第15話怖いものなんて、何もない
生きてるからには、幸せになりたいという思いを胸に、俺は、就活を始めた。
「正社員か……」
俺のスキルといえば、大型車の運転免許くらいだ。でも、長距離ドライバーになったら、春川さんとデートができなくなる。
何か、いい仕事はないものか。
求人情報サイトよ。俺に力をくれ……と思い、「未経験歓迎/シフト制」の文字に目を止める。
――その時、画面が切り替わった。
「は、春川さん……?」
思ったのと違うけど、これはこれでいい。俺は、スマホを耳に当てた。
「もしもし。今、大丈夫?」
「は、はい……」
耳元で、優しい春川さんの声がする。囁かれてるみたいで、どきどきした。
「今度ね、ネモフィラ、見に行きたいなって、思って……」
「ネモフィラ……」
……とは何ぞと言えず、俺は、語尾を濁した。
「花畑を不知火くんとお散歩できたら、楽しいかなって、思って……」
「ぜひ、お願いします……」
どうやら、そういう花があるらしい。花畑を見ながら、春川さんと一緒に歩く……なんだか、少女漫画に入ったみたいなデートでいいな。
「場所のURL、またチャットで送っておくね」
「わかりました。当日は、駅まで車で迎えに行きます」
車といっても、兄貴のお古のオンボロ軽自動車だ。幻滅されるかもしれない。せめて、掃除だけはしておこう。
「ありがとう。じゃ、またね」
春川さんが、優しい声で電話を切る。また、一緒に遊びに行けるなんて、夢みたいだ。
「よし……!」
俄然、求人サイトを見る手に気合いが入る。大丈夫。仕事だって、恋だって、もう、俺に、怖いものなんて、何もない。




