第17話優先順位
休憩室に着くと、妖精と勇者は、ネモフィラソフトという名の、青と白が半々で表現されたソフトクリームをモグモグしていた。
「おいし~」
春川さんがにこにこしながら、ソフトクリームを頬張る。
「そうですね。生きてて、よかったなって思います」
「不知火くんが言うと、リアルだね」
「自分でもそう思います。なんか、価値観が変わったなって……」
そう。あの事故の日以来、俺は、何をしてても、楽しもうと思えるようになった。こうして、春川さんとソフトクリームをモグモグできるのも、そのおかげだ。
「不知火くんって、今までどんな人生を送ってきたの?」
春川さんから急に聞かれて、むせそうになる。
春川さんの厚い壁が薄くなってきている。
ここは、俺をPRするチャンスだ。
「よくある家庭で育ってきただけですよ。両親は会社員で共働き。強いていうなら、兄貴が近所で神童扱いされてたことくらいかな」
なんで、同じDNAなのに、こんなに違うんだろう。当時は、よくそう思ったものだ。
「不知火先生、昔から頭がよかったんだね」
「まあ……そうですね……」
「私、兄弟がいないから、羨ましいな」
春川さんがぽつりと呟く。
それが、そうでもないんだな……。
「兄貴は勉強して、医者になりました。でも、俺は、勉強が好きじゃなかったから、高卒で働き始めたんです」
やがて、この街自体から、逃げたくなった。そして、俺は、逃げたんだ。
それなのに、まさか戻ってくるとは。
あの時の俺には、想像もつかなかったはずだ。
「へえ~……そうなんだ……」
「はい……それで、今も仕事を転々としてるんです」
「え……」
春川さん、目をぱちくり。
やばい。地雷、踏んだ。春川さんに嫌われるんじゃないかって思うと、心臓がバクバクする。
「あ……だから、その……今、転職活動をしてい……ます……」
ちゃんと、やっててよかった。俺は、発破をかけてくれた、兄貴に心から感謝した。
「そ、そっか……それは、大変だね」
春川さんがほっとしたように、胸を撫で下ろす。地雷回収完了。
「春川さんは……?」
恐る恐る、俺も尋ねてみた。
「え?」
「いや……俺も、春川さんのこと、もっと知りたいな……って、思って……」
にこにことしていた春川さんの表情に少し影が差す。ぎゅっと拳を握り締めながら、ゆっくりと口を開いてくれた。
「私はね、幼い頃に両親を亡くして、児童擁護施設で育ったの」
「そうでしたか……」
「でも、看護師になって、友達の紹介で、元夫に出会った……これで、家庭が持てるって思ったんだけど、現実はそう甘くはなくて……」
「あ、ああ……」
春川さんが俯いて、今にも泣きそうな顔をする。そういえば、離婚したって、言ってたな……と今さらながら、思い出した。
「いいですよ。それ以上、話さなくて」
「不知火くん……」
春川さんが寂しそうな顔をする。こちらこそ、そんな顔をさせて、申し訳なかった。
「そろそろ、歩きましょうか。また、写真、撮りますよ」
「ありがとう」
少しだけ笑顔を取り戻した春川さんを見て、俺は、ほっとした。やっぱり俺は、この笑顔を守りたい。
もちろん、話の続きが気にならないと言ったら、嘘になる。でも、春川さんが嫌がることはしたくない。だから、今は、まだ、この笑顔を優先しようと思う。




