↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生した俺は、どうやら主人公じゃないらしい  作者: 椿


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
1/2

モブキャラのスキル

 俺は転生者だ。日本で交通事故に遭い、そのまま転生。5歳の頃に、前世の記憶を思いだした。


 転生した先は、恐らく王道ファンタジーの世界。魔物が存在して、幾つもの種族が存在しており、20年前から少数種族であった魔族が人類へ宣戦布告。魔王と呼ばれる魔族を筆頭に、現在まで魔族とそれ以外の種族との戦争が続いている。


 ここまでお膳立てされれば分かる。俺はきっと、この世界の主人公になれると。


 その日から、俺は来るべき日のための努力を始めた。


 「おーいブラウ、一緒にトルトン騎士ごっこしようぜー」


 「ごめん、やることあるから」


 「んだよ、俺の言うこと聞けねーってのかよ」


 村長の息子でガキ大将のコリウスの誘いを断る。こいつはきっと、俺の噛ませ役だろう。こんな寒村に似合わない無駄に整った顔に金髪、節々から滲む見下すような言葉。分かり易いくらいの当て馬じゃないか。


 今に見てろ。俺は世界を救う英雄になるんだ。前世のような無駄な人生じゃない。俺は、物語のヒーローのようになってみせるんだ。


 家の手伝いを積極的に手伝って、少ない駄賃で本や木剣を買った。空いた時間は勉強や、身体を鍛えることに注力した。手のひらのタコが潰れて痛くても、酷い筋肉痛になっても、そうやって毎日毎日頑張った。


 その度に、村の連中は笑う。そんなことをしても無意味だと。この世界は結局、スキルが全てなのだと。


 スキル。ギフトや恩寵とも言われるそれは、12歳になると発現する才能の具現化だった。『剣技』のスキルを持てば、三日と経たずに剣を自分の手足のように振るい、『魔導』のスキルを持てば学がなくとも魔法を操れる。


 もちろん、俺に強力なスキルが宿るのは明白だ。だが、強スキルにかまけて胡座をかいていれば、俺と同じかそれ以上のスキルを持った人間には勝てない。だからこそ、今できることを全力でやるのだ。


 今に見ていろ。俺はいつか英雄になる男だ。こんな小さな村で一生を終えるつもりなんてない。誰もが羨むような、歴史に名が残るような人間になるのだ。


 「ブラウ君は、どうして毎日こんなに頑張ってるの?」


 「そうよ。剣なんて振り回しても、そのスキルが貰えなかったら意味ないじゃない」


 背の小さな黒髪の少年と、勝ち気そうな瞳をした赤髪の少女が俺に聞く。


 黒髪の少年がレオ、赤髪の少女がマコだ。二人の家は俺の両隣のため、良く特訓をする俺に茶々を入れにくることが多かった。


 「俺はっ……! いつかこの村を出てっ……! 王都で、デッカくなるんだよっ……!」


 「で、でも……スキルが外れだったら、どうするのさ」


 「それはそれでっ……! 逆転する示唆だろっ……! 馬鹿にしてきた奴ら、見返してやるっての……!!!」


 素振りをしながら、レオの言葉に答えていく。こいつはきっと、俺に嫉妬して最期には返り討ちに遭う役だろう。いつもマコに黙って付いて行くだけの腰巾着だしな。


 「馬鹿ね。スキルが何かでこの先の未来を決めるんだもの。そんなことしたって無意味よ」


 「はっ……! 馬鹿はお前だ、ね……! そうやって、斜に構えてろよ……! 俺は絶対、英雄になるんだから……!」


 「な、なんですってっ!?」


 「ちょ、駄目だってマコ! いくらブラウ君が頑丈でも、石はマズいって!!!」


 マコはヒロイン……じゃ、ないか。うん、ないわ。顔は悪くなくても、激情してこぶし大の石を振り上げて迫ってくる女なんて、絶対違う。


 「お、おいレオ! ちゃんと止めろ! マコの眼がマジだぞ!?」


 「離しな、さい……!!! 馬鹿って言ったこと、絶対許さないんだからぁ……!!!」


 「む、無理だよぉ……! マコちゃん、この間もコリウス君と喧嘩して、全治3週間の怪我負わせたんだから……! 早く謝らないと、彼と同じことになっちゃう……!」


 マコはレオから羽交い締めをされながら、ふーふーと息を荒げてこちらへ少しづつ向かってくる。バーサーカーかよ、こいつは……!


 「土下座……! 土下座しろぉ……!!!」


 「だ、誰がそんなことするか! 俺は英雄になる男だぞ!? こんな寒村の小娘に、誰が頭なんて――」


 「謝らないなら、お前は敵だぁ!!!」


 「ぐべっ!? ぐ、がぁ―――」


 「ぶ、ブラウ君ーーー!!!」


 俺は石でぶん殴られ、気絶した。傷跡が残るほどの怪我だったのにかかわらず、マコは最後までこの凶行を謝らなかった。


 そしてこの寒村では、四肢の欠損や後遺症の残る怪我以外は大した問題にならない。流石に村長の息子に手を掛けた時は問題になりかけたものの、マコが三日三晩暴れ狂うと村長らを脅したそうで、黙認されたらしい。


 こんな女がヒロインな訳がない……! いつか俺がビックになった時、この時の借りは絶対に返させてもらうからな!


          1


 あれから時が経ち、俺たちは12歳になっていた。その間、俺は毎日鍛錬に明け暮れていた。


 その甲斐あって、剣を振るうことも中々様になってきた。筋肉も付いてきて、簡単な魔法だって使えるようになった。


 村の連中は相変わらずだ。コリウスはガキ大将だし、レオはおどおどしてマコの金魚の糞。マコは暴力の化身で、村から恐れられている。


 ちなみに、過去何度もマコとは喧嘩したが、一勝もすることはできなかった。マジでこいつ何なの?


 「じゃあ、始めようか。皆、一人ずつ前に来るんだ」


 だが、これも全てひっくり返る。何故なら、今日はスキルの鑑定日だからだ。


 ウチのような小さな村ではなく、デカい街では必ず司祭が居る。司祭は回復の奇跡の他、鑑定術と呼ばれる教会の信徒のみが扱える魔法を習得している。そのため、村の子供は12歳になると集められ、近くの街へ連れて行かれる。


 これは国民の義務であり、必ず行わなければならない。そして、強力なスキル持ちには出兵が課されることもある。


 中々ハードなことだが、俺にとってはうってつけの制度だ。この場で俺は良いスキルを持っていると発覚し、魔王討伐軍へと参加するのだ。そして始まる、英雄への第一歩! この時のために、俺は頑張ってきた!


 「……何ニヤニヤしてんのよ。気持ち悪い」


 「マコちゃん! 本当のこと言っちゃ駄目だよ!」


 「……レオ。お前も言うようになったな」


 最近、内気なレオもマコの毒舌が移ったのか、言葉で刺してくるようになった。言動の九割が暴言のマコよりも、争い事を嫌うレオにそういうこと言われる方が傷付くのだ。俺、そんなにキモかったかな?


 「それにしても、コリウス君の鑑定長いね。もうすぐ10分くらい経つけど」


 「早くしなさいよ。私は早く街で遊びたいんだから」


 「フッ……ガキが。まぁ、お子ちゃまには初めて見る街は刺激が強かったかな?」


 「けど、さっき一番眼をキラキラさせてたのはブラウ君じゃ――」


 「だだだだ、黙れって! 別にそんなんじゃねぇし!」


 普通に石造りの街は興奮したし、村には居ない人種が沢山居て気分は最高潮だった。だから、ちょっと童心が刺激されただけだ。俺はこいつらとは違う。


 「……ん? 何か、騒がしくない?」


 「本当ね。他の司祭様が続々と集まってきてるわ」


 ほう……コリウスの奴、もしかして良いスキルを引いたのか?


 なるほどなるほど。これでアイツは調子に乗って俺達を馬鹿にしまくり、才能に頼り切って努力を怠り、そして俺に倒されるのか。なんてテンプレ通りなんだろうか。


 「――『女神の加護』が出たぞ! 300年前の大陸戦争を終結させた、勇者様と同じスキルだ!!!」


 「――へ?」


 ……そのスキルを、俺は知っている。いや、知らない奴の方がきっと少ないだろう。


 だってそれは、有名な逸話の中に登場する、伝説の勇者が保持していたと言われるスキルなのだから。


 『女神の加護』。そのスキルを持つ者は、あらゆる才が開花する。ありとあらゆる能力が向上し、その手に持つ武装は朽ち果てた剣であろうと、魔を穿つ聖なる剣と化す。


 そして最も強力なのが……このスキルを持った人間は、老衰以外で死ぬことは決してないのだ。どんな攻撃も、どんな病魔も、その者を滅することは決してない。


 最強……そんな言葉が似合う、俺が心の底から羨望していたスキルだった。


 「わぁ……! コリウス君、凄いや!!!」


 「ふんっ。他の誰がどんなスキル持ってたって、どうでも良いじゃない。ほら、終わったなら次は私よ!」


 「………………」


 『女神の加護』が同時に、同じ村から現れるという可能性は、どれほどだろうか。300年間現れなかったスキルが、同時期に連続して現れる。


 そんなこと、ありえない。それはつまり……俺は、あのスキルを貰えない。


 当たり前の事実が、俺は信じられなかった。俺が思い描いていたはずの未来が、暗くなっていく。


 「……ブラウ君? どうかしたの?」


 「どうかしたじゃ、ないだろ……アレは、俺が手にするはずだったのに……!」


 あぁ、違う。そんなセリフは、主人公には似合わない。


 これじゃまるで――俺が、物語の噛ませ役みたいじゃないか……!!!


 「ねぇ、ブラウ君。僕、知ってるよ。ブラウ君がたっくさん、誰よりも頑張ってたとこ」


 「……だから、何だよ」


 「女神様はきっと見てるよ。だから、きっと大丈夫。たとえ『女神の加護』じゃなくたって、凄く良いスキルが与えられているって!」


 辞めてくれ。そんな眩しい笑顔で、俺を元気付けないでくれ。そんな風に、俺を見るな。


 つい出そうになった拒絶の言葉を、必死に飲み込んだ。これを言ってしまえば、俺は本当に主人公でなくなってしまうと思ったから。


 「せ、『聖女』のスキルだ!!! これはまさに、女神様の思し召しだ!!!」


 「―――――」


 違う。やめてくれ。これ以上、そんな現実を見せないでくれ。


 「次、ブラウ君が先で良いよ。コリウス君やマコちゃんみたいに、きっと凄いのが出てくるよ!」


 「あ、あぁ……そう、だな」


 迫り来る現実と、それを否定する俺。だが、心の奥底では何となく分かっていた。


 「君は……あぁ、『騎士』のスキルだ。4等級スキルは中々良いぞ」


 スキルにはランクが存在する。たとえば、先ほど出た『女神の加護』や『聖女』が1等級、そこから8等級まで多種多様なスキルが確認されている。


 俺の『騎士』スキルは、4等級。当たりではないが、外れでもない。努力次第では2,3等級のスキル持ちと並べるかどうか……そんな中途半端なスキルだ。


 当然、1等級のスキルとは勝負にすらならない。どこにでもありふれていて、平凡で、前世と何ら変わりない……モブキャラの持つ、スキル。


 「は、はは……あはは」


 「ぶ、ブラウ君……? あの、その……」


 「そこの君! 早くしなさい!」


 「あっ……ご、ごめん。行かなくちゃ」


 目の前がぼやける。誰にもこんな姿を見せたくなくて、俺はその場から走り去った。


 「くそ……! くそくそくそくそ、くそぉ!」


 凄いスキルも、一見使い道がないように見えるスキルでも無い。凡庸で、何の変哲もない、普通のスキル。


 これだったらスキルがない方がマシだった。その方がきっと、主人公らしい。なのに、俺は中途半端なスキルを持ってしまった。


 俺は主人公じゃなかった。主人公は……きっと、コリウスかレオのどっちかだ。


 ヒロインはマコで、俺は……俺は! ただのモブキャラなんだ……!


 「畜生! じゃあなんで、俺は……!」


 こんな記憶がなければ、夢なんて見なかった。前世の記憶なんて、何の役にも立たない。

むしろ豊かな生活を知っている分、寒村での不便な暮らしが嫌になるだけだった。


 だから、俺は必死に夢を妄想することでその不便さを許容していた。


 そのための努力だって沢山した。勉強もして、身体を作って、辛くて痛くても必死に我慢した! 俺はきっと、この物語の主人公なんだからって!


 「俺は……! 英雄になりたかった!」


 でも、もうなれない。あんな凄いスキルを持った奴らには、到底敵わない。


 「あぁああぁああぁぁ!!!」


 誰もいない路地裏で、俺は泣き叫んだ。それと同時に、何かがポッキリと……折れてしまった。


 「…………女神様なんて、居ねぇじゃんか」


 その日、愚かな男の夢が一つ……けれど確かに、砕け散った。


 どこにでもある、くだらない話だ。それが、俺の人生だった。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。