14.雲の下の約束
ハイバードの群れの対処に成功し、一息つく。
といっても、僕の体はワイバーンにまたがって空を飛んでいる。
この足で大地を踏むまでは、安心できない。
「これでよいだろうか」
ワイバーンがこちらに聞いてくる。
ああ、いいぞと言おうとしたところで、ふと茶目っ気が湧いてきた。
「まだだ、と言ったら?」
「逃げた残党の羽を、残らず焼き尽くすが」
「……冗談だよ、あんまり炎を吐かれちゃ困る」
「そうか」
ワイバーンはそう言うと方向を変える。
「よければ、元の場所まで送っていこう」
「頼む、だけど人が多そうなところは避けてくれ」
「分かっているさ、少し回り道をしよう」
行きは急ぎだったので、最短ルートを突っ切るように飛んできてしまったが、人々に近いところを飛んでしまうと怖がらせてしまう。
そのため、なるべく外側を回るようにしたい。
ワイバーンもその気持ちはくみ取っているようで、さっき来た道とは別の方向を向いて飛び始めた。
「そういえば、昨日僕たちに助けを求めてきたメンバー、お前に礼が言いたいらしいぞ」
「あの男か、彼とはまた縁がある気がする。そのうち会った時にでも聞こうか」
「……なんでそう思うんだ?」
実際、ガルージュとはまた会うことになるだろう。
昨日の話し合いで、何かあれば自分が行くと言っていたから。
だが、その場にいないワイバーンは当然そのことを知らない。
それゆえに、なぜそんなことを言うのかが気になった。
「ただの勘だ」
「それだけか?」
「彼は良い人間だと思ったのだ。仲間のために手を尽くしていた」
「でも、あの状況を解決したのはお前の力だ。お前がいなかったらどうにも……」
「自分で戦うことを諦め、周りに助けを求めるということも立派な手段だ。彼が私達のところまで来なければ、仲間を助けることはできなかっただろう」
昨日、ブレイズに似たようなことを言われたことを思い出す。
「お前、人間らしい物言いをするんだな」
「そうか? 君に合わせているつもりはないがね。ただこうして意思疎通できる間だ、言う事が似ることもあるのではないか」
変な言い回しだが、妙に納得感のある一言だった。
よくよく考えれば人間とワイバーンが会話をするのもおかしい話だが、今までそれを無意識に受け入れていた。
なぜこんなことが起こっている? 魔法の副産物か? どういう原理で成立している?
頭の良い人はこの事にすぐ気づいて思考を巡らせているだろうが、僕はそうではないようだ。
「ワイバーン同士はこうして話したりするのか」
「ワイバーンといっても色々ある。こうして言葉で通じ合える者もいれば、風を切る音でないと難しい者もいる。産まれたばかりの者以外が皆言葉を交わすことができる人間の方が、珍しいものだ」
「僕たちが気が付いてないだけで、他の種族も会話しているってことか」
「あまり気にしない方がいい、聞こえない方が良い話もある」
ワイバーンと話をしながら、遠くの景色に目を移す。
広大な陸地の先には海が広がっている。
海の先は僕の目では見えない、だが別の地があることを僕は知っている。
陸を繋ぐ船に乗ったことがあるし、今も海を進んでいる船が小さく見える。
この地に住む人々にとって、海をたどって別の地に渡ることは珍しいことではない。
「ワイバーン、あの先に行ったことはあるか」
「ああ、君と出会う前は違う場所で過ごしていた」
「その……どうなんだ、上から海を渡る気分っていうのは」
思った事を口に出す前に、一旦口直しの言葉を発する。
「気分か……そこまで良いものでもない。広い海を下に飛ぶと、自分が小さな存在に感じるのだ」
「え、そうなのか」
「それだけではない、陸には多くの生き物がいるが、海は静かな場所だ。この身に孤独が染みわたる瞬間もある」
この返しは意外だった。
潮風を切るのが心地良いとか、障害物を気にせず飛べるとか、そういうポジティブな言葉が聞けると思っていた。
「なんか信じられないな、その感覚」
「そう言うのであれば、今から飛んでみようか。元よりこの一言を期待していたのではないか」
「……その通りだよ、すごいなお前は」
言いたいことを逆に言われてしまった。
そう、僕は一度高い場所から海を渡る感覚が知りたかったのだ。
「まあ、また今度頼む。今日はこのまま戻るよ」
「よかろう、君を乗せれば孤独は和らぎそうだ」
僕の言葉を聞いたワイバーンは、少しずつ高度を落とす。
下を見ると、切り開かれた道がそこにはあった。
ここに着地すれば、あとは歩きで町まで戻れそうだ。
「ここは都合が良さそうだな、今後同じようなことがあれば、ここに降りるようにしよう」
「ああ、頼むよ」
やがて地上に戻り、ワイバーンから降りる。
足に大地を感じ、安心を得る。
「言い忘れていた。もしドラゴンを見たら、もう私には関わらない事だ」
「……おい、それってどういう……!」
ふと言われた言葉を少し遅れて聞き返そうとしたが、ワイバーンはもう飛び立っていた。




