13.空中戦
町のはずれまで一気に走り、昨日ワイバーンと会った場所まで来た。
息を切らし、膝に手をついて下を向く。
だが、あまり休んでいる暇もない。
こうしている間にも、ハイバードの群れは飛び続けている。
「ワイバーン!! いるか!?」
空を向きなおして、思い切り叫ぶ。
しばらくしーんとした空気がこの場所を包んでいたが、やがて風が吹き始める。
僕の前の落ち葉が飛ばされた次の瞬間には、紫のワイバーンが目の前を飛んでいた。
もう三度目ということもあって、驚きは薄れていた。
ワイバーンは僕の前に着地すると、翼をたたんで口を開く。
「案外、早い呼び出しだったな。私の力が必要か」
「ああ、この町にハイバードが迫っている。お前の力で追い払ってほしい」
「いいだろう、人の手ではなかなか手間のかかる相手だ。私の翼で、お調子者たちに分かってもらおうではないか」
昨日の言葉通り、すんなりと合意するワイバーン。
正直断られるかもと思っていたので、一安心だ。
「それで、君はどうする?ここで待っていてもいいが」
「……僕も行く、乗せてくれないか」
「ほう、別にいいぞ」
ワイバーンは、関心をふくんだ声で返事をした。
僕が背に乗って同行することは少し意外だったらしい。
「では、行くとしようか」
「ああ」
昨日のように、ワイバーンの背に飛び込む。
足をうまく体にまたがらせ、重心を落とす。
「しかし不思議なものだ、私だけで片付けても良いというのに。君が乗る理由はあるのだろうか」
「別に、お前がさぼらないか見張るためだ」
僕が言ったことは間違いじゃない。
まだ、ワイバーンを100%信用したわけじゃないから。
ただこれは建前みたいなもので、本音を言えば
もう一度、こいつの背に乗ってみたいという気持ちがあった。
ワイバーンはこちらを見ると、その翼をはためかせた。
次の瞬間、浮き上がるような感覚とともに一気に高度が上がっていく。
二度目なので前よりはましだが、まだ慣れたとはいいがたい。
それに、気のせいだろうか。
「おいワイバーン、前より高くないか?」
「ああ、今回は彼らと同じ高さで戦うことにしたからな。少し驚かせてしまったか」
「いや……いい」
やはり、前より明らかに高度が高い。
少し落ち着くと、見える景色もまた違う事に気が付く。
前方には、昨日宿舎から見た地平線が更に広がっている。
上を見ると、普段は届くはずもない雲が、頑張れば届きそうだと思える位置まで近づいていた。
後ろを向けば、僕たちが普段足をつけて暮らしている町が、とても小さくなって見える。
ブレイズのグリフォンに乗ったときと比べても、明らかに違うと分かる光景だった。
まるで夢を見ているかのよう浮遊感と、現実味のない景色。
そんなことないのだが、いっそ飛び降りてもいいのではないかと思ってしまう。
「あれだな、今回の目標は」
ワイバーンの声で我に返る。
右を向くと、ハイバードの群れがかなり遠くを飛んでいるのが見えた。
十羽ほどいて、そのどれもが町の方向を向いている。
彼らが町を目的にしているとは限らないが、それでも何を考えているかは分からないので、追い払わなければならない。
「ワイバーン、ひとまず奴らに近づいてくれ」
「焼き払ってもよいのか」
「そうだな……ひとまずは穏便に済ませたい。攻撃されるまでは別の方法で頼む」
「いいだろう、こちらにも考えはある」
ワイバーンはそう言うと、一気にハイバードの群れへと近づく。
彼らもこちらの存在に気が付いたようで、群れのうち何羽かは少し慌てる様子を見せる。
だがそれも気にせず飛び続ける者もいて、どうするかと悩んだその時だった。
「耳をふさぐのだ」
そう言われたので、その通りに両手で耳をふさぐ。
落ちないように足に力を入れた瞬間、全身を震わせるような咆哮が鳴り響いた。
耳を塞いでいてもなお、鼓膜に圧を感じる。
足から頭のてっぺんまで通り抜けたそれには、ワイバーンという種族の力が宿っているようだった。
気を取り直し、改めてハイバードの方を見ると、やはりそのほとんどが背を向け飛び去って行く。
だが、一羽だけは逆にこちらをじっと見ている。
その距離は先ほど比べて近くなっており、さっきまでは輪郭がギリギリ見える程度だったのに対して、今はその目の色まで見えるようになっていた。
「どうやら、やらなければならぬようだ。いいな」
ワイバーンがハイバードの敵意を感じ取ったのか、僕に戦う許可を求めてきた。
本当は一羽も殺さずにことを済ませたかったが、こうなっては仕方がない。
「ああ、頼むぞ」
僕のこの発言は、この場に限っては撃鉄を落とすようなものだった。
次の瞬間、ハイバードが甲高い鳴き声を上げ、そのクチバシから衝撃波を飛ばしてきた。
こちらを正確に捉えた一撃が目の前に迫ってくる。
だが、ワイバーンはまるで地上でサイドステップをするかのような動きを見せ、衝撃波を簡単に避けてしまう。
僕が衝撃波を目で追っている間に、手足がどんどん熱くなるような感覚が走る。
はっと手元を見るが、その時にはすでに熱さは引き、目の前のハイバードが紫色に燃え上がっていた。
僕が声を出してから、五秒も経たないうちの出来事だった。
丸焦げになった命が、真下の森に落下していく。
僕はそれを、半分放心した状態で見つめていた。




