第35話 感想戦(下)
主食の皿が引かれ、デザートが運ばれてきた。
いちご、ぶどう、ブルーベリーと言った果物の盛り合わせだ。
「しかし今回の件、1つだけ腑に落ちないことがある。
僕の知ってるアンヌなら、子どもにはもう少し手心を加えたと思うけど」
「皆殺しにされてもしょうがないわよあんなゲスの集まり」
「姐さん?」
吐き捨てるジュリエッタに、ジーボルグが目をしばたたかせた。
「奴隷の搾取と麻薬の販売。酷いことをして来たとは思うけど、それ以外に何か知っているのかい?」
「酷いどころか。おぞましいわ……!」
「?」
ジーボルグが首を傾げ、ジュリエッタに続きを促すように沈黙する。
「あの集落の連中が捕らえた奴隷と、同じ奴隷の間に子どもができて産まれて……それがもし、奇形児だったらどうなると思う?
指が短いだけで普通に生きられる赤ん坊が産まれたら」
「育つのを待って奴隷にするんじゃないのかい? 人間はすぐに大きくなるし」
「…………」
ジュリエッタが苦笑いし、そっぽを向いた。
「違うのかい?」
「ごめんなさい。話を振ってなんだけどこれは知らない方がいいわ。あまりにも……胸糞悪すぎる」
教皇を相手に、そっぽを向いたまま答える。
彼女だからこそ許される振る舞いであった。
「聞かせてくれ。単なる興味本位だけではない。君やアンヌがそこまで激怒する理由が知りたい」
「警告はしたわよ」
小さく息を吐くと、ジュリエッタが静かに語る。
ジーボルグの顔がしかめ面になり、やがてそれは真っ赤になり、テーブルを叩いた。
「畜生の行いだ!!」
「落ち着きなさいな。腹が立つ気持ちは分かる。私も気分が悪い。口にするのもおぞましい」
温厚篤実と評判の教皇は、ジュリエッタの勧めに従ってしばらく深い呼吸を繰り返した。
そしてワインではなく水をあおり、信じられないという顔で確認をした。
「それは本当のことなのかい? あまりに……残虐すぎる」
ジュリエッタが小さく首を振った。
「まず間違いなく事実よ。保護した子どもの記憶を読んだ時に流れて来たイメージだから。少なくとも数百人が同じ残虐行為を見たことがある」
「そういえば、アンヌは言っていたよ。
『ガキは残酷だから、人間に酷いことをした奴は許すことはできない』って……」
「あなたと交渉した時にはもう、アンヌは知っていたんでしょうね。あの集落のおぞましさを」
「どうして僕との交渉の際に、伝えてくれなかったんだろう?
あの“集落”の連中がそんな真似をする奴らだと知っていたら、赤子も残らず皆殺しにすると言われても致し方ないと退いたのに」
「推測するしかないけど……生かす余地を残しておきたかったんじゃないかしら?」
ジュリエッタが近くにあったワインの瓶をとり、直接口をつけて飲んだ。
「なぜだい? あんな酷いことをしてる連中を相手に」
「大前提として。アンヌは人殺しをギリギリのところまでは避ける。
そんな彼女が子どもを巻き込んででも粛清せざるを得ないと考えた。
今回の話はそういう案件だった」
ジーボルグが微笑とも苦笑ともつかない顔を浮かべる。
「前半部分、アンヌを知らない奴が聞いたら信じないだろうね」
「茶化さない。
奴らの振る舞いは穏健と評判のあなたが聞いても激怒するくらい残虐だった。
それは事実。
でも一方で、責任能力のまったくない子どもや赤ん坊も巻き込むことになった。
それも事実。
そしてアンヌは、自分がかつてないほどにキレてることを自覚していた」
「なるほど」
うなずき、ジーボルグが腕を組む。
「僕らのパーティのルールは――」
「冷静さを失っていると自覚した時。
信頼する仲間に、どこからが暴走でどこまでが許容できるか判定を求める」
ジーボルグの言葉を、ジュリエッタが引き取った。
「まず僕との会話で救う対象を決めた。次に姐さんとの会話で救う時期を決めた。……アンヌ視点だとそういうことになるのかな?」
「その間、アンヌは怒った理由の全てを語ってはいない。……語りつくしていないと考えた方がつじつまが合う」
「ではなぜ語らなかったのか?」
二人はしばし黙った。
仮説は立てられる。それらしい説明もできる。
だが、真相はアンヌにしかわからない。
いや。アンヌ自身が、自分の気持ちの全てを理解しているとは限らないのだ。
「『そろそろ十分だろう』と言ってくれる相手を残しておきたかったとか?」
「ああ。それもありうるね……」
ジュリエッタがぽつりとつぶやく。
ジーボルグは、うんうんとうなずいた。
「みんな信じてくれないけど、アンヌは優しい人だから」
「彼女が聞いたら鼻で笑うでしょうね。大量殺人をした女に何を言うかって」
「損な性格をしてるからね」




