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小熊と鮭

ある森に小熊がいました。

森には川が流れていて小熊はいつも同じ場所でその川の流れを見て毎日退屈に過ごしていました。

ある時、下流の方から見たことのない大きな魚が泳いできました。

小熊は流れに逆らいながら泳ぐ魚を不思議に思い

「君は誰?何をしているの?」と声をかけると魚は

「私は鮭です。広い海から故郷の川に帰って来ました。」と言いました。

小熊は「広い海のほうが心地がいいだろうに。こんなにつまらないところに帰ってくるなんて君は物好きだな。」と馬鹿にして大きな声で笑いました。

鮭は「私は産まれた場所で子供を産むのです。早く上の方に行かなければ。待っていてね私の可愛い子どもたち。」そういって懸命に泳ぎ続けています。

小熊は退屈しのぎにちょうどいいと思い、鮭の後を追いかけることにしました。

鮭はぐんぐん泳いでいきます。

最初は小熊が鮭の後を追う程の速さでしたが、川の流れがどんどん強くなって鮭の泳ぎも遅くなってきました。

「そんな調子じゃ、あっという間に夜になってしまうよ。」

「それは困りました。明るいうちに辿り着かなければ。」

鮭はより一層、懸命に泳ぎます。

小熊は鮭を追い越して木陰で鮭を待つことにしました。

しばらくして息を切らした鮭がやっと小熊に追いつきました。その疲れた顔を見て小熊はまた不思議に思い、鮭に尋ねます。

「君はなんでそんなに必死に泳ぐんだい。こんな大変な思いをしなくとも、海で産んでしまえばいいじゃないか。」

鮭は「この美しい川で産まれたときの感動を、子どもたちにも味あわせてやりたいのです。」と答えました。

小熊はちっとも分かりません。この森から出たことのない小熊にとってこの森や川は毎日何の変化もない退屈な場所だと思っていたからです。

鮭はそんな小熊のことを気にせず泳ぎ続けています。

小熊はそんな鮭を追いかけます。

鮭がもう少し、といったところで目の前に大きな滝が現れました。

鮭は「私が産まれたのはこの上です。ここを上がらなければなりません。」

小熊はなんて無茶を言うんだ。と思いましたが鮭は滝に向かって泳いでいき何度も飛び跳ねて滝を上ろうと必死です。

小熊はしばらくその様子を黙って見ていましたが一向に鮭が滝を上れる気配はありません。

小熊は痺れを切らして鮭に「手伝おうか。」と言いました。

鮭は少し悩みましたが背に腹はかえられないと思い、小熊に手伝ってもらうことにしました。

小熊は川に入り、鮭を抱えて陸に上がりました。

鮭は「私は初めて水から出ました。意外と良いところですね。」と言うと小熊も「僕も初めて川に入ったよ。冷たくて、意外と心地が良いところだね。」と返事をしました。。

鮭を抱えて歩きながら「広い海はどんなところだったの?」と小熊は鮭に聞くと鮭は「ここにはいない物凄く大きな魚や、大きな船を見れたり、水がしょっぱくて、広くて良い場所ですよ。」と答えました。

それを聞いて小熊が「なんだ、やっぱりこんなつまらない川よりも良い場所じゃないか。」と言いましたが鮭は「全てのことが良いところも悪いところも全てが違うのです。水の中と陸が全くの別物であるように。比べるものではありませんよ。」と言うと小熊は「ふぅん。そういうものなのか。」と少しだけ納得しました。


そんなことを話しているうちに小熊は鮭を抱えて滝を登りきりました。

鮭は「ありがとう小熊さん。ここからは自分で泳ぎます。」と小熊にお礼を言って川に戻してもらいました。

小熊はまた鮭の後を追います。

しばらく泳いで流れが少し和らいだ場所に来ると鮭は

「私はここで産まれました。貴方のおかげでまた故郷の澄んだ川で子供を産むことが出来るのはとても幸せです。ありがとうございます。」

そう言って鮭は小熊に産卵してくると告げてあっという間に水の中に消えていきました。

小熊は初めてこの森から出てみたいと思い、

「おーい、鮭さん。君の子供が産まれたら、みんなで一緒に海に行こう。次は君が手助けをしてくれないか。」

小熊は川に向かってそう叫びましたが、いつまで経っても鮭からの返事は返ってきませんでした。

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