第16話妖精と勇者
春川さんと一緒にネモフィラの花畑を歩く日が来た。幸い、今日は雲一つない晴天だ。
「わあ……きれいだね……」
隣にいる春川さんがにこにこと笑う。
ネモフィラの花が、青い絨毯……とまではいかないが、マフラーのように、風でふわふわと揺れていた。
「そ、そうですね……」
きれいだけど……まだ三分咲きかな。
いや、三分咲きで合ってんのかな。
う~ん……表現の仕方がわかんないな。
「いいよ~。だいたい咲いてれば」
「だいたい……?」
だいたいって、どのくらいのことなんだろう。まあ、春川さんの笑顔が満開だから、いいんだけど。
「見てみて。フォトスポットだって。素敵だね~」
首を傾げていると、春川さんが俺の服の裾をくいくいっと引っ張った。確かに、それっぽい木のフレームがある。
「写真、撮りましょうか?」
「うん。お願いします」
春川さんのスマホを預かって、準備をするうちに、春川さんが木のフレームの方へ移動する。
「撮りますよ~」
「は~い」
春川さんがポーズを決めたところで、スマホを掲げる。
スマホを掲げた俺は、初めて、剣を構えた勇者のように緊張し、震える手で、ボタンを押す。
スマホに収まった春川さんは、今日も、妖精のように、かわいかった。
「ありがとう」
「いえ……こちらこそ……」
俺は、その写真を額に入れて飾りたいという邪念を祓いながら、春川さんにスマホを返した。
「ねえねえ。ネモフィラソフト、食べてみようよ」
春川さんが再び、俺の服の裾をくいくいっと引っ張る。言ってることも、やってることも、無邪気な妖精だ。
「そうですね。休憩しましょう」
春川さんが妖精なら、俺は、導かれる勇者だ。どこまででも、一緒に行ける。そんな気がした。




