第35話 影の修繕士 ― 禁忌の兵器
翌朝。
王都への帰路を急いでいた僕たちは、森の中で異様な気配を感じ取った。
鳥の鳴き声が途絶え、風さえ止まったかのような静けさ。
「……何か来る」
ルシアが剣を抜き、周囲を警戒する。
次の瞬間、闇そのものが森の奥から染み出すように現れた。
それは人の姿をしていた。
だが瞳は虚ろで、全身を黒い鎖のような模様が覆っている。
「リオン……」
セリーヌが声を震わせた。
「……噂は本当だった。アルヴェリアは“人造の修繕士”を生み出したのよ」
その存在はゆっくりと手を掲げ、枯れた木に触れた。
すると、木は瞬時に青々と葉を茂らせた。
――修繕の力。僕と同じ力が、そこにあった。
「な……!」
思わず息を呑む。
「対象確認……修繕士リオン」
無機質な声が闇の中から響いた。
「命令――排除」
影の修繕士が腕を振るうと、地面のひび割れが光り、石が組み合わさって鋭い刃となった。
まるで破壊と修復を同時に操るかのように。
「来るぞ!」
ロイが前に出て剣で受け止める。
激しい衝撃に腕が痺れるほどだった。
「リオン殿、これは……!」
ルシアの声が震える。
「あなたの力を完全に模倣している……!」
僕は必死に叫んだ。
「でも違う! あれは“命を繋ぐ”んじゃない。“奪って縛る”修繕だ!」
影の修繕士が再び手を掲げ、倒木や岩を無理やり繋ぎ合わせ、巨大な怪物のような形を作り出した。
黒い光に歪められたそれは、生命の気配を持たない不気味な存在だった。
「守る修繕」と「奪う修繕」。
同じ力を持ちながら、まるで正反対の存在。
僕は強く息を吸い、仲間たちに叫んだ。
「みんな、力を貸して! 僕は絶対に負けない! “修繕”は壊すためじゃなく、未来を繋ぐための力なんだ!」
影の修繕士と僕。
ふたりの〈修繕〉が、ついに正面からぶつかろうとしていた。




