48.
神殿の教義の一つに、こんな話がある。
唯一神クロトアは、世界を作り、人間を作った。
数多くの人間を作ったが、悪魔に晒され悪に手を染める者がいた。
悪魔と契約し、人の理を外れた者。
それを魔族という。
魔族は悪魔に魂を売り、この世界を混沌と狂気に堕とすことを目的としている。
また、人間に似た人間でない者。
彼らは前世、罪人だから、純粋な人間として生まれることが出来なかったのだ。
だから彼らは罪人なのだ。
信仰心の強いものは皆、この話を信じている。
だから他種族を排斥し、魔族と敵対しているのだ。
この世界には、昔から奴隷という考えがあった。
奴隷になるのは、借金が返せなくなった者と罪人だ。
他種族は罪人という考えから、他種族を奴隷にするようになった。
多くの国で、他種族の奴隷がいるのは、これが理由だ。
我が国にも奴隷がいる。
我が国の奴隷の定義も同じだ。
時の王が、「前世が罪人としても、現在罪を犯していない者も罪人と考えるのはどうか」と考えた。
神殿の教義上、他種族は罪人。
罪人なら、奴隷になる。
彼らを罪人と考えなかった時の王が、奴隷にしないための方法として、他種族を受け入れないとした。
神殿は各国に必ずある。
信者も国内に大勢いる。
そして何より、治癒魔法師を独占している。
だから疑問に思っても、直接反抗できない。
時の王にとって、苦肉の策だった。
父は、静かに語った。
これがこの世界の、人間側の理由。
「お父様は、他種族のことをどう思っていますか?」
「私も、時の王と同じかな。それに、神殿の教義には些か疑問が残る。神の教えや考えを、人が解釈したのが教義だ。人は間違える生き物だ。神は疑わないが、教義には完全に賛成出来ないって言うのが、私の考えだ。」
「確かに、人間は嘘もつくし、間違えますからね。」
「この国には、私側の考えの人も多い。だが、神殿の教義を、絶対としている人もまた多い。」
「難しい話ですね。」
教義は疑うが、神を疑うことはない、か。
その唯一神は、どこから来たものなのか。
勝手に作っただけの存在ならまだ良いい。
もしそれが、勝手に作ったものではなく、何かに晒されたものだとすれば、ことはもっと大事になる。
唯一神クロトア。
一体、それは誰なのか。
より深い闇に、足を踏み入れたような気がした。。




