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真実の『家族』に気が付いた王妃の時戻り ~王妃エリスは賭け続ける~  作者: 野菜ばたけ
【第六章】第十二節:各所にて(第九賭ざまぁ)

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第79話 没落 ~『協賛店の称号』を貰えなかった大商会の会長視点~



 ガタガタと音を立てて進む質の悪い馬車の中で振り返れば、先程潜った門が見えた。


 王都の外から見るそれは、まるで俺たちを締め出し二度と入れる気がないとでも言いたげに、高く、頑強に聳え立っている。


「お父様ー、お尻痛い―!!」

「何でいつもの馬車と違うの?」


 子どもたちが口々に聞いてくる。

 この子たちの相手はいつも妻の役目だったが、今の彼女はすこぶる機嫌が悪く、王都から撤退するという決定をした日から、俺とも子どもたちとも碌に口を聞いていない。



 それが彼女の物言わぬ抗議なのだという事は、一目瞭然だった。


 昔からこうだ。


 この女は、機嫌がいい時は口が周る。

 お陰で平民でありながら貴族の輪に入り、商会の商品を買い求めたい貴族たちからチヤホヤされる社交場なんかでは、十二分に能力を発揮する。


 いい広告塔ではあったのだ。

 が、それも広告塔足り得る状況が準備できなければ、ただの我儘で浪費家なだけの女に成り下がる。



 みすぼらしく乗り心地も悪い馬車に乗りながら彼女の身に付ける物だけが妙に上等なのは、正に我儘と浪費の結果だった。


「信じられない。この私が、王都から追いやられるようにして居を移すなんて」


 苦虫を嚙みつぶしたような独り言は、馬車の音に溶けておそらく向かい側に座る子どもたちの耳には聞こえていない。

 が、隣に座る俺の耳には、俺を責める感情と共に嫌でも伝わる。



 ……王都でも指折りの大商会が逃げるように本拠点だったこの地を去る事になった原因は、俺にある。


 ――『慈善事業協賛店の称号』。

 先日王都であった『王妃様主催の王都全体を巻き込んだ慈善事業』とやらに協力した店に配られる筈だったそれが、我が商会には配られなかった。


 それがこんなにも悪い反響を呼ぶなど、一体誰が想像したのか。



 たしかにそのタペストリーには、通常は使う事が許されない『国旗の意匠』があしらわれている。


 が、所謂自分の慈善活動に参加協力してくれた店への、王妃様からの感謝の形でしかない。


 もちろん国からの贈与品だから質が悪いというような事はなかったが、売る訳にもいかない代物だ。

 形だけの感謝。

 ただのお飾り。

 その程度の物だと思っていた。


 不正がバレた時、俺は「運が悪い」と思っていた。

 俺の不正を暴きにやってきた王妃様の文官は俺をかなり脅してきたが、あまり深刻には考えていなかった。


 制約にあった『商品の割引分の補填』が城から貰えない事は「勿体ない事をしたかもしれん」と思ったが、そんなの微々たるものだった。

 割引後の値段で売りさばいても、仕入れを考えれば赤字にはならない。

 あの日売れた数を考えれば、十分商売にはなっていた。


 損にはなっていない。

 そう信じて疑わなかったのに。




「大変です会長! また取引先が『これで契約を切る』と!!」


 会長室に走り込んできた部下にそんな知らせを受けたのは、例の慈善事業が終了し、その熱も少なからず冷めたような、しばらく経っての事だった。


 少し前に、例の協賛店にタペストリーが届けられた事も、そういう店々がこぞって店頭にそれを飾った事も、知ってはいた。

 しかし「それが何なんだ」と……協賛店になるにあたっての制約を破ったのがバレた俺は、タペストリーが貰えない現実を、半ば冷笑的に見ていた。


 こんなふうに持ち込まれた悲報にも、「来てもたかが一つや二つだろう」と、まだ甘く見ていた。



 事の重大さに気が付いた時には、もう既に遅かった。


「王妃様の慈善事業の協賛店になっていたのにも関わらず、称号を貰えなかったのだろう? そんなところと懇意にしていると知れたら、我が家も社交場で笑い者になるではないか」

「『お茶会に出させてほしい』? 図々しいわね。ケチの付いた商会を招く事はないわ。私の格が下がるもの」

「君のところの取り扱い商品は、君のところから出なくても買える。今まで君のところを懇意にしていたのは、『看板』があったからに過ぎない。『泥の付いた看板』に、払う金は銅貨一枚もないよ」


 外聞を気にする貴族の顧客たちは、軒並み手のひらを返してみせた。

 これまで散々売ってきた顔も、人脈も何もかもが無に帰した。


 今まではこちらから言わずとも、勝手に着ていたお茶会への誘いもなくなって、商品の宣伝場所を失った。


 我が商会を懇意にしていたのは、「大商会」という看板があったからだ。

 そんな現実を突きつけられて。



 ……俺が後を継いだ時には、既に我が商会は「大商会」だった。

 つまり俺は今までずっと、親の功績の上で胡坐を掻いていただけだったのだと思い知らせた。


 その証拠に、我が商会は大口発注先を失い、小口先だった王都内の店や一般客からも距離を置かれた。



 当然経営は圧迫された。

 そしてとうとう、本店扱いだった王都店を撤退するに至った。



 普通はどこで損が出ても、本店は最後まで残しておくべきなのだろうが、影響が出ているのは王都だけだ。


 他の都市の店舗が受けた影響は、比較するまでもなく少ない。

 それならまだ売り上げの安定している他の店舗を切り捨てた上で、我が商会に対する悪い噂が流れていて数年単位で経営状況が回復しないだろう場所で、無駄に商いをして人件費や店舗維持費を浪費するよりは、王都店だけを撤退させた方が余程損切りが少なく済む。


 そう思って、拠点を移すことを決めた。



「ふんっ、王妃とはいえ所詮は女の影響力だ。たしかお茶会では『今の王妃はお飾りの地味な女』だという話だったし、陛下の寵愛も受けているのも側妃の方だと聞く。他の都市にまでその影響力が広がる筈もない。王都に次ぐ大都市に本拠点を構え直し、そこで再び『王』になる……!」


 そんなふうに再起を誓った俺だったが……。



 その後、複数の大都市で同じ催しが行われると宣言された。


 勿論すべて、王妃様名義。

 その際に再び協賛店として願い出たものの、「一度不正をした商会は参加拒否」と言われ、その後を追いかけてくるかのように、第二の本拠点の周りでも前回の不正に関する話が出回り、俺は再び立場をなくすに至った。

 


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