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第24話俺の器

ちらっと優乃さんの買い物かごの中を見ると、特売の惣菜が大量に入っていた。そのほとんどは揚げ物だ。見ていると、心配になってくる。


いや。余計なお世話だろうから、心の中にしまっとくけど。


「何、見てるの?」


「え……えっと……」


優乃さんの買い物かごの中身を見ていた……わけではなく、花火大会のポスターを見ていた。嘘じゃない。ちょっと、かごの中のインパクトが強すぎて、忘れかけていただけだ。


俺は、優乃さんを誘導するように、花火大会のポスターへ視線を移した。


「花火大会か~……いいね~」


優乃さんが目を細める。俺の家の近くの港で開催されるみたいだし、誘ってみるのもありなのかな。


「あ、あの……」


ここで、すっとスマートには誘ればいいんだけど、残念ながら、そうはいかない。もじもじしていると、優乃さんが、


「一緒に行く?」


と言って、俺の方を見た。できれば、順番を逆にしたかったけど、これはこれで結果オーライだ。


「え?いいんですか? 俺で……」


頭が真っ白になる。声が裏返ったのが、自分でもわかるくらいだった。我ながら、情けない。そんな俺を見て、優乃さんがにこにこと優しく笑う。


「うん。久しぶりに行ってみたいな」


「久しぶり……?」


「うん……何年ぶりだろう……」


優乃さんが腕を組んで、考え込む。俺は俺で、初めてじゃないなら、誰と行ったのか……いや、過去のことなんだから、誰でもいいじゃないか……と気になっていた。


「行ったこと、あるんですね」


「うん……でも、独身になった後は、行ってないから……6年ぶりになるのかな」


「へえ……」


平静を装っているが、俺は、気が気ではない。なんとなく、この感じは男だ……だったら、浴衣の優乃さんとキャッキャウフフしてたのかな。俺のジェラシーは止まらない。


俺がジェラシーをめらめら燃やしていると、惣菜売場の方から、よく響く鐘の音が聞こえてきた。


「あ。唐揚げの特売が始まっちゃう。またね」


「はい……また……」


そう言うやいなや、優乃さんはくるりと踵を返し、惣菜売場へと軽やかに歩いていく。残された俺は、惣菜売場の鐘の音に包まれながら、呆然とその背中を見送るしかなかった。


「……久しぶり……か……」


まだ、やらなきゃいけない仕事はたくさんあるのに、頭の中は、そのひと言でいっぱいだった。胸の奥にちくりと小さな棘が刺さったみたいに痛い。俺の器、ちっちゃいな……。


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