↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/5

シグとレヴィアの実力

 デモンテイマーの便宜を図り、適正に地域へと分配する封魔省の一室。

 召喚室と呼ばれる白い大きな部屋にシグとレヴィアは通された。

 調度品は何もなく、壁と床には防御結界の魔法陣が描かれている殺風景な部屋だ。

 この部屋はデモンテイマーが国家封印術士に属する前に、何らかの理由で既に魔物を封じていたら、その魔物をどれだけ使いこなせるかの審査をおこなう場所として使われていた。

 審査の内容は、主にデモンテイマーが封印していた魔物を擬人化した召喚する使い魔、《疑似魔人形(デモンクルス)》の戦闘力評価とデモンテイマーの立ち回りだ。


「キアヌ村のシグ。そして、こちらのレヴィアが俺の疑似魔人形(デモンクルス)です」


 シグの自己紹介で、審査官の青年は採点用のペンとボードを落とし、シグに驚きの目を向けた。


「ねぇ、シグ君。その子、本当に疑似魔人形(デモンクルス)なのかい? 誰かの仮装じゃないんだよね?」


 審査官があり得ないものをみて、信じられないと言った表情で、シグに問いかけた。

 その問いかけにシグは小首を傾げ、レヴィアの顔を見る。


「はい。十年前に俺が封印術で封印して、その時に召喚した疑似魔人形(デモンクルス)です。この子の姿の原典は氷雪の銀狼で、雪と氷を操る魔物(デモン)です」

「ってか、お兄さん、私は疑似魔人形(デモンクルス)だけど、シグの付けてくれたレヴィアって名前があるの。その子って名前じゃないよ」


 シグとレヴィアはさも当然のことのように、レヴィアが疑似魔人形(デモンクルス)であることを肯定した。

 けれど、それが審査官にとってはあり得ないことだった。


「……ありえない。疑似魔人形(デモンクルス)が安定した固有意思と感情を持つだって? そんなの聞いた事がないぞ?」

「そんなおかしいことなの? シグに呼び出された時から私ってこんなんだったけど? だよねシグ」

「うん、確かレヴィアが最初に言った言葉は、仕方無いから友達になってあげるわ。だったよね」


 審査官の自問自答にレヴィアが口を挟み、シグに話題を振った。

 そして、シグが十年前の出会いのワンシーンを語ると、審査官が顔をしかめて頭を横に振った。


「……おかしいなんてものじゃないぞ。本来、疑似魔人形(デモンクルス)に感情があったら不味いことなんだよ? そんな疑似魔人形(デモンクルス)を召喚してしまったら、すぐに再封印をおこなうか、討伐しないといけなくなる。こんなのが現れるなんて封印術の大失敗のはずなんだ」


 疑似魔人形(デモンクルス)は人の魔力で生み出した封印書に封じた魔物の力を、一部開放して召喚する使い魔であり、意思や感情を持ち合わせない。

 そして、人間の言うことに対しては絶対服従であり、反対意見はもちろん、アドバイスすら返すことはない。

 疑似魔人形が見せる反応と言えば、せいぜい人間の言葉や命令に対して、同意を表現する頷きか、短い肯定の返事くらいだ。


 とはいえ、感情を持つ疑似魔人形(デモンクルス)を生み出すのは不可能ではない。

 疑似魔人形(デモンクルス)として召喚する際、魔物の封印をほぼ解いて召喚すれば良いだけだ。


 だが、そんなことをすると、召喚した魔物は術者自身を襲ってしまうのだ。

 なにせ、封印した魔物は、術者である人間達と死闘を繰り広げた後、封印されているのだ。


 意識や感情を取り戻した瞬間に、人間へ復讐するのは当然の反応であろう。

 ちなみに、意思と感情を取り戻した魔物が術者を殺すと、そのまま消えてしまう。


 だから、この世界の常識ではレヴィアのように感情を持って安定した疑似魔人形(デモンクルス)の存在は今まで想定されなかった。


 そんな審査官の説明に、当の本人であるレヴィアはなるほどと手を打って納得したようだ。


「あぁ、言われてみれば、私の中にも人間と戦った時の記憶は残っているわね。これなら確かに人間に召喚された時、相手がむかつく人間だって分かった瞬間、頭をかみ砕くかも。お兄さんの言う通りだわ。特に私を失敗作扱いしているあたり、むかついちゃうなぁ?」


 レヴィアはそういうと、シグの頭に顎を乗せ、犬歯を見せながらニヤリと笑った。

 その鋭い牙を突き立てられれば、人間の頭蓋など簡単に砕け散るだろう。

 いくら人のような見た目をしていても、レヴィアは魔物(デモン)なのだ。

 その言葉に冗談がないことは、審査官にも伝わったようで、顔を青ざめさせていた。


「そういうことをさらりと言えるあたり、元魔物(デモン)だってのはよく分かったよ。というかシグ君、よく無事でいるね? 頭の上で牙を剥かれているんだよ?」

「そうですか? レヴィアって一見すると怖く見えますが、この犬歯がまたかわいいですよ? 笑った時にチラチラと八重歯のように見えるのが、かわいいポイントです。それに、悪ぶってこんなことを言いますけど、心配性で優しいですし」

「シグ君は大物だね……」


 レヴィアに対して以上に審査官はシグに対して引いたらしく、引きつった笑いを浮かべている。

 何故かどん引きされているのか分からなくて、シグはもう一度首をひねる。

 すると、シグの太ももあたりにパシパシとレヴィアの尻尾が叩きつけられた。


「わふっ!? ……かわいいって言われた。シ、シグ、さっきのもう一回言って!」

「え? レヴィアって心配性で優しい?」

「違う!? かわいいって言ってよ――じゃなくて! 別にシグの心配とかしてないから! 私のマスターがバカにされたら、従者の私までバカにされるのを心配しているだけだから! あぁ、もうっ! さっさと審査してよね! シグの封印術が失敗かどうかも、私の力を見てから決めて欲しいし!」


 いきなり不機嫌になったレヴィアの視線が審査官に突き刺さる。

 その視線に気圧された審査官はビクッと身体が震えるほどの反応を見せ、咳払いで慌てた様子を誤魔化してから部屋の中央を指さした。


「ご、ごほんっ! 今から私の疑似魔人形(デモンクルス)を召喚します。全力で倒して封印を試みて下さい」


 審査官がそういうと、審査官の手の上に輝く半透明の本が現れた。

 どうやら、封印書を実体化させて、中から疑似魔人形(デモンクルス)を呼び出すらしい。

 審査官が呪文を詠唱すると、封印書のページがパラパラとめくれて光が飛び出すと、中から岩で出来た大男が現れた。


 岩石魔神(ストーンゴーレム)と呼ばれるそれは、身体の表面だけでは無く中身まで岩石で出来た強固な魔物だ。

 硬い岩石の身体が攻撃にも防御にも役立つだけでなく、その力と頑丈さを買われ建築現場で働くこともある。

 そして、確かに審査官の言う通り、レヴィアと違って岩石魔神(ストーンゴーレム)は意思と感情は持ち合わせていないようで、魔法で擬人化した魔物というより、岩で出来た動く人形のようにも見えた。


 これが本来の封印術によって生まれた疑似魔人形(デモンクルス)であり、シグとレヴィアの関係生こそが邪道扱いされていた。


「なお、ちゃんと反撃するように召喚しているので、油断していると怪我するよ? デモンテイマーとしての戦い方をちゃんと分かっているかも審査の項目だからね」


 審査官はペンを片手に最後の注意を告げる。

 今からシグが戦うのは、いくら使い魔の疑似魔人形(デモンクルス)とはいえ、元は魔物なのだ。油断して向かい合って良い相手ではない。


 デモンテイマーが魔物を封印するには、封印術の詠唱を魔物の目の前でおこなわないといけない。

 その間、術者であるデモンテイマーは無防備になるので、反撃を食らえばあっさり殺される。

 そのため、魔物を封印する際は、疑似魔人形(デモンクルス)を魔物と戦わせてダメージを与えて戦闘不能状態にするか、毒、麻痺、眠りと言った状態異常で動けなくする必要がある。


「レヴィア、力の封印を解除するけどいけるかい?」

「もちろん。一撃で決めるわ。シグの封印術をバカにした審査官をびっくりさせてやるんだから! あ、別にシグがすごいって証明したい訳じゃなくて、私も無能扱いされるのが嫌なだけだからねっ!」


 シグの確認にレヴィアはあれこれ言いながら、赤くなった顔をプイッと背ける。

 その姿にシグはポリポリと頬をかきながら苦笑いすると、手の中に封印書を呼び出した。


「我が書に封じられた魂を放ち、邪を払う魔の力を宿す。其の魂の名はレヴィア!」


 シグの詠唱で封印書のページがバサバサと音を立てながらめくれ、白い光を放つ。

 その白い光が弾けると、レヴィアの周りに白い霧が出来るほどの冷気が解き放たれた。

 さらに、ゴリゴリと音を立てながらレヴィアの足下に厚い氷の膜が広がり、部屋の空気が一気に冷えて出来た雪が積もる。

 レヴィアの原典である氷雪の銀狼の力が解き放たれたのだ。


「うん、みなぎってきた。さぁって! 奔(はし)れ氷河世界(アイスエイジ)!」


 かわいく声をあげたレヴィアが床を靴で踏みつけると、氷の塊が波のようになって岩石魔神に襲いかかり飲み込んだ。

 その間、僅か一秒未満。だが、その一瞬で試験会場のほぼ全てが氷に飲み込まれている。

 いくら頑丈な岩石魔神だろうと、氷に閉じ込められれば完全に動きを停止させた。

 この魔法は、氷雪の銀狼であるレヴィアの得意技の一つで、周囲一体を氷の世界に変えてしまう最上位魔法の一つだ。


「砕けちゃえ!」


 続けて、レヴィアがその氷の塊に飛び込み、拳を叩き込む。

 すると、巨大な氷が粉々に砕け散り、中で凍っていた岩石魔神もバラバラになって飛び散った。

 だが、バラバラになった程度で岩石魔神は消えない。

 砕けた石片がカタカタ動いて、集まって元に戻ろうとする性質があるのだ。


「不浄の魔を払い、不死なる魂を我が書に刻む」


 しかし、デモンテイマーの封印術の前ではどんな再生能力も意味をなさない。

 シグの呪文で、岩石魔神の石の欠片がシグの封印書に尽く吸い込まれ、完全に消滅してしまったのだから。

 終わってみれば、5秒も経たずに決着がついてしまった。

 そのあまりの速さに、審査官は何が起きているのか理解が追いついていないようで、きょとんとしている。

 その後も、審査官は固まり続けていて、シグも何かまずいことをしたのではないかと不安が積もり始めた。


「あの、審査はこれで終わりですか? 何か不味いことしちゃいましたか?」

「え、あぁっ!? うん、終わりだよ。大丈夫。それにしても、すごいねシグ君。これなら、審査は百点満点、いや、それ以上の点数をつけられる内容だったよ。それじゃあ、最後に疑似魔人形(デモンクルス)のレヴィアを封印書に戻して終わりだよ」


 疑似魔人形(デモンクルス)をずっと出し続けていると、何かの拍子で封印術が緩んで暴走する事故が起きる。

 そのため、デモンテイマーは疑似魔人形(デモンクルス)で目的を果たしたら、封印書にしまう必要があった。


「え? 無理です。というか、レヴィアを封印書に戻したこと無いですし」

「何を言ってるんだ!? このレベルの疑似魔人形(デモンクルス)を現界させ続けているだって!?」

「特に問題が起きたことはなかったんですが……」


 審査官が驚くが、シグはきょとんとして首を傾けた。

 独学で封印術を学んだシグはその必要性を知らなかったし、レヴィアも封印書に戻るのを嫌がっていたので、今までずっと外に出しっぱなしで生きてきた。

 そんな経緯もあって、今回もレヴィアは封印書に戻るのをとても嫌がり、シグの背中に隠れて審査官に牙を剥いてまで威嚇する。


「封印書に戻るのは嫌っ! というか、封印書に戻したら、お兄さんの石頭凍らせて砕くから!」

「レヴィア落ち着いて!? 審査官がすげえびびってるから!? 審査落とされちゃうよ!?」

「うぐ、そうだけどさぁ!」


 シグが落ち着くように言うが、レヴィアはグルルと喉を鳴らして審査官を睨み続けている。

 その様子にシグは大きくため息をつくと、額を抑えた。


「昔からこうなんですよね。まぁ、力だけを封印することも出来るので、普段はさっきみたいな強烈な力を持たないから安全ですよ?」

「そ……そうなのかい? 割と冗談抜きで死を覚悟したから、封印書に戻して欲しいんですが……」

「むしろ、封印書に戻そうとしたら、暴走して周りを氷漬けにしちゃいます。魔力だけは封印するので、このままにしてあげても良いですか?」

「……分かりました。それも含めて配属先を決定させて頂きます。審査はもう終わりですので、シグ君とレヴィアさんはしばらく待合室にてお待ち下さい」


 審査官はそう言って頭を下げると部屋を出て行った。

 その後ろ姿を見送って、シグがぺたっと耳の垂れたレヴィアの頭を撫でる。


「ほら、レヴィア安心出来た?」

「わふぅ……別に大丈夫だし」

「怒ってないから安心しろって、俺だってレヴィアが消えちゃうのは嫌だから」


 正確に言えば、シグですらレヴィアが消えてしまうかどうか分からないから、レヴィアを封印書に戻せなかった。

 感情が希薄である疑似魔人形(デモンクルス)であっても、召喚した時によって微妙に人に対する反応が異なることがあって、毎回違う個体を召喚していると言われている。


 だから、完全な意思や感情を持った疑似魔人形(デモンクルス)を一度封印書に戻してから召喚した時、前と同じである保証は全くないのだ。

 つまり、封印書にレヴィアを戻した途端、シグとレヴィアが一緒に過ごした思い出は消えるかもしれない。


 それが怖くて、レヴィアは封印書へと戻りたがらず、顕現したままでいたい、そう幼いシグに語ったことがあった。


「ふん、私が封印書に戻らないのは、寂しがり屋なシグのためなんだから」

「分かってる分かってる」

「なら、頭だけじゃなくて顎の下も撫でて」

「はいはい」

「後、夜は尻尾の毛繕い」

「はいはい。ちゃんとさっき街で買った新品の櫛ですくよ」

「……ん。封印書に戻すなんてもう言わないでよ?」

「っていうか、俺は戻すなんて一言も言って無いんだけどな」

「……知ってるわよ。だから、あ、ありがと。大事にしてくれることに対して、一応お礼くらいは言っておくわ」


 レヴィアがパシパシと尻尾をシグの足に叩きつける。

 こういう時、レヴィアは口でどんなけ悪態をついていても、実のところ機嫌が良いということが多かった。

 ある意味、いつも通りなレヴィアの様子にシグはポリポリと頬をかいて苦笑いすると、彼女の手を引き、待合室へと向かった。


○


 その後、言い渡された審査結果の内容は――戦闘ランク特A級。最強のデモンテイマーとしての評価だった。

 ランクが高いほど、強い魔物が多い地方へと派遣されることになる。

 そして、シグにとって高ランクの魔物がうろつく地区へと派遣されるのは願っても無いことだった。

 何せシグは根っからの魔物好きだったのだ。


「どんな魔物がいる場所に配属されるんだろう? あぁ、早く決まってくれないかなぁ! 海にいる魔物も良いなあ。あ、でも、山や森にいる魔物も良いなぁ!」


 そうこぼすと目を輝かせながら妄想の世界に浸り始めた。

 こうなったシグは周りが見えなくなる。

 そんなシグの隣で、レヴィアは深いため息をついた。


「あぁ……そういえば、シグがこんな魔物バカだから封印書に帰りたくないんだったな……。私より良い子を捕まえたら、放っておかれちゃうかもしれないのが嫌だったんだ」


 その呟きをシグは聞き取ること無く妄想の中で魔物と戯れている。


「……どうせなら、二人で静かに暮らせるところが良いなぁ。邪魔者がいないところで、毎日撫でて貰って、毛をすいて貰って……って、別にして欲しい訳じゃ無いから! シグは私の主として当然の義務をしないといけないだけだから!」

「ふふふ、見たこと無い魔物がいっぱいいる場所がいいなぁ」

「……はぁ、こんな感じに話を聞かなくなる魔物バカなのさえ無ければ。……まぁ、いっか」


 後々落ち着いたシグのことを、レヴィアは呆れたような目で見つめていたが、シグは何で呆れられているのか、さっぱり分からなかったという。

 そして、そんな二人は裏でつけられた本当の評価を知ることは無かった。


 欠陥デモンテイマーのシグは可能な限り人里から離れた場所に隔離し、欠陥封印術による事故を未然に防ぐべし、という評価を。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。