9.学院時代(3/3)
うん、どうして学院時代編がこんなにも長くなった……?
という訳で、今回で過去編は一旦終わりです!
はぁ、こんな予定じゃなかった……
(ガル=リターシャ、君はいったい何者なの?)
彼女──フィール=アスタリアは今目の前で起きている光景に、そう思わずにはいられなかった。
接近戦で対峙する一人と一体。
銀髪の少年ガル=リターシャとBランクモンスターの劣飛竜。
劣飛竜が腕を振るえばガルは細剣の持っていない左の手と腕で殴ったり払ったりして軌道を逸らし、足を振るえばこれ幸いと跳躍しては細剣を宙に上げ片足立ちの劣飛竜に蹴りを入れ、そしてそのまま得物を掴み、関節部へと見えぬ剣戟で何度も突く。
その度に、劣飛竜は怯んで後方へと下がる。
そして、いつの間にか溜めていたのであろう火をガルに向かって吐き出すと、敢えてガルはそれに向かっていく。
「危ないッ!?」
疲労状態に陥りながらもそう叫ぶフィール。
だがそんな心配はガルに杞憂だった。
目の前から向かってくる炎をかするスレスレで避けながら劣飛竜の前に到達すると彼はこう呟く。
「まずは一つ」
その瞬間に彼の右腕が白く包まれると、そこから繰り出される細剣の鋭い突きが劣飛竜の右肩の根元に入る。
──グサッ
そんな音がこの場に響くとともに、劣飛竜の右腕しいては右翼が機能を失う。
その痛みに激しく叫び痛みを露わに叫び出す。
それを見てフィールは一つ不思議に思う。
(何故、それ程の突きができて心臓部を狙わない?)
ガルに問おうとして彼の表情を見た瞬間に開こうとしていた口が閉じる。
彼の瞳は一直線に劣飛竜を睨んで向いていた。
そこで彼女は先に口にしていた彼の言葉を思い出す。
──『女の子を傷つけた代償は高くつくぞ!』
彼は、その代償を思い知らせているのだとフィールの思考は辿り着いた。
(ガルは、私の受けた痛みに対して劣飛竜それ以上の痛みを与えてくれているのか……)
終着に至った考えを把握し、フィールは頬をほのかに赤く染める。
ガルの剣戟はまだまだ続く。
「これで二つ」
右肩を壊した後に、火を吐いた喉元を突き刺す。すると、劣飛竜は暴れだし、ガルに左腕もとい左翼をぶつけようと振った。だがそれを読んでいた地に立つガルは再び跳躍。攻撃を避けるとそのまま振り落とされた左翼へと着地した。
「そして三つ」
そこで着地と同時に〈魔力強化〉を脚と右腕に行使。そのままに劣飛竜の左翼の腱を貫き断ち切った。
両翼の機能停止。
これで劣飛竜は飛行、そして腕での攻撃が出来なくなった。
劣飛竜は既に恐慌状態に陥っていた。
それもそうだろう、優勢を展開していた時に、割り込む対峙していた彼女と同サイズ人間。一度は蹴られたものの油断をしなければなんてことない。劣飛竜にはそんな考えがあったはずだ。
それが今は、両翼を潰され火を吐く喉元まで壊された。
そんな劣飛竜が恐慌状態に陥らないはずもなく、訳もわからずガルの方へと叫びながら突撃し始める。
「哀れだな、トカゲ野郎」
自分に向かってくる劣飛竜を見て一言そう呟く。
「もう分かっただろう、人間それも俺を相手にするとお前は見るも無残な姿となる」
尚も劣飛竜の直進は進む。
もはや思考さえも飛んでいったように思えるそんな本能がガルには感じ取れた。
「だからお前は今ここで朽ちる」
ここでガルは〈魔力強化〉で体全体を包み込む。
「全力を持っての最後にしてやろう」
ガルは体勢を低くする。そして今、向かってくる劣飛竜の正面を走り出す。
二間の距離の縮まる速度は当然早くなる。
その光景を眺めるフィール。そして正気状態に戻った三人の学生。
一同皆、ゴクリと唾を飲みこみその最後の剣を見届ける。
その距離十メートルを切った時、多少の理性が戻ったのか劣飛竜は蹴りのモーションを見せた。
しかしそれをガルは落ち着いて対処する。
鋭く蹴り出される劣飛竜の右足に潜り込みギリギリで避けると一回転してその膝裏を細剣で断つ。蹌踉めく左の膝裏にも同様に武器を突き刺す。
そのガルの動作は、より安全を求めるための
一突き。
結果、それはこの勝敗の鍵となった。
劣飛竜は右足を蹴り出すと同時にそのまま回転して尾をガルにぶつけようとしていたのだ。だが、ガルの劣飛竜の左膝裏への一突き。それがが功を奏し、ガルの上半身に向かっていた尾が左膝と共に下方へ落ちる。
「お前、強かったぞ」
ガルは下方に落ちた尾に飛び乗り大きく跳躍する。
跳んだ先は劣飛竜の後方心臓部。
そこで全身に掛かっていた〈魔力強化〉を右腕に集約させて武器の方まで包み込む。
そして、ガルはこう口にした。
「我流細剣技〈流星〉」
白く輝く武器を含んだ右腕が、が両膝を断たれ倒れゆく劣飛竜の後方上から放たれる。
闇を穿つ一筋の流星。
その希望の光が強硬を誇る劣飛竜心臓部の外装を突き破る。
それは一瞬のものだった。
地上に着地し、腰の鞘へと剣を戻すガル。
その背後にあるは、まだ倒れ切らない劣飛竜の姿。
そこにあるのは、心臓部が綺麗に筒状にくり抜かれたような劣飛竜の屍だった。
その光景を、学生四人は驚愕を、そしてフィールはその後、確信していたというような微笑みを顔いっぱいに浮かべる。
そこに歩み寄るガルは、その白髪美少女の笑顔に思わず顔を赤く染めるが、一呼吸を置いて彼女の前にしゃがみ込む。
そしてニッと歯を見せた笑顔で一言。
「二人の勝利だな!」
そう言ってガルは彼女の横へと仰向けになる。
二人の勝利と言われたフィールは涙を瞳から零すと、自身の横に溜め息をついて倒れ込んだガルに向かって笑みを浮かべて口にした。
「ありがと。ガル」
そう言って同じく横になったフィールの顔を見てガルはその言葉に返答した。
「お疲れ様。フィール」
そうして戦闘の余韻により張り詰めていた空間には、ようやく穏やかな風が吹き始めた。
──
ガル達が横になること三十分、教師陣のみがこの戦闘後の場所へと武装した状態で辿り着いた。
そして目の前に広がる光景にその教師陣は驚愕を覚えざるを得なかった。
数々の薙ぎ倒された木々、荒れに荒れた地表、そしてその空いた地の中心に横たえた心臓部を筒状で綺麗に貫かれた劣飛竜の姿。
全てが、激しい戦闘であったことを物語っていた。
そして監督教師──ガルたちの担任教師は横になっている彼らの姿を見つけた。
「リターシャ!?」
そこに駆け寄った担任教師は、肩を揺らして生存しているかを確かめた。
すると、ゆっくりと瞼を上げるガル。
そしてガルの広げた右腕に頭を乗せていたフィールもゆっくり目を覚ます。
ガルは横にいる教師の存在に気づき口を開いた。
「おはよ。先生」
その声に担任教師ひいては集まった教師陣は皆呆然とした後苦笑いを浮かべた。
「ガル=リターシャ。お前は本当によくやってくれた。本当は緊急時にすぐさま駆けつけなければいけなかったのは俺たちなのにな。だから言わせてくれ。すまなかった、そしてありがとう」
担任教師の謝罪と感謝を皮切りに次々とそれらの言葉を受けるガル。
だからこそ、その謝罪と感謝にこう返した。
「敬いやがれっ!」
笑顔でそういうガルに、隣のフィールは笑顔を見せ、教師陣はこの場で二度目の驚き後、声に出して笑い。残りの学生三人はその光景を呆然と眺めていた。
笑い終えた後に教師は笑みを浮かべ
「さあ、学校へと帰ろうか!」
そう口にした。
──
帰る時には、フィールは魔力欠乏に陥ったこともあり立ち上がることが出来なかったのでガルが彼女をおぶることにした。
「ガルは、何で強くなったんだ? 目指していたのは、私と同じ学院最強だろう?」
背中からフィールはガルへと声をかける。
「それは違うぞ、フィー。俺が目指しているのは一位は一位でも学院のことじゃない」
すっかりガルは彼女の事を愛称で呼ぶようになっていた。それはさておき、彼のその言葉にフィールは首を傾げる。
「じゃあ何だ?」
その問いかけにガルは声を張って答えた。
「──世界最強、ただそれだけだ!」
そう口にするガルにフィールは思わず憧憬を向ける。しかし、フィールは首を左右にブンブンと振った。
(憧れを向けるだけじゃ、この先ガルの隣には居られない)
だからこそフィールは、ガルにこう宣言した。
「だったら私は世界最強の魔法師になってやる!」
その宣言にガルは思わず驚きを見せるが、やがて驚きの表情を笑みに変えて言葉を発した。
「一緒に強くなっていこうな」
そう言うガルにフィールは花咲く笑顔で
「うんっ!」
と頷き返したのだった。
◆◆
その日から約四年後、彼らは学院の卒業の日を迎えた。
学力、戦闘力の総合部門一位となった者の名は
──【孤高の天使】フィール=アスタリア
そして戦闘力部門一位になった学院最強となった者の名は
──【瞬貫】ガル=リターシャ
肩を並べて笑い合う男子一人に女子一人。
その二人はそれぞれの肩書きを持って次なるステージへと飛び立つ。
「総合部門一位おめでとうフィール」
「はぁ……結局、学力と戦闘力共に一度も一位を取れなかった」
「けれど一位だ。誇りに持てばいい」
「そうだな。ガルも戦闘部門一位おめでとう」
「おうっ」
生徒として最後に交わす二人。
卒業式を終え、五年間通った校舎を出るとガルとフィールは校舎を見上げた。
「次は世界への挑戦だ」
「あぁ私は世界最強の魔法師に」
「俺は全てにおける世界最強に」
彼らは校舎に背を向ける。
(「「さぁ、行こうッ!!」」)
決意を新たに、ガル=リターシャ、フィール=アスタリア、その両名が次なるステップへとこの時より歩み始めた。
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次回、ようやくあの武器が……
タイトル詐欺やろと思っていた人すみませんッ!
次よりガルの武器は例のアレになりますので、今後とも拝読頂ければ幸いです!