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学年一位 11

 プレートバトルには珍しく、俺と星野の戦いにギャラリーがついていた。ここから確認出来るだけでも、瑞穂、カスミ、里美、亮、赤屋の一年が五人。圭さん、速水と一緒にいる男女は、二年だろう。

 そして、御社とそれを護るかの様に立つ二人の男。合計12名。その場にいる全ての者がそれなりの力を持つ者の様だった。


「珍しい事もあるものですね。一つの場所に各学年の一位と二位が揃ってますよ」


 星野の言葉に、御社の後ろに立つ二人が三年だと云う事が分かる。しかし、コイツ等はどこから情報を仕入れてくるのだろうか?

 俺などカスミがいなければ、何も分かりようがないだけに、この差は非常に大きいものと感じられる。


「おそらく皆、神城君を見に来てるのでしょうね。これでは、どちらが一位か分からない。正直、嫉妬を感じますよ」


 ズレた眼鏡を直しながら、星野は云う。


「なあ星野、眼鏡を外すと見えないのか? 」

「まあ、少し見辛くなる程度ですね」

「そうか、なら今度からコンタクトにする事を薦めるよ。眼鏡をしたままで戦うのは、危ないぜ」


 俺の言葉にフンと鼻を鳴らす。どうやら忠告は聞く耳もたないらしい。


「そう云う心配は、まず僕に触れられる様になってからにしてほしいものですね」

「こんな風にか? 」

「えっ! 」


 俺は星野の背後から、肩に手を置いた。


「ば、ばかな… いつの間に」


 後ろの俺を確認して、すぐに前を見る。


「始めからここに居たぞ」

「幻術ですか… 」

「この間のお返しだよ。これなら、少しは忠告を聞く気になるだろ」


 パチンと指を鳴らすと、今まで星野の正面に立っていた俺は消える。


「ふざけた真似をしてくれますね」

「ふざけたつもりはないんだが、ただこの間、無様なトコ見せたからな。油断してると悪いと思ってな」


 整った顔立ちの知的君が、怒りで顔を歪ませると、何故か邪悪に見える。今の星野がまさにそれだった。


「油断を誘うのも勝負の内ですよ」

「だが、それを言い訳にするヤツが多くてな」

「君は愚かです。もう少し賢い人かと思ってましたよ」


 そいつはどーも… けど、御社の嘘を暴く為にも、お前に言い訳をする余地を与える事は出来ない。

 お前がイメージ程、悪いヤツではない事は理解している。その証明として、ヤツは瑞穂に手を出さなかった。また、俺との前哨戦も無駄なダメージを与えるような真似をしなかった。

 里美の件にしても、実際は(なぶ)ったのではなくアレしか方法がなかったのだろう。

 星野は本来、戦闘を好んで行うタイプの人間ではない。コイツは強いが弱い男なのだ。


「俺が呪縛から解き放ってやるよ。星野」

「やれるものなら、やってみて下さい」


 あの時と同じで、星野が先制する。

 俺との間合いを一気に詰め、接触寸前で体を沈ませる。

 足払いだな…

 二ヶ月前との違いを確かめるには、最高の初手である。これをあっさり食らう様では、何も変わっていないと云う事になるからだ。だが、俺は油断するなと云ったはずだ。


 俺は地を蹴り真上に跳ぶ。そして、跳んだ高さに合わせて星野足払いが放たれる。


 全く同じか… 確かめる為とは云え、

「それが油断だと云ってんだよ」


 跳んでる途中で、俺は〈空宙浮揚(エアウォーク)〉で宙を蹴る。


「えっ! 」


 自身の見ていない展開に驚きを隠せず、星野の足払いは、そのまま流れるはずだった。だが、それでは終わらない。俺は蹴りを出した星野の足に着地して、三度跳ぶ。正し今度は上でなく横にだ。そして、空中で一回転して攻撃を完全に交わした。その上で、置き土産も忘れていない。回転すると同時に星野の顎を蹴りあげていた。


「がっ! 」


 顎に食らうダメージは脳を揺らす。普通ならKOもののダメージを与える事が出来るのだが、今回は手加減している。このまま戦闘不能にはならないはずだ。


「星野、舐めるなと忠告したよな」


 尻餅をついている星野を見下し俺は云う。


「神城… てめえ、よくもやってくれたな」


 フラフラと立ち上がり、俺を見る顔に余裕はない。


「いい顔になったじゃねぇか、星野」

「ぶち殺してやる」


 それでいい… これで星野から見た俺への視点は、平行になった。ここから倒さなくては意味がない。


「そりゃ無理だ。お前、赤屋先輩に勝てるって云ったよな。そして、俺はそれが間違いだと教えてやると云っただろ。その答えがこれだよ。

 来い、風精霊〈シルフ〉のジン」


 俺の呼び掛けに応じて、風が一つの形を創る。


「あ、あれボブじゃ… 」

「ボブ? 」

「昔、真人が飼っていたゴールデンレトリバー」


 集まった風に乗って、瑞穂とカスミの声が聞こえる。


「出番か、主よ」

「だから呼んだんだろ」

「うむ、愚問であったな」


 一匹のゴールデンレトリバーは、何故か満足そうに頷く。


「クスっ、やっぱりシュールね。あのやりとり」

「圭… あの非常識なやりとりにシュールはないだろう」

「そうね。確かにランクAの精霊は意志を持つ、けど喋る精霊って有り得ないもの。

 只ですら、珍らしい召喚術に喋る精霊… 会話が出来ると云う事は、意志疎通は私の比じゃない。

 これは厄介な存在よね」


 厄介と云う割り楽しそうな圭さん。そんな圭さんを速水はあきれ顔で見ている。


「か、可愛いですわ… 」


 もう1つ聞こえた声は取り合えず無視しよう。


「さ、決着をつけようか」

「召喚術だと… 」


 精霊の攻撃が予知出来ない理由は、おそらく精神世界(アストラルサイド)より、直接攻撃してくるからだろう。攻撃までの過程(プロセス)がないものに対して、予知する事が出来ないのではと俺は考えている。

 だが、今一番大切な事は『何故予知出来ないのか』ではなく、『予知が出来ない』と云う事だ。これで星野の最大の武器を封じたのだから。


「星野のお前は戦闘には向いてない。お前は強いが弱いんだ。諦めろ」

五月蝿(うるさ)い、うるさい、うるさい。お前は僕がどんな努力を知らないんだ。だから勝手な事ばかり云う」


 否、お前が弱点を補う為にしてきた努力は分かる。そうでなければ、里美に対抗出来る体術を身につけられるはずがない。


「そうかなら、完全に叩き伏せてやるよ。ジン」


 俺の指示で星野との間合いを少しだけ詰め、身構える。


「ふざけるなよ。神城の攻撃は予知出来るんだ。あの犬の攻撃を目視で捌けば負けない」


 考えが口に出てるぞ。まあ、確かにジンの動きを捌ければ、まだ可能性はあるかもしれない。だが、決して勝てないんだよ。


風精霊譲渡(シルフィードギフト)


 ジンの支援を受けて肉体強化を行う。今までは直線的な動きしか、出来なかったが、ジンからの指示がある今は違う。


 地を蹴る時は足に、跳んでる時は目に、攻撃する時は腕に支援を回す。この操作(コントロール)こそが、本当の風精霊譲渡(シルフィードギフト)なのだ。


「行くぞ、星野」


 宣言と共に俺は地を蹴る、瞬間で星野との間合いは詰まり、そのまま攻撃に移行する。だが、星野は避けない。狙いはカウンターだ。

 俺は狙いがカウンターである事を知りつつ、敢えてそれを受けた。


「どうだっ! 」


 拳が俺の頬に突き刺さると、星野が吠える。だが、


「効かないな」


 ジンの支援を防御力に回していた俺には、ダメージはない。攻撃を受けたのは、星野に俺を倒すだけの決め手がない事を再認識させる事と、幻術を使って偽者になっていないか、確かめる為にわざと受けたのだ。


「ジン!! 」

「GaFu」


 風精霊の咆哮シルフィードブレス、ジンは口から風の塊を吐き出す。その風をまともに食らい後ろへ弾かれる星野。それと同時に、俺も追いかけるように地を蹴った。

 そして、飛ばされている星野に追い付き手をかざした。


風球圧縮エアロブラッシュ


 星野の体が空中で止まり、風の球が星野の体を包み込む。そして、


「ぐっ、ぎゃああ~」


 絶叫か響き、星野の体は上空に打ち上げられる。そして、地面に落ちた後動かなくなる。


 俺と星野の一番大きな差は攻撃力にあった。星野には一撃で、勝負を決める力はない。だからコツコツとダメージを積み上げていく必要があった。それが出来なくなった時点で、星野に勝ち目はなかったのだ。


 星野にしたって、この結果は分かっていたはずだ。だが、学年一位のプライドとこれまでの努力が認める事を許さなかった。


「言い訳出来ない完敗だろ、しばらく寝てろよ」


 動かない星野にそう云い、俺は御社を見上げた。

 さて、アンタともそろそろ決着をつけないとな… 誰にも聞こえないのは分かっていたが、俺はあえてそう呟いたのだった。



次の章で完結させる予定です。ぜひ、最後までお付き合いください。

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