52.
ドルテア王国を出てから、約二ヶ月半。
ようやく、セテラディート公爵邸に帰ってきた。
それほど長い間、離れていたわけではないのに、帰ってきた、と言う感じがする。
行きと同じく、公爵邸の皆んなが出迎えてくれた。
かなり心配されていたようだ。
ちなみに、ルオンダークの皇子と皇女も一緒に帰って来ている。
一時帰国しただけで、留学が終わったわけではないからだ。
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野外演習、ルオンダーク訪問、新年祭と、気がつけば一年が経過していた。
私が地上に来てから、六年が経った。
学園も二年目に突入して、しばらく経つ。
暖かい日差しが、ギラギラと厳しい日差しに成り代わろうとしていた。
本日は学園の休息日。
自室で刺繍をしていた私は、部屋の外から聞こえる金切り声に、眉間に皺を寄せた。
相変わらず、元気が有り余っているらしい。
許可を出していない扉が、大きな音を立てて開けられた。
私はため息をついて、刺繍道具を机に置いた。
「お前!」
ドスドスと、床を鳴らして母が近寄ってくる。
扉近くでは、私の侍女と母の侍女が、オロオロと狼狽えていた。
「聞いているの!?」
母が、何かを話していたらしい。
キンキン五月蝿すぎて、聞いていなかった。
「お前のせいで、この高貴な私が、馬鹿にされたのよ!?『あなたの娘は、盲目のくせに、男に媚を売るのが上手なのね』って!!」
「お母様は公爵夫人なのだから…。」
バシッ
「お前ごときが、母と呼ばないでちょうだい!!」
母、いや、公爵夫人が、持っていた扇子を振りかぶり、私の頬を打った。
「公爵夫人…。」
バシッ
話そうとしたら、もう一度叩かれた。
「お嬢様!!」
侍女の悲鳴で、公爵邸の人間が集まって来た。
「何が…何をしている!?」
邸の騒がしさに、父も様子を見に来たようだ。
部屋の中の惨状と見て、私と公爵夫人の間に入り、公爵夫人を咎めた。
「だって、そいつが!!」
なおも私に、罵声を浴びせようとした公爵夫人。
父が侍従に命じ、公爵夫人を退室させた。
「だい…じょうぶ、ではないな。すぐに冷やすものを…。」
「大丈夫ですわ。自分で治しますので。」
「ああ、そうか…そうだったな。アレの事は任せてくれ。もう会わないようにするから。」
「…お任せします。」
私も考えるのが面倒になったので、父に丸投げする事にした。
私には考えることが山ほどあるのに、どうでもいい事まで、考えたくない。
私はため息を吐いて、侍女に新しい紅茶を頼むのだった。




