?


「思い入れなんてないけど、この静かな町は…大好き」


「静か…か。唯って物腰も柔らかいけど、やっぱり騒々しいのって苦手なのかな?」


「うん…うるさいのは正直嫌い…」


苦手じゃなくて嫌い、か。


「浩人は…嫌いじゃないよ」


顔色を読まれたのか唐突にそんな事を言い出す唯。

彼女なりに気を遣っての事なのだろうか?


「そ…そう?でも僕って結構うるさくないかな?」


「浩人は平気…。私の話もちゃんと聞いてくれる…嘘も吐かない」


「そっか、唯は僕の事そんな風に見てくれてたんだね」


「大人はみんな嘘吐きで…自分の事しか考えてない。けど浩人は別…自分の言葉で話してくれてる」


唯は立ち止まり、僕の目をじっと凝視してきた。

本来なら女の子に見つめられるなんて、それは恥ずかしいし免疫薄い僕には照れる事。

だけどどこか怖い感じすらした。全てを見透かされているかのような、突き刺さった視線。

けれどその視線を僕は外す事はしない。

いや、何故か出来なかった。


「ありがとう。僕はそんな大層な人間じゃないけど、そうやって言われるのは嬉しいよ」


「浩人は…やっぱり特別」


「あ…」


その時初めて唯が『笑った』気がした。

口元の微々たる変化だったけど、確かにそう見えたのだ。


「唯は大人が嫌いなの?」


「…多分、大嫌い」


「大人って平気で嘘を吐くから?」


「うん…。みんな自分勝手な人ばかり。私の事なんて…誰も何も考えてくれない…」


「確かにそうかもしれないね。けど僕だってそう思うときもあるけど、やっぱりみんながみんなって訳じゃないと思うよ」


「……………」


「ついさっき隣町で大人の人に会ったんだけど、その人も自分自身に嘘を吐いていかないと生きて行けないって言ってた…。もちろん人の数だけ色んな事情もあるだろうけどさ」


「浩人は…何でそんなふうに考えられるの?」


「僕だって…正直自分でも分からないよ。けど誰かの事を解ろうとしたら、その人の事を知ろうとしなきゃ無理だから…多分こうなっちゃったんだと思う」


「その人の事を…知る…?」


「そうだよ。例え嘘を吐いていると分かっても、何でそんな嘘を吐いたのか考えたりとか。解釈の仕方で考え方も変わってくると思うんだ」


唯は真剣に僕の話を聞いてくれている。

歩く事も止めて、体まで僕の方を向いていた。


「もちろん、これは僕だけの考え方だから唯は唯の考えもあるよね?だから唯が嘘が嫌い大人が嫌いっていうのも、僕はそれを否定したりしないよ」


「うん…やっぱり浩人は凄いね」


「あはは…そんな大層なものじゃないよ。ただ僕がこういう人間ってだけだと思う」


唯はそれきりしばらくの間黙り込んでしまう。

何を考えているのかは分からないけど、時折ブツブツと独り言を発している。

これは彼女の癖なのか。

一人でいる事が好きと言った唯。当然長い時間を彼女はそうやって過ごして居たんだろう。

独り言を呟くというのは必然の事柄だったのかもしれなかった。


「唯?」


「ごめんなさい…私また…」


「いいよそんなのは。大丈夫かい?」


「うん…平気だから。色々話してくれて…ありがとう」


「そっか、ならもう少し歩こう」


特に顔色が悪いといった訳でもなかったので、僕は散歩を続けようと先導するように歩き出した。

このまま立ち止まっていても埒が明かないし、背中を押す意味合いで手を引くように。

何かを抱え込んでいるのは様子から察するに分かるけど、それを無理に問い質すのは僕のやり方じゃない。

待っていればきっと、向こうから話してくれる。そんな気がした。


「そろそろ戻ろうか?まみこちゃんが目を覚ましてたら不安がっちゃうかもしれないし」


「…うん、そうだ…ね」


「山下さんもどこ行ったのか分からないし、いつ頃戻ってくるか聞いてないかな?」


「私…聞いてない」


「そっか。ん~せめて時間くらいは聞いておくべきだったかなぁ…先輩が何かやるって言ってたけど、時間までに戻ってくるのか」


「あれ…」


いきなり唯が驚きの声を上げた。

何事かと思ったけど、特におかしな様子もない。

唯が見ている先はただの不動産屋の建物だった。


「どうしたの?」


「何で…」


唯は一歩後すざりをした。

目の前の何かを怖がるかのように。


「ゆ…唯?大丈夫かい?」


「何で…何でここ…」


「そこの不動産屋がどうかしたっていうの?」


震える手で建物を指差す。

それは少し尋常じゃない様子に見えた。


「だってここ…昨日まで空き地だった…」


「えっ!?」


まさか。

ここは昨日も僕は通ったけど、ずっと不動産が建っていたはずだ。

別におかしな事じゃないはず。

けれど唯の表情はありえないことへの恐怖を表している。

どういうことだ…?


「何を言っているの…?ここにはずっとその建物があったじゃないか」


「そんな!そんなはず…ない!」


強い口調。

それは出会ったときと同じ雰囲気だった。

僕が何者かも分からず、拒絶していたときと同じなのだ。

つまりそのくらい困惑している。


「浩人…嘘言わないで…」


「ち…違うよ!僕は嘘なんて吐いてない。ここにはずっとその建物はあったし、空き地なんかじゃなかったんだ」


「どういう…こと?」


「僕にも分からない。けどその様子からすると唯だって嘘吐いてるって訳でもないんでしょ?」


「…うん」


「見間違えとかじゃないのかな?気にしないほうがいいよ」


「浩人…」


僕は咄嗟にそんな言葉を吐いていた。

もし唯の言ったことが本当ならば、これも不思議な現象の一つなのかもしれない。

けど今は唯を不安がらせないことが先決だと思った。

彼女はこういった現象を恐れる。

なら今は深く考えさせないほうがいい。

ありえない現象をこの短期間で幾つも経験したからか、僕も多少は落ち着いて考えられるようになったのかもしれない。


「唯、行こう。唯が言った事を疑ってる訳じゃないけど、まずはコンビニに戻ろう」


「うん…」


僕の言葉に唯は素直に頷いてくれた。

煮え切らないのは表情で分かったけれど、同意してくれたのだから助かった。

僕は唯の手を握ると、足早にその場を去った。

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