学年一位 10
「速水、私やっちゃったかな? 」
「さあ、分からないな。でも、もしアイツが暴走したら、俺に止めるのは無理そうだがな」
俺の目の前で、圭さんと速水が話している。そう云う事は、俺が聞いてないところで話してほしいものだ。
「神城、お前どうしたいんだ? 」
「何がですか? 」
「質問を質問で返すな」
だったら、ちゃんと分かりやすい質問をしろよ。
「先輩の質問の意図が分からないんですよ」
「今後、どのように動くつもりなんだ? と、言い換えれば分かるだろ」
そう云う事ですか…
「せっかく貰ったチャンスですからね。この学校のシステムでもぶっ壊しますか」
「それ本気なの、真人君? 」
「本気ではありませんよ。でも、この学園のシステムは正しくないと、本気で考えてますよ」
正確には、御社の支配下におけるシステムは間違っているだ。そもそもアイツはこれまで、自分が思うような能力者を創れていない。この時点で気づくべきなのだ。
御社のやっている事は、根本から間違っている。これでは、アイツの望むゴールには辿り着く事はない。
「あの若作りが、創りあげたシステムをやるのは至難だぞ」
「だから、本気じゃありませんて」
「どーだか… でも、真人君が初めてここに来た時の予想が、当たるかも知れないわね」
あれ? 俺、何か云ったっけ…
「貴方に教えても、私に得になる事はないってヤツよ。あれって、力をつけたら敵になった時にやっかいだぞって意味でしょ」
「あっ、でも、あの時はそこまで考えた訳じゃ… 」
確かに、敵になるかもとは考えた。だけど、圭さんはそうなったら、叩き潰すと云ってくれた。
「じゃ、今はどう? 敵になったとしたら、貴方は私に勝てるのかしら? 」
「そうですね。勝てるとは云えませんが、あの時とは違う楽しみを貴女に贈れる自信はつきました」
「ねっ、今の貴方は充分に厄介よ。だから、早く一年のトップに立ちなさい。その後、敵になるなら遠慮なく、叩き潰すけどね」
この学園のシステムは良くも悪くも完成している。壊す事になるなら、このシステムに取り込まれている者全てが敵になる。
「行きなさい。私の自慢の弟子君♪」
そう送り出してくれる。尊敬する人もまた、システムに取り込まれた人間なのだ。いつか本当にやるかも知れない… だから、俺はこう答える。今だけは、
「んじゃ、行ってきますね。師匠」
ぴょこと右手を上げて、ちょっとコンビニまでと云うように軽く答える。何れにしても、まずは目の前の問題を片付ける。重い問題は後で考えればいい。
「空宙浮揚」
足下風を集め、空中を自在に歩けるだけの術だ。だが、この術のランクはSだ。その答えるは、精神力にエンプティーマークが点灯している俺でも、使える術と云えば分かって貰えると思う。
「自身の精神力が無くても術が使えるか… お前、今回で幾つ手駒を増やしたんだ? 」
「さあ? 後で相棒にでも聞いてみますよ」
「… 圭。さっきの質問だがな。お前やっちまったよ。完璧に」
速水の言葉に圭さんは、肩を窄めて息を吐くと「でしょ」と、一言だけ答えたのだった。
◆
同日19時に俺は、801号室のドアの前にいた。
御社が定めた期日までは、まだ二週間ある。もし今回、俺が星野に負ければ、もうヤツがおれに興味を持つ事はなく、三度目の戦いはない。だからこそ、再戦には慎重を期する必要があるのだろうが、今の俺にはその必要が感じられなかった。
801号室の呼び鈴を押す。すると、すぐにドアが開かれた。
「神城君かどうぞ」
星野に招き入れられ入室する。
星野の部屋は、俺の部屋と大差ない。つまり、始めから設置されていた家具以外、何も増やしていないと云う事だ。
「物欲ないんだな、お前」
「どうせ、一年で出て行く部屋だからね」
「ま、そうだな」
どうやら、この辺の思考は俺と似てるらしい。
「それで、用件は何だい? 」
「再戦の申し込みさ」
「もうかい、まだ期日までは余裕があるだろうに」
本当にいいのかい? その目がそう云っていた。
「なあ、お前。二年の赤屋先輩を知っているか? 」
「ああ、知っているよ」
「あの人と、お前がやったらどっちが勝つ? 」
こいつは何を云ってるんだ? 星野はそんな感じだったが、返ってきた答えは思った通りのものだった。
「僕が勝つよ」
「そうか、ならその答えが間違っている事を、俺が証明してやるよ。明日の14時でいいか? 」
「ふ~ん、分かったよ。場所はこの間と同じでいいかい? 」
「ああ、よろしく頼む」
それを伝えると俺は、星野の部屋を後にした。
「真人… 」
自室の前には、瑞穂、カスミ、里美が待っていた。
「何やってんだ、お前ら? 」
「決めましたのね、真人さん」
「そうだな」
里美は、毎朝トレーニングに付き合ってくれていただけに、何となく予想はしていたらしい。
「やるのは勝手だけと、勝てるのよね」
「ま、見てろよ。多分驚くぜ」
俺の言葉を聞いて、反応をしたのはカスミではなく瑞穂だった。
「カスミ、平気だよ。真人がこんな風に自信満々に云う事なんて、滅多にないからね」
「瑞穂、ホント? 」
「うん、真人は基本ヘタれだから、絶対の自信がなければ云わないよ。ねっ」
ねっ、て云われてもな。ヘタれと云われて同意するのは、憚れるだろ。
「そうですわね。瑞穂さんの保証があるのに、私達が心配するのは無粋と云うものですわ」
「そっか、そうよね。じゃ、これから… 」
『前祝い』
「ですわ」
えっ、この人達、何云ってんの… 俺、めっちゃ疲れてんですけど…
「しょーがないから、金縫も呼びましょう」
「あ、じゃあ赤屋君も」
「あら、瑞穂さん。絆されましたか?」
なっ、一寸聞き捨てならない気分になるな。
「さ、里美さん」
「いいじゃない、美女と野獣を地で行ってるみたい」
「カスミっ! 」
これは、厄介な事になりそうだ。そして、その予感は当たるだろう。と云うか、たまには外れてくれよマジで…
いや~、やはり当たるんだな嫌な予感って…
俺はフライパンを振りながら、そんな事を考えていた。
「真人~、レタスチャーハンお代わり早く~♪」
うるせぇな… 今作ってるよ。カスミの陽気な声が、俺の額に血液を集める。
「クスっ、真人、短期は損気よ」
「うるへぇ~、何だよこれは…」
男二人に女三人、めっちゃ食う… 作ってる俺は、何も食ってない。疲れきっているのに… 倒れるぞ、そろそろ。
「仕返しだよ、真人。この二ヶ月、みんな真人が心配してたんだよ。だから、その仕返し」
「明日、終わるまで分からないだろ」
「本人がそんな事思ってないのに、説得力ないよ」
瑞穂はずっと笑っている。そう云えば、このところコイツのこの顔は見てなかったな。
「それじゃ、コレが私からの前祝いよ」
瑞穂は俺の前に、おにぎりを二つ置いてカスミ達の元に戻る。その背中を見届けた後、おにぎりの一つを手に取り、口に運んだ。
「しょっぱっ! 」
おにぎりの味は、塩の塊かと思う程塩辛い。
ったく、アイツは相変わらず、握り飯一つまともに作れないのかよ。だが、この相変わらずは、とても大切な事のように感じたのだった。




