◯ワ◯ラ会議・後編
タイトル名の由来が明かされます。そして次回からは
2話ほど学園パートに移り、2話目の後半からVRパート
に戻ります。
48話
現在、SAFの開発会社『電脳森羅』では、
リアルフィジクスモードの撤廃についての
議論が交わされていた。
「リアルフィジクスモードの闇…………
この部分も含めて皆様を納得させられる
ものになっているでしょう…………」
リアルフィジクスモード発案者の龍部長は、
現在6人中4人から賛成票をもらうことに成功した。
残り2人から賛成票を貰うためには、誰もが
リアルフィジクスモードを楽しく遊べる根拠と、
物理だけでなく魔法でも楽しく遊べる根拠を
示さなくてはならない。
「ピカリン☆ピカリン☆」
雲母部長はピカリンファンなのか、先程から
会議そっちのけで動画を楽しんでいる。そして
根拠を示す為の動画が流れ始めた。
『グッグッナインルーチューヴ。どうもっ!
ピカリンでっっす!! ほーんじつは何やら
美しきアバターのサイン会が開かれているようで、
私もさーっそくライブ中継しながら
サィィインを頂こうかと思いますっ!』
そう言って足を動かそうとしたときだった。
『ウェイト! なーにやら様子がおかしいですねぇ
…………キャメラァァ! ズゥゥウム、ゥオォォオオン!!』
ビシッ! っと指を指し、カメラマンに指定の
方向を拡大させた。
『あっと! こ、これは!?』
ピカリンは向こうで起きている様子に度肝を
抜かれた。何故なら…………
『リアルフィジクスモードで一人旅とか
頭沸いてんのか!?』
『コイツは危険だ! 排除だ!!』
『レオン、お前も切り替えてやれよ』
『フッ、当然。俺の勧誘を断る奴は、服を
ひんむいて公開処刑だ!』
荒い連携攻撃が、銀髪美少女に襲い掛かったからだ。
『武器はモンスターを討伐するための物です!
ユーザー同士に向けないで下さい!』
『うるせぇ! さっきから正義ぶってん
じゃねぇぞ!!』
大振りの片手斧をしゃがんで避ける。
『避けてないで反撃しろや!』
魔法使いが煽るように『マグ・ショット』を放った。
『お断りします! 私は幼少の頃より
野蛮な真似をしないと誓っていますので!』
紙一重で避けながら答えて見せた。
『へぇ、じゃあ裸晒すまでじっくりと
いたぶってやろうぜ!』
『いいね~』
『賛成!』
この様子にピカリンは
『これは、単純にいじめです。見ていられません!』
見ていられず単身で駆け出した。そして画面外でも…………
「な、何よこれ…………強い弱いとかじゃなくて、
多数派による少数派の虐めじゃない…………」
雲母部長が☆をつけ忘れる程、迷惑ユーザー達の
悪行にうちひしがれている。
「醜いでーす…………」
「我等はPKの数でユーザーのBANを決めていたが、
なる程、道理でこのようなことが無くならなかった
訳だ」
ロビンス部長は率直な感想を述べ、相川部長は
自分達の不甲斐なさに歯軋りをした。
「ここまで醜いユーザーがこんなに居たとはね
…………排除すべきはリアルフィジクスモード
ではなく、彼らだったんだよ」
社長も言葉こそ柔らかさを持っていたが、
真剣な眼差しかつ重く言い放った。
そして動画では…………
『今助k…うお!?』
ピカリンのスピードが最高まで達しそうになった
瞬間、一部の迷惑ユーザーの武器が、矢の直撃で
はたき落とされたのだ。
『恥ずかしくないの!? 1人の女の子を
よってたかっていじめてさ!!』
ピンク髪の女アーチャーが銀髪美少女を
庇うように前に出た。
当然男達に色々と言われたが、ある一言に
手痛い反論を返した。
『そういうお前だって、以前俺達とアレウスを
いじめてたじゃねーか!』
『そうよ、返り討ちにされて、それから
しばらくしてギルドに入ったことで、
いかに愚かなことをしていたかを
思いしらされたわ。対する貴方達は
未だに愚行を続けている事が恥ずかしく
ないの?』
『無いね。お前こそ俺を裏切った恩知らずの分際で、
恥ずかしくないのか? ミュー』
この一言に対し…………
『あら、ウィルソン団長……こほん、失礼、
"元団長"、お久しぶりですね。相変わらず
戦士のレベル15で、可愛らしいですね』
『てっ、てっ、てめっ…………』
ピンク髪の女アーチャーことミューは、
ウィルソンが別れてから全く強くなって
いないことを遠回しに馬鹿にしたのだ。
そのため、彼はとても恥ずかしい思いを
している。
『何にしたって、アグロフラッシュのミューが
来たからには、この子に手出しさせないわよ』
現在の身分も明かし、集団相手に強気になる
ミューを見て
『ぶっ殺…』
ウィルソンはPKすべく駆け出そうとしたのだが
『うるさい』
無慈悲な一言と共に、ミューの矢が脳天に
突き刺さって死に戻りする結果となったのだ。
『あ…………ミュー様……私はどうなっても構いません。
これ以上貴女の手を汚すわけには』
『違うわよ。これは私が好きでやってることなの。
だから気にしないで。人を傷つけたくないなら
そこにいてね。絶対に私が守るから』
自分の為に…………と、ミューにこれ以上迷惑を
かけんとする銀髪美少女に対しても、絶対に
守る主旨を念押しした。
『へっ、言うじゃねぇか。この人数相手に
勝ってみろや!!』
怒号と共に、迷惑ユーザー達全員が距離を摘めるが、
ミューはアーチャーカンストまでに鍛え上げた
ステータスとスキルを駆使し、的確に銀髪美少女を
守り抜いた。
「多対1でここまで動けるのは凄いね…………」
「この子気が合いそう~☆」
鬼塚部長が感心し、雲母部長が大喜びする。
『俺様の出番だな。見せてやるぜ雷速を超え、
光速に達した俺の剣技!』
先程まで静観していた剣士が『紫電一閃』を
発動しようとし始めた。
『ハッ! 間に合わないっ!』
ミューの獅子奮迅の動きに見とれていたピカリンは
出遅れてしまい、彼女達を守れない。と、思いきや
『ん!?』
誰かが『紫電一閃』並みの速度で走ってきた。
『ブライトスラッ』
『おっっっそ!!』
そしてそのまま『紫電一閃』の発動と同時に
止めてしまった。
『アレウス君!?』
当然と言うべきか、ミューが孤軍奮闘している
様子を見て助太刀に来たらしい。彼はミューを
さらっと褒めた後、迷惑ユーザーの中心人物を
遠投し、剣士の剣であり得ない速度の一閃を
見せた後、『紫電一閃』で瞬殺の手本を見せつけた。
残党が我に帰り、ミューに攻撃しようとした時も
『ああ!?』
『ひゃああああ~~!!!』
1睨みで残党全てを逃走させた。
動画はここで一時停止された。
「私は思います。銀髪の無名ユーザーや
ミューさんを虐めようとする彼等を除く
ことにより、リアルフィジクスモードも
差別無く楽しめるのではないかと!」
「でも…………彼等は古株よ、そう簡単に
BANするなんて……」
副社長が反論したが
「古株だからどうしたと言うのです! 彼らの
ような悪質なユーザーが昔からのさばっていたから、
今のリアルフィジクスモードを取り巻く環境が
最悪な物になったのでしょう! 善良なノーマル
ユーザーとの共存なら、アレウスさんとミューさんを
見れば可能だと一目瞭然です!」
「やっぱりあーしも龍ちゃんの言う通りだと思う。
だってリアルフィジクスモードの皆は何も悪さ
してないもん!」
「…………私は反対意見を撤回しー、賛成に回りまーす」
ロビンス部長が賛成意見に回った。
「理由としてはー、先程のやり取りもですしー、
ちょっとリアルフィジクスモードを貶した評価を
着けたユーザーに逆アクセスをかけたところー、
さっき威張っていた迷惑組のリーダーと誹謗中傷
アカウントが同一でしたのでー、これらの理由から
賛成に回ることにしましたー」
「一瞬で逆アクセスかけるロビンス部長は
やっぱすげぇな」
「同感です」
これにて反対意見は残り1人となった。
その副社長は…………
「…………魔法でも活躍できる根拠を示して頂戴」
「分かりました。少し飛ばしになりますが、
こちらをどうぞ」
動画を10分ほど飛ばした。
『さーて、期待のリアルフィジーカー
イシュタルちゃんがいよいよE級に
昇格しつつあぁります! ファイトォ!!』
『マグ・ショット!』
ノービスが覚える無属性の初級魔法は
アーマーオークの鎧に着弾し、大爆発を
起こして即死させた。
そして動画は一時停止された。
「まず、これで魔法が強いユーザーの存在を証明しました」
「だけど魔法が強くなる条件が明かされてないわ」
「1分ほど飛ばします」
時間が進められ…………
『本っっ当に素晴らしい魔法でしたっ!
ここで物理に強いアレウス氏と魔法に強い
イシュタル氏に強さの秘訣をお聞きしようと
思います。まずはアレウス氏から!』
『はい。……まぁ、筋肉量が多くてちゃんと
筋肉を使いこなせていれば強く速くなると
思いますよ。オススメは現実で筋肥大中心の
トレーニングを行い、SAFで全力疾走とか
ジャンプとかパンチキックとか鍛えること
ですね』
『ありがとーうございましたっ! ではお次は
イシュタルさん!』
『うーん……始めたばかりで的はずれかも
しれませんが、リアルの私の長所を挙げますと、
芸術的な能力がかなり秀でていること、学内で
成績がトップなことが魔法の強さと関連して
いるのかなぁと思われます。違ってたら
ごめんなさい!』
『いやいや、それでも良いのです。因みに
芸術面ではどのような功績を?』
『絵描きコンクールで圧勝したことや、
合唱コンクールでピアノの腕前で強引に
優勝しちゃったこと、その他の楽器でも
多くの優勝を頂いています。書道も既に
最高段位の7段を頂いてますね』
『な、な、な、な~んと!! すぅぅんばらしいっ
芸術センスですっ! よろしければお二方とも、
今後私と共にリアルフィジクスモードの歩き方と
題して、それぞれの強化方法を動画に修めさせては
頂けないでしょうか? 勿論印税は納めますので!』
『面白そうッスねー! 俺はオッケーだ。
イシュタルは?』
『フフフ、私もオッケーですわ』
『ありがとーうございまぁぁああす!!では今後は
お2人と私で、リアルフィジクスモードを活性化
させる動画を撮っていきます。皆様もお楽しみにっ!
では、アデュー!』
ここで動画が終わった。
「開発者の私が詳しい情報を教えるわけには
いかないので、彼ら任せになってしまうが、
今お配りしたリアルフィジクスモードの
魔法関連の向上方法を記した紙を見て貰いたい」
「これは…………」
「ワーオ、ドンピシャ☆」
「認めなければいけませんね、リアルフィジクスモード
継続に賛成します」
「よし、皆さん纏まりましたね! 龍部長、
やはりあなたはこんなタイミングで朽ち
果てる人じゃなかった! 今後ともSAFの
発展に寄与していただけるととても嬉しいです」
「…………」
しかし龍部長は反応がない
「龍部長?」
「だあっはっはっはあっ!! やはり物理学こそ
至高の学問っ! それを撤廃しては回るものも
回らないのだあっ!!」
説得に上手くいき、緊張から解放されたことで、
素の自分が出たようだ。
「あはは☆、相変わらずだね~」
「龍氏、こうならなければ今頃もっと凄い会社に
属していただろうに…………」
「勿体無き事です」
「でもあれが龍さんの個性ですー」
「なんだ、喜んでいるのであれば問題なし!
じゃ、会議は終わりね!」
「分かりました。以上を持ちまして月間会議を
終了します」
「終わったな、カワハラ会議」
「会議が社長の独特なムーブに動かされる様から
私達が着けた呼び方ですけどね」
「龍ちゃーん、存続祝いに大好きなラーメン
食べにいこうよー☆☆!」
「はっ、ラーメン! 早速向かいましょう、雲母さん!」
「私も行きますー」
「俺も行くよー。会社は退社したし、1同年代と
してね! 向井さんも来る?」
「そうね、久し振りに団らんも悪くないわ」
外部にはあまり知られてないが、この7人は
とても近しい間柄であるのだ。故に、彼らだけの
時は空気がおかしくなる。
~金子隆二の部屋~
「あー、面白かった!」
SAFを終わらせ、就寝前のプロテインを
飲んで戻ってきた。
「明日は席替えか。拓人とか的場さんと近くなったら良いな。さて、寝るか!」
ゆっくりと眠り始めた。明日が荒れ狂うとは知らずに。
ブクマ、星5つを着けてくださると、やる気が上がります。感想やレビューも、お待ちしています!




