53.
公爵夫人襲来事件から、一週間後。
私は、父の執務室に来ていた。
何故だが、既視感を感じる。
目の前の父は、不機嫌で椅子に座っている。
何かあったのだろう。
「セレン、すまないが、聖ロベスタ公国に行ってほしい。」
行ってほしくなさそうな声で、父が言う。
「何かありましたか?」
「神殿が痺れを切らした。大神殿で聖女に会わないのなら、治癒魔術師の派遣を止めると。」
「脅し、ですか。」
「ああ。だが、奴らは、本気でやりかねん。」
「わかりました。」
「すまないな。」
父も国も、抵抗はしたのだろう。
ただ神殿の方が、強かっただけの話。
一人の民を守るために、その他大勢の民を犠牲にはできないだろう。
だが、時にはそれも必要だと、彼らは知らないだけ。
私からの印象が悪くなる。
ただ、それだけだ。
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今回公国に行くのは、ルオンダークに着いて来てくれた随行員の人間たち。
見知った方がいいと言う判断だ。
そして、留学中の聖女候補と聖騎士候補、後見人の大司教が同行する。
聖女候補は、私を大神殿に招けると聞いて、純粋に喜んでいた。
聖騎士候補と大司教は、関わったことがないし関わらないでいい。
聖ロベスタ公国は、ルオンダーク皇国の隣国で、王国と一つ国を挟んだ先にある。
ルオンダーク皇国に行った時よりも、少しだけ移動時間が短い。
唯一神クロトアを崇め、各国に手足とも言える神殿を持つ、ある意味、世界で一番権力がある国だ。
聖騎士という最高戦力と、信者という名の戦力を併せ持っている。
また、治癒魔法師を独占している国でもある。
当代最高の治癒魔法師を大聖女、それにつぐ、二番手から五番手を聖女と称している。
公国や神殿は知らないだろうが、現状、私と敵対関係にあると言っていい。
今回の訪問は、敵情視察としていい機会だと思う。
滞在中にできるだけの情報を集めよう。
もしかすると、もう二度と来ないかもしれないから。
馬車の移動中は、聖女候補が色々と話をしてくれたので、退屈はしなかった。
だが、彼女の話は何というか、絵本の世界というか、夢物語を聞いている感覚に陥る。
彼女はきっと、綺麗な世界しか見てこなかったのだろう。
そして純粋ゆえに、何の疑いもなく、あるがままに正しい事として吸収して来たのだろう。
彼女を見て、洗脳、と言う言葉が頭をよぎったのだった。




