初の旅立ち
十六才となった黒髪の少年シグは、白い壁と赤い屋根の建物が立ち並ぶ王都の門で呆気に取られていた。
道路は全て石で舗装され、人や荷物を積んだ馬車があちらへこちらへと途切れること無く歩いている。
見える光景全てが、山の合間にある故郷に比べてすごく見えた。
「王都でかっ! 広っ!? なぁ、レヴィア、見て見て、あんなにも人がいっぱいいる! キアヌの村の何倍くらいいるんだろう?」
シグが興奮気味に隣の少女に声をかけた。
レヴィアと呼ばれた少女の姿は人でありながら、人とはかけ離れた見た目をしている。
太陽に照らされ雪のように白く輝く白銀の長髪、氷河のような青白く透明な瞳、そして、人よりも少し大きく尖った犬歯に、頭の上でぴょこぴょこと動く大きな犬の耳、そして、お尻から伸びるモフモフした毛並みの良い尻尾がある。
しかも、人離れしたかわいい顔で、通りすがる人は必ず二度はレヴィアを振り返ってしまうほどだ。
そんなレヴィアがシグのはしゃぎように呆れたように息をつくと、頭の後ろで手を組み、ニヤリと悪い笑みを浮かべて犬歯をちらつかせた。
「襲い甲斐がありそうな街よね。魔物だった頃の私なら、陥落させるのに一日はかかるんじゃないかなー」
「へぇ。あの時のレヴィアで一日なら、かなりしっかりした街なんだね。小さな村なら五分もかからず陥落させるんだし」
「ふふん、シグが力をくれたら半日で落とせるよ。その気になったらいつでも言ってね? いつだって私が王様にしてあげるから」
「あはは、王様は別にいいかなー。それよりも魔物といっぱい友達になりたいし」
レグが雪山で封印した銀の魔狼。
それがレヴィアの正体だ。けれど、今はシグの従僕であり、疑似魔人形と呼ばれる使い魔になっている。
魔物の封印術は単に魔物を封印するだけではなく、こうして封印した魔物の力を一部解放することで、使い魔として使役することも可能にしていた。
だから、人々は封印術を操る人間をデモンテイマーと呼んだ。
「それと、ありがとうレヴィア。毎回街に着く度に安全かどうか確認してくれて。いつも頼りにしてるよ」
「わふぅっ!? べっ、別にシグの安全を心配してるんじゃないわよ!? ただ、魔物の血が疼くってだけよ! シグの身に何かあったらどうしようとか、その街でシグ守るのならどうやって戦えば良いかなんて全然考えてないんだからね!」
「あはは、分かった分かった」
真っ赤になってそっぽを向くレヴィアの頭をシグが短くくしゃくしゃと撫でる。
すると、レヴィアはぷいっとそっぽを向いて、尻尾でシグの足を嬉しそうにパシパシとはたいた。
「そ、そうなの。だから、そのなでなではシグが誤解した罰として続けても良いのよ?」
「はいはい」
シグは苦笑いながらレヴィアに言われた通り頭をなで続ける。
レヴィアのつっけんどんな態度に呆れたわけではなく、ツンツンした態度の裏に隠れている彼女の優しさとモフモフとした触り心地を楽しんでいる自分を笑ったのだ。
かれこれレヴィアとは十年近い年月を共に過ごしていて、彼女が素直じゃ無いことくらいとっくに分かっていたのも大きいだろう。
「それじゃあ、そろそろ行こうか。今日は封魔省で実技審査を受けた後、派遣先を伝えられるみたい。せっかく今日から色々な地域の魔物に会える国家封印術士なのに、いきなり怒られるのも嫌だしね」
デモンテイマーの才能を持つ者は、男女にかかわらず16才になると4年間の国家封印術士として騎士団の一部に属し、魔物と戦う義務があった。
片田舎に住んでいたシグも例外ではなく、他の者と同様に審査を受けてから、騎士として魔物を封印するために各地へと派遣されることになったのだ。
「別にシグが怒られるのはどうでも良いけど、シグが迷子になって遅刻したら私の能力が問われるし、手を繋いであげてもいいよ?」
「それじゃあ、お願いしちゃおうかな」
「仕方無いわね。もう、本当に仕方無いマスターね? 私がいないとどうしようもないんだから」
そう言いながら、レヴィアはシグの手を取る。
一見バカにしているように見えて、レヴィアの顔はうきうきとした気持ちが溢れ出ているような表情だし、尻尾を左右にぶんぶんと勢いよく振りまくっている。その様子は散歩にはしゃいでいる犬みたいだ。
そして、シグもまた新しい魔物を仲間にすることを楽しみにして、顔に嬉しさが滲み出ている。
そんな二人の様子を、王都の人達は驚きの目で見ていた。
シグの封印術で生み出したレヴィアは、本来存在するはずのない者だったのだから。




