003 陰と陽の境界線
この作品は東方projectの二次創作です。
原作ブレイク、キャラ崩壊、独自設定、オリキャラ幻想入り、駄文乱文、不定期投稿、そもそもプロットが不完全、その他諸々が含まれております。
それでも構わん! という勇者以外は直ちに『戻る』ボタンを押して、他の小説を検索することをお勧めします。
スキマによる移動は一瞬だった。
一歩を踏み出した夜々を待っていたものは、予想に反し漆黒の闇ではなかった。
それは白だった。視界を覆い尽くす一面の白。夜々はその白の正体が、霧であることを見抜いた。
時間帯は真っ昼間。霧などとうの昔に霧散し、跡形もないはず。なのに、霧は確かに存在していた。
「気温が寒い、ってわけでもないのに。変わった場所ね、紫」
夜々は頭上に視線を移す。
地面より10メートルほど上に、紫はいた。木や建物の上に立っていたのではない、浮遊していた。
「ええ、本当に変わった場所。ここは霧の湖というのだけど、正直なんで霧が出ているのか、私にも分からないの」
「へぇ。紫にも分からないものがあったんだ」
「あるわ。当然でしょう? 私も所詮一体の妖怪。どれほど知恵を付けようと、見聞きできぬものは存在するのよ」
「そう。それにしても、ここが練習場?」
夜々は周囲を見回す。
存在するものは霧と、少し離れた場所にある森。そして、前方に広がる湖。
人気はない。霧の濃度も、戦闘に支障をきたすほどではない。
「なるほど、最適ね」
「ところで夜々? 外では飛ぶ機会なんてなかったと思うけど、どうかしら? 飛び方は忘れてない?」
「大丈夫。問題ないよ」
そう言って、夜々は地面を蹴った。
大した強さではない。夜々は数センチばかり地面から浮き、そしてすぐに着地するだろう。その程度の力加減だ。
だが、彼女の体は浮かび上がったが、落下することはなかった。
どころか停止すらしない。夜々の体は速度を維持したまま、ゆっくりと浮かび続ける。
やがて紫と夜々の目線が水平になると、そこでようやく夜々の体は止まった。
「さすがに、雲の上まで飛ぶような機会はなくなったけど。それでもビルの合間を低空飛行する程度のことは、しょっちゅうだったからね。」
「よかったわ。飛び方を忘れていたら一体どうしようかと」
「……参考までに聞きたいんだけど、忘れてたらどうするつもりだったの?」
「雲の上からスカイダイビング。当然命綱はなしよ」
「……いやはや、日ごろの行いに感謝感激雨霰だよ」
もしもそうなっていたら、と思うと夜々はぞっとした。
「それじゃ、始めようか、紫」
「ええ、始めましょう、夜々」
直後、紫の周囲が歪んだ。
それは紫から発せられる妖力の影響だ。紫の体から発せられるそれが突如出力を増し、周囲の物理法則を乱し、光の軌道を捻じ曲げたのだ。
「まずは、小手調べ!」
歪みがいくつかの塊に収束し、発光。光は膨張し、爆ぜるように分裂した。
光の塊が、いくつもいくつも、雨のように夜々に降り注ぐ。
それがただの光でないことくらい、夜々には理解できた。妖力で作られた、実体を持つ光の弾丸。下手に当たれば、骨折すらあり得るだろうことも。
だから回避する。空中を鳥のように飛び、迫りくる光の軌道から身を躱す。
『防ぐ』という選択もなくはない。が、この程度なら防ぐより避けた方が消耗は少ない。
夜々はその眼と、耳とで弾幕の全容を把握、その軌道を計算して回避する。
どこをどう避け、どこにどう移動すれば無傷で済むか。その答えをはじき出した彼女に、苦悩などあるはずがない。導き出された軌道をなぞるだけでいいのだから。
「……まあ、でも」
これがたとえ、紫の言う通りの、単なる小手調べだったとしても。
あの八雲紫が、避ければ済むような単純な攻撃を仕掛けるはずがない。
「……ッ!」
視界の端で、一際強い閃光が見えた。
夜々は慌てて呪符を取り出す。守護・厄除けの力を込められた呪符は、夜々の周囲に結界を生み出した。
直後、夜々の視界を光が焼く。
紫が高速のレーザーを放ったのだ。
レーザーは結界に弾かれた。だがその光は夜々の視力を一瞬だけ奪った。
ほんの一瞬。だが当然、紫はこれを見逃さない。
紫の周囲で再び閃光が生まれる。数は5つ。先の攻防で夜々の結界の強度は判明している。そしてその強度は、この5つのレーザーを防ぎきれるほどのものではない。
「さあ、どう出る?」
小さな小さな紫の問い。
直後放たれるレーザー。
「っとに、さ!」
目を潰された夜々には、レーザーの軌道を完璧に把握することはできない。
だからできることと言えば、それは結界の出力を上げること。
そうすればこの一撃はしのげる。
だが、これをやり過ごせたとして、その次は?
レーザーはふたたび夜々の目を焼くだろう。そうすればこの次にくるだろう攻撃にも、結界でしのがなければならない。
そして、その次の攻撃は、先のものよりレーザーの出力も数も増しているはずだ。
しばらくは結界で乗り切れるだろう。だがやがては限界が来る。回復してきたとはいえ、夜々の力と紫の力の間には未だ埋めがたい差が存在する。その差が埋まらぬ限り、いつか結界は食い破られるだろう。
そうなれば敗北だ。
ならばどうする? 勝利するには、どうすればいい?
「――――っ!」
夜々は懐から更なる呪符を出す。そこに書かれた、力ある5つの文字が意味するもの、それは。
「急急如律令!」
かつて中国で、命令文の結び文句として使用された言葉。
道教、そして陰陽道において、呪符を使用する際などに唱え、その力を発揮させるために用いる。だが夜々のアレンジが加わった、この呪符と呪文の役割は。
「術式と、動作の加速、か」
紫の声に感嘆と懐旧の色が混じる。
高速化した動きで、夜々は新たに5枚の呪符を取り出す。それらは夜々を中心として、東西南北そして夜々の足下、それぞれに正確にはなたれ、空中に固定される。
夜々は右手の人差し指と中指だけを立てると、それで空中に逆五芒星を描いた。
「五行の加護は我が為に、五芒の加護は彼の元に」
放たれる高速の呪文。そして直後結界を直撃する5つのレーザー。
レーザーは結界を破壊し、夜々へと迫り、そして。
進行方向を逆転させ、紫へと襲い掛かった。
「……なっ!」
紫の顔に驚愕が走る。
異変が起こったのはレーザーだけではない。それまで夜々へ降りかかっていたすべての弾幕が、急にその対象を紫へ変えたのだ。
「知ってると思うけど、西洋じゃ逆五芒星は悪魔の印とされてきた」
夜々が、自慢げな笑みを浮かべる。
「五行思想による環境の循環と、それによる森羅万象の正常化。それを逆五芒星でアレンジしたものさ。加護は反転し、相手は呪われる。あなたを呪えば、その結果は見ての通り」
「あなたに対する攻撃が、反転して私自身への攻撃となる、か」
襲い掛かる己の弾幕を回避しながら、返答する紫。彼女の顔には驚きこそあれ、焦りはない。元は自分が放った攻撃だ。反転すればどういった軌道を描くのか、それを計算するのはたやすい。
「なるほどね。反転しているとはいえ元は加護の力。その性質を利用して、私の警戒をすり抜けたわけか」
ただ呪詛を掛けるだけでは意味がない。地力の違いはそのまま術の掛けやすさに直結する。今の夜々と紫の間には無視しがたい力の差がある。単純な呪詛では弾かれて終わりだ。
だから五行思想の加護を利用した。紫に害する力でない、そう彼女の認識を誤認させたのだ。結果、紫は術を満足に防げず、術の発動を許してしまった。
「詐欺まがいの、せこい術ね」
回避を続けながら、そう呟く紫。夜々は返答せず、ただ自慢げな鼻息を一つつく。
紫は弾幕の反転を認識した段階で、弾幕を撃つのをやめていた。夜々も特に追加の弾幕を放つことはしなかったので、供給のない弾幕はほどなくして底を尽きた。
弾幕が消え、静かになった霧の中、無傷の紫に対し、夜々は尋ねる。
「さて、小手先程度は調べられたでしょ?」
「ええ、堪能したわ」
優雅に微笑む紫の左右が、それぞれ歪む。
再び、弾幕を放つのだろう。それもただの弾幕などではない。必殺技、紫が言うところの、『スペルカード』が来る。
「それじゃあ本番と、行きましょう!」
紫が、懐から一枚のカードを出す。書かれているものは分からない。だが、それはたいして重要ではないだろう。
重要なのは、むしろこれから。
「結界『夢と現の呪い』」
紫の宣言と同時、カードが閃光となり、紫の左右に鎮座する歪みへと吸収されていった。
歪みは光を吸収して半透明の球体に変化し、紫から距離を置くように移動。
そしてある程度はなれると、それぞれが砕け散り弾幕となった。
「っと!?」
それは変則的な弾幕だった。
片方は普通の弾幕と同じく拡散を続けたが、もう片方はほとんど拡散しない。どころか群れを成して夜々に襲い掛かってきたではないか。
夢幻と現実の相対性を、弾幕の拡散と収束で再現したものか。その発想も素晴らしいが、技としての完成度も高い。拡散した弾幕が夜々の行動を阻害し、収束した弾幕が夜々を狙い撃つ。
夜々はこれを紙一重で回避しつつ、お返しとばかりに大量の呪符を放った。
だが炎を放つそれらを、紫は軽々と回避する。いくら実力差があるとは言え、掠りさえしないという結果に思わず夜々は舌打ちする。
だが、舌打ちする暇すら、この状況下では隙であった。
夜々の体が、僅かだが予定していた回避経路を逸れる。距離にして十センチほどもないだろう。だがそれは、紙一重の回避のさなかにおいては致命的な誤差だった。
夜々の目の前に、弾幕が迫る。
夜々は身体を無理やりねじってこれを躱し、同時に回避経路の再計算を行う。
そして導き出された答えは、夜々の敗北であった。
(あと四つ)
この後四回の回避を行った後、五つ目の光弾が夜々の体を直撃する。
それが夜々の立てた予測の結末だった。自身の運動能力と、観測した紫の弾幕、それらのデータをもとに作られたシュミレーションは、それ以上の回避が不可能であることを証明していた。
「まけ、て」
気合でそれは覆せない。現実とは冷酷で冷徹だ。感情論など歯牙にもかけない。
だが、それは現実が覆らないことを意味しているわけではない。
「たまるか!」
性能に難があるのなら、それを補うのが切り札というもの。
次に迫る光弾を回避しつつ、夜々は己が周囲に呪符を放った。
(一つ目)
放たれた呪符は四枚。それぞれが夜々を中心に東西南北に浮遊する。
(二つ目)
弾幕を避けながら、夜々は言葉を紡ぐ。
「東に青龍、西に白虎、南に朱雀、北に玄武」
(三つ目)
それは呪符の力を開放する詠唱であり、四つの力を束ね編み込む祝詞である。
「四方四獣は正しき場所へ。四神相応、場を清め、瘴気ケガレを祓いたまえ」
(四つ目)
弾幕を回避しつつ術を練る夜々に、ついに最後の弾が迫る。
回避不能の五つ目が目前に迫ったとき、夜々は吼えた。
「四象結界――『浄の陣』!」
四方に浮遊する呪符が閃光を放った。
東西南北の呪符がそれぞれ緑白赤黒に発光し、それぞれの方位に向かって疾走する。
風水において、四獣は東西南北を守護し、森羅万象を司るとされている。
放たれた四枚の呪符には、その四獣の力が込められていた。
呪符は迫る五つ目の弾幕を弾き、そのまま周囲にある弾幕を消し去っていく。
弾幕がすべて消滅すると同時、紫の手元に光が収束し、カードの形状を取る。それは、先ほど閃光となったカードだった。
「スペルブレイク、っと。それにしてもボムなんて味な真似をしてくれるわね。そのまま避け続けてもよかったのよ?」
嬉しそうな紫の瞳には、僅かだが落胆の色があった。
夜々にはその原因に心当たりがあった。そも、先の過ちは己の油断によるものだ。自身の弱さを正しく認識しているなら、決して出るはずのない油断。それを見て紫が気分を害するのは、むしろ当然のこと。
夜々はバツが悪そうに視線を逸らした。いや、逸らそうとした。
逸らすことなどできなかった。紫はその手に、新たなカードを握っていたのだ。
「ちょっ」
待って、と続ける余裕すらない。
間髪入れず、という表現そのままに、紫は新たなスペルカードを宣言した。
「罔兩『八雲紫の神隠し』」
紫から四種の弾幕と一種のレーザーが放たれた。
弾幕のうち一種は円状に散らばり、二種が最後の一種を追いかける形で三方向に直進。レーザーは六方向に照射された。
迫る弾幕を夜々は何とか回避する。だが唐突な弾幕以上の驚愕が、直後夜々を襲った。
(紫が、いない!?)
八雲紫が消えていた。
どこに行ったと視線を巡らせる夜々。その真横から、
「鬼さんこちら」
陰謀と策謀がよく似合う、美しい声がした。
いつからそこにいたのか。夜々の間近に佇んでいた紫の瞳は、面白そうに笑っていた。
夜々は新たな呪符を出す。だが間に合わないだろう。そんな確信があった。
新たな切り札を晒す事すら、八雲紫は許さない。
目の前に突き付けられたチェックメイト。それは夜々を諦観に誘い、その手を止めさせた。
いや、手が止まったのは、何も諦めだけではなかったのではないか。
(相変わらず、綺麗だな)
知性と妖しさと、ほんのり漂う邪悪さに、隠し味の子供っぽさ。
千年前から変わらない、八雲紫のその姿に見惚れながら、夜々は光の奔流に呑み込まれた。
三年というのは長いようで短いものであります。
学生時代ならば、三年たったと言えば入学生が卒業生になるほどの時間の経過なのですが、社会人にとっては一年の三倍に過ぎないという、不思議な感覚です。
皆様、はじめまして、お久しぶりです、そしてごめんなさい。鈴ノ風でございます。
社会に揉まれて死にかけたり、別の二次創作にかまけたり、オリジナルの構想を練っているうちに、前回の投稿から何と三年も経過してしまいました。
ただ三年もの長きをお待ちくださった読者さま方には申し訳ないお話なのですが、おそらく今後もこのような不定期連載が続くと思われます。
何しろ三話を書き始めたきっかけからして、『オリジナルで狐の妖怪出したいけど中世ヨーロッパ風で狐はねーよな』→『そもそもそんなに狐が書きたいなら妖狐録の続き書けよ』と言った経緯でしたので。年単位で間を開けるようなことは可能な限り避けていきますが、月単位の空白は出来てしまうものと思われます。
そのような次第でございますが、それでも読んでくださる方がいらっしゃいますと幸いです。
さて、それでは挨拶はこの辺にして、三話について語っていきましょう。
スペルカード戦です。鈴ノ風はイージーシューターなので、プレイ動画とにらめっこしながらの執筆となりました。
他のオリキャラ幻想入りならばここで能力覚醒して初スペルカード戦に輝かしい白星を挙げることでしょうが、うちの夜々は色々成長しきって覚醒の余地がないので、残念ながら負けてしまいました。
能力自体はあるのですが、まあそれはまたの機会に。
次はどのキャラと戦わせたものか。やはり定番はフランでしょうか。しかしリメイク前の因縁的に萃香というのも良いかもしれません。悩みどころです。
では、今回はこれにて。
またお会いしましょう。