第29話 一時の安息 ― それぞれの胸に灯る光
戦いの翌朝。
村の空は、雲ひとつなく澄み渡っていた。
焼け落ちた家の跡地からは煙がまだ立ち昇っていたが、村人たちの表情には昨夜の絶望ではなく、確かな希望が宿っていた。
「よし、こっちの梁はリオンさんに直してもらおう!」
「いや、俺たちでできる。昨日の力を思い出せば、きっとやれる!」
壊れた家々を修繕するため、村人たちは自ら手を動かしていた。
僕は必要なところだけに〈修繕〉を使い、残りはみんなに任せた。
それが、この村が本当に強くなる方法だと思ったからだ。
広場では、子どもたちが僕の足にまとわりつきながら笑っていた。
「リオンさん、昨日かっこよかった!」
「黒い炎を消したとき、ぼく泣いちゃったけど……ほんとにヒーローみたいだった!」
顔が熱くなったけれど、僕は笑って答えた。
「僕一人じゃできなかったよ。みんなが一緒に立ち上がってくれたから、守れたんだ」
その言葉に、子どもたちが誇らしげに胸を張った。
村長は、井戸のそばで深いため息をついていた。
「……リオン。おぬしが王都へ行ったと聞いたときは、正直不安じゃった。だがこうして帰ってきて、また村を守ってくれた。……おぬしはもう、この村だけの人間ではないのじゃろうな」
その声には寂しさと誇りが混じっていた。
僕は小さくうなずいた。
「ええ……でも、僕の心の中にある居場所は、ずっとここです」
村長は目を細め、しわだらけの手で僕の肩を叩いた。
その夜。
村の復興を祝うかのように焚き火が焚かれ、ささやかな宴が開かれた。
焼きたてのパンの香り、歌声、笑い声――すべてが温かく胸に沁みた。
隣でロイが杯を傾けながら言った。
「……お前の修繕は、物だけじゃなく人の心まで繋いでいるようだな」
「心、ですか?」
「ああ。村人たちの顔を見ろ。昨日まで絶望していたのに、今はお前を信じて笑っている」
焚き火の光に照らされた笑顔たちは、確かに力強かった。
空を見上げると、星が村を覆うように瞬いていた。
(この安らぎを、ずっと守りたい……)
胸の奥で願いを噛みしめたとき、アークレアの低い声が響いた。
「主。安息は一時に過ぎぬ。次なる戦いは必ず訪れる」
「……分かってる。でも、この時間があるから僕は戦えるんだ」
星空を見上げながら、心に小さな灯がともるのを感じた。
それは――再び立ち上がるための希望の光だった。




