第43話生まれ変わったんだ
そうだ。今日、俺が2人に来てもらったのは、愚痴を聞いてもらうためじゃない。
気合いを入れて、缶ビールをドンと置く。
「兄貴。ともねえ。頼みがある」
兄貴とともねえにハテナマークが飛ぶ。
お前、誰?
……って、思われてる。
「何なのよ。急に、かしこまって……」
ともねえが、珍しく動揺してる。
そうだろうな。今までの俺なら、これで終わりだ。でも、今は違う。
俺は、生まれ変わったんだ--!
「俺は、優乃さんと幸せになるために、この命を使いたい。だから、2人に協力してほしいんだ」
兄貴の知恵と、ともねえのコミュ力。
俺の力で、某RPGの最強三角形、完成だ!
兄貴が、ふっと笑う。
「よし。じゃあ、勉強しよう」
兄貴が立ち上がると、次の瞬間――
ドサアアッ!
机の上に、大量の分厚い本が置かれた。
ブックタワーになってる。
どっから、集めてきたんだよ。これ。
「この辺は、医学系の参考書だな」
兄貴がブックタワーの下の方を指差す。
一応、『入門』とは書いてある。
でも、そんな難しいもん、俺に読めるのかな。
「なるほど~。優乃の病気のことを、ちゃんと勉強しておく……と」
ともねえのテンションがはね上がる。
うう……さすが、病院で働いてるだけある。
でも、優乃さんも看護師だし……。
俺も、知っとくべきだよな。うん。
「この上の方は、終活関係の本。年を取った時に必要なお金や制度の話が書いてある」
兄貴がブックタワーの上の本を指差す。
聞いてるだけで、めまいがする。
まだ、一文字も読んでないんだが。
「勢いじゃなくて、知識で勝負するってわけか」
「そういうこと。これなら、年取った時に、頼れる親族が……っていう話をある程度、クリアできるだろ?」
「すげ~……」
さすが、神童。考えるレベルが、俺と違う。
俺、兄貴の弟でよかった。今さらだけど。
それを気づかせてくれた優乃さんに、感謝しなきゃな。
「俺なりに、勉強して、考えて、決めたんだ。優乃さんとともに、人生を歩むことを……って言った方が、説得力あるもんね~」
ともねえがニヤニヤしながら言う。
でも、これで、丸くは終わらないのが、俺だ。
「俺、本なんて、高校卒業以来、読んだことないんだけど……」
兄貴とともねえがずっこける。
しかも、息ピッタリ。
某お笑い芸人養成所の芸人みたいだ。
「最初は、ネットでもいいんじゃない?」
「そういうもんなのか?」
「朋美の言う通りだ。ま、ネットはいろんな情報があるから、結局は、本で読んだ方がいいけどね」
「へえ~……」
俺、目をぱちくり。
30歳にして、新しい扉が開かれた。
人間は、いくつでも、成長できるんだな。
「それにしても、篝が、自ら勉強する日が来るとはなあ……」
「感慨深いわよねえ」
「なんだよ……それ……」
兄貴も、ともねえも、俺をなんだと思ってるんだ。これでも、ちゃんと、高校は卒業したんだぞ。
「よし。今日は、このへんでお開きにするか」
兄貴がビールを飲み干す。
気づけば、酒も、つまみも全部なくなっていた。心なしか、兄貴のテンションも高い。
……ったく。他人事だと思って。
その隣では、ともねえがにやりとする。
「私は、私で考えておくわ。篝には、絶対に、あの鉄壁のガードを崩してほしいからさ」
「……わかった」
何させるつもりなんだろう……怖いな。
あまりいい予感はしない。
ま、いいや。
なんだって、どんとこい!
生まれ変わった俺が、受けて立つ——!




