学年一位 9
「風精霊譲渡」
本日7回目の風精霊譲渡を使った瞬間に体から全ての力が抜け、膝を地面に着けた。
「真人さん! 」
よほど今の倒れ方は良くなかったのか、里美は走り寄ってきた。とは云え、里美に構っている余裕は、今の俺にはない。全身から汗が吹き出し、痛みも尋常なレベルじゃない。
唯一の救いは、キマイラの時感じた痛みの方が強く、今回はなんとか耐えられると云ったところか。まあ、痛み慣れしただけなのかもしれないが、それでも和気あいあいと出来る程、慣れてもいない。
「全く無理し過ぎです」
「すまねぇ、肩貸してもらえるか? 」
「貸せと仰るなら、幾らでも貸しますが… こんな無茶は止めてほしいです」
それが出来ればいいんだけどな。残念ながら、こんな中途半端で、止めさせてくれるような冷たい人じゃない。
「昨日、説明しただろ」
「分かっていますわ。でも、一日の終わりに力尽きるならまだしも、これからまる一日過ごすなんて、下手をすれば精神崩壊してもおかしくありません」
確かに… さっきまで寝ていたにも関わらず、今は三日ぐらい一睡もしていないような気分だ。
「まあ、とりあえず一週間ぐらいなら、何とかなるだろうし、そこを目標にやってみるわ」
そこまでに何も感じる事がなかったら、里美が云うように止めるべきだろう。
「ずるいですわ、真人さん。私か勝手にしなさいと、云えないのを知ってて云ってますでしょ」
確かにカスミ辺りなら、物を投げながらそんな事を云うだろう。あ、否、既に昨日このトレーニングを伝えた時にやられたんだった
「そんなつもりはないんだけどな。でも、初めてマジにやってみようと思ってるんだ。少しだけ見守ってくれると有り難い」
「全く同じ事を瑞穂さんが云ってましたよ。だから、私達が渋々ながらも協力してるんです。あの方は本当に凄いですわ」
里美は最後に小さく「悔しいですけど」と、呟いた。俺は聞いては行けないような気がして、聞こえなかったふりをしたのだった。
◆
「ふぁ~ いでっ! 」
俺は最近定位置になっている、一年校舎の屋上であくびを噛み殺していた。
体の疲れはほぼないのだが、眠くて仕方がない。その反面、体が痛くて眠れない。
昼寝は禁止などと云っていたが、それどころじゃない。
… 圭さん、絶対コレを見越してたよな。
「真人、いける? 」
大丈夫ではない事を知っている瑞穂は、掛ける言葉を選んで云う。
「姉さん。心配する事はありませんよ。姉貴は性格的な問題はありますが、他の事は完璧です。コイツに根性があれば、何の問題もありません」
云ってくれるな、このシスコンゴリラ。だが、コイツがきっかけを作ってくれ、状況が動いた事は間違いない。
「赤屋、まだ結果が出てない。だから礼は云わないぞ」
「ふん、そんなもんいらん。俺はお前が姉貴にしごかれて、ヘロヘロになってる様を見て満足だ」
何とでも云ってくれ… 云い争うほどの気力もない。
「それにしても、このトレーニングにはどう云う意味があるのかな。精神力の向上目的なら、朝一で力を使いきる必要はないと思うけど」
確かに瑞穂が云う事は一理ある。
精神力を使いきる事で、底上げをする修練は存在する。だがそれは、徐々に力を使い一日の終わりに空にすると云ったものだ。朝一で力を使いきってしまえば、当然今の俺のように何も出来ずに、ただ時間の経過を待つだけになる。
気力が満タンの時にする行動と、やる気がない時の行動に、生産性の違いをみたらその差は明確になるのは誰だって分かる事だ。
「そうだな。おそらくではあるが、本当の意味で精神力を空に近づける為かな」
精神力を使いきる事は、一言で云えば不可能だ。当たり前だが、精神力を無くせば廃人になる。だから、この場合の無くすは術の使用が一切出来なくなる程度、と云う事だ。
「今のこの状況、思っていた以上にキツい。こうして、起きているだけで、どんどん気力を削られていくみたいだからな。最終的にあの人の前に立ったら、倒れるかもしれん。
なんでそうする必要があるのかは、分からないけどな」
「真人でもその真意は読み取れないって事? 」
「ああ… 」
返事をすると、俺はフラフラと立ち上がる。
「真人? 」
「時間だ、俺は行く」
時刻は14時になっていた。まだ早いのだが、この体だと、これでも時間内に着くのはぎりぎりになりそうだった。
◆
「遅刻よ、真人君」
二年校舎の屋上に着いたのは、15時ピタリだった。だか、時計が15時になっていると云う事は、数秒だが遅れたと云う事だ。
「すいません。時間の予測を誤りました」
「もうっ、二度目はないからね」
圭さんは飛んで来いと云ったが、飛ぶことはおろか歩くのも困難だった。フラフラと歩くしかない。まさか、懐かしの牛歩戦術をリアルでする事になるとは思わなかった。
もし、見兼ねたカスミが助けてくれなけば、数秒の遅刻では済まなかっただろう。
「潰されないでよ」
別れ際にカスミに云われた一言を思い出した。確かにこれからが本番なのだ。入れる気合いもないが、せめて思うように努力しよう。
「あら、思った以上にボロボロね」
「お陰さまで、圭さんのお仕置きは受けたくないですから… 」
「クスっ、いいわ。じゃ、こちらへいらっしゃい」
圭さんの手招きに応じ、後ろについて行く。すると、屋上の隅に魔法陣のようなものが描かれていた。
「これは、契約方陣」
「正解よ。懐かしいでしょ」
「何で今更? 」
契約方陣はその名の通り、精霊と契約を行う時に使うものだ。既に契約を終えている者には不要なはずなのだが…
「真人君。オネーサンと貴方の差って、何だと思う? 」
契約方陣を前に圭さんは聞いてきた。
「才能ですかね? 」
「残念」
「では、経験ですか? 」
「そうね。真人君よりは色々な経験をしてるわよ。今度、ゆっくり教えてあげるわ」
俺の顎を撫で上げ、圭さんは艶っぽい視線を送る。ヤバっ、この人のペースに嵌まる。
「圭さん。体ダルいんで、簡潔にお願いします」
「う~ん、そうね。その体じゃ立つものも立たないか… 否、疲れてるとあっちは立つって云うし」
「何の話ですか… 」
ジト目で見据える俺を見て「ちぇ、つまんないの」と膨れっ面になる。
「圭さんっ! 」
「うふふ、真人君面白いわぁ~」
頭を撫でながら、圭さんは満面の笑みを見せた。
「さて、真人いぢりはこの位にして、本当の差はね。精霊との同調率よ」
同調?
「またまた質問。ランクA以上の術はどうやって覚えるでしょう」
「あっ! 」
確かに… 基本となる術は、口伝などで教えて貰えば使えるようになる。しかし、ランクAの精霊と契約している者は少ない。つまり、後人に術そのものを伝える必要性は低い。
誰もが使える強力な術と極わずかしか使えない超強力な術、そのどちらを後人に残せば、後人の役に立つかと云う事だ。
「実際にランクA以上の術については、ろくに記録は残ってないわ。でも、私達はランクAの術を使える。それはね、精霊が教えてくれるからよ」
「精霊が教えて… 」
何度かジンとコンタクトを取った事を思い出す。
「ランクAの精霊は、名前だけでなく意思をもっている。自分の力をこう使えってサインを出してくれる。それを受け取れるかどうかで、大きな差がでてくるのよ。
で、ここで出てくるのが、契約方陣って訳ね。ファーストコンタクト出来るんだから、セカンドコンタクトもしやすくなる。真人君はこれから毎日三時間、精霊とコンタクトが取れるまで、あの中にいる事。それだけをやりなさい。OK? 」
「分かりました」
既に何度かジンに会っている俺は、結構簡単に考えていた。だが、実際はとんでもなく大変な事だったのだ。その事に気付いたのは、まる一週間を使いきった時、ジンと再会し初めて理解したのだった。




