第23話ニヤニヤinニコニコ
広くもなく、狭くもない面積に、食料品と日用品だけが置かれた地元密着型のスーパー……それがスーパー・ニコニコだ。
「おはようございます……」
朝6時に出勤すると、ニコちゃんマークの入った赤いエプロンをつける。誰か、言わないのかな。このエプロン、ダサいって。
しかも、俺が子どもの時からずっと同じ場所にあるから、建物自体は古い。だから、拭き掃除をしようが、掃き掃除をしようが、きれいにはならないんだよな。
「それでは、本日の朝礼を始めます」
「やべっ……!」
息つく暇なく、俺の面接を担当した白髪まじりのおじちゃんが、俺を含め、数人のスタッフに、納品状況や特売情報を話す。これが、鬼のように、眠い。眠いけど、開店時間はやってくる。チラシを持った70代前後のマダムとともに。
「いらっしゃいませ~」
眠くても、商品を並べていても、お客さまには、笑顔で挨拶することだけは欠かさない。我ながら、いい社員だ。
「このチラシの特売のお肉は、どこにあるのかしら」
某大手アパレルショップの服を着たマダムが俺に近寄って、チラシを見せる。その霜降肉は、今日の特売の目玉だ。
「そのお肉は、野菜売場と精肉売場の間に置いています」
「まあ。ありがとう」
マダムたちのチラシチェックは、とても細かい。わかりませんと答えようものなら、最悪、店長にいちゃもんをつけられる。
俺も、いつか店長の立場になって、マダムと戦う日が来るんだろうな。
いや。入社して間もない今は、季節の野菜であるきゅうりとなすびを補充することに全力を尽くそう。
「はあ……疲れた……」
体力には自信があるけど、予想以上にきつい。
午後になっても、この流れは止まらず、気づけば、もう夕方だった。そして、時には、やる気がなさそうな年下のヤンキーくんや化粧濃いめのおばちゃんたちパートスタッフを集めて、
「このそうめん、あの新商品の棚に並べてもらえますか?」
と指示をしなければならない。
「は~い」
ただ、そうめんの袋を並べるだけなのに、みんな、ダラダラやってて、終わりが見えない。この前まで、俺も、あっち側の人間だったんだけどな。
「お疲れ様でした~」
パートスタッフがようやく、そうめんの陳列を終えて、散らばっていく。そうめんに罪はないけど、そうめんは当分、見たくないな。
パートスタッフが解散したのを見送った時、ふと色褪せた掲示板が見えた。掲示板には、花火大会のポスターが貼ってある。
近寄ってよく見ると、来週の土曜日に、俺の家の近くの港で開催されると書いてあった。
「花火大会か……」
来週の土曜日は、シフトが入ってなかったはずだ。優乃さんの予定が合えば、花火デートができる。
浴衣姿の優乃さんを想像しただけで、勝手に顔が緩む。きっと、見た瞬間、心臓が止まるくらい、かわいいに違いない。
「篝くん」
「うわっ……!」
よく通る凛とした声に名前を呼ばれて、俺は、我に返った。そうだ。ここは、スーパー・ニコニコだったと思いながら、振り返る。
そこには、優乃さんが、スーパー・ニコニコの買い物かごを持って、立っていた。
「ゆ、優乃さん……」
ガチガチに緊張しながら、名前を呼んでみると、優乃さんは優しく微笑んでくれた。
「お仕事、お疲れ様」
「お、お疲れ様です……」
多分、にやけたのは、バレてない……はず。
でも、なんだかバツが悪くて、優乃さんの目を見られなかった。胸の鼓動だけがやたらとうるさい……どうしたもんかな。




