46.
持ち上がった、三つの厄介事。
一つ目はわかるとして、二つ目と三つ目は、意味がわからない。
父が隣で殺気立っている。
国王曰く、神殿は何かを仕掛けてきそうなのだとか。
五年前に私を誘拐したのも、神殿の関係者だった。
身辺に注意しろ、と言う事らしい。
表向きは誘拐だが、実際は私がついて行ったようなもの。
私が、公爵家を離れたいと思わなければ、成功しない。
「求婚とは、どう言う事です?」
父の声が、氷のように鋭く冷たい。
「あー…。簡単に言うと、二人とも、必死に治療してくれた姿に惚れたらしい。」
「………」
これ以上ないほど、空気が冷たい。
「セレン嬢はどうしたい?」
「私は、目が見えません。貴族や王族の夫人として、やっていけません。攫われていた期間もあります。私は、誰かと結婚する気はありません。」
部屋の温度が戻った。
「わかった。無理強いするつもりはない。双方に断っておこう。」
「ありがとう存じます。」
国王の話は、それだけだったようだ。
話が終わった後は、父と共に公爵邸へ帰った。
「本当に良かったのか?」
帰りの馬車で、父がそう聞いてきた。
「はい。勝手に決めてしまって、申し訳ありません。」
「いや、それは構わない。結婚はセレンの自由にするといい。」
「ありがとうございます。」
目が見えなくて、結果的に良かった。
攫われた事も。
婚約や結婚を断る、立派な理由になる。
誰もが納得するだろう。
もとより、人間と結婚するつもりはない。
今は、人間の裁定中。
この先、人間を消すかもしれないのだ。
そんな相手を、選ぶことはない。
ーーーーー
国王は一人、私室で今日の出来事を思い出していた。
セレン・セテラディート
貴重な治癒魔法と鑑定魔法を持つ、公爵家のご令嬢。
先日の学園の野外演習で、さらにその価値が上がった。
聖女候補筆頭以上の治癒能力。
神殿の動きに、今以上に気を付けなければ。
二人の王族が、婚約者にと望んだのは驚いたが、他国に行くと言われなくて良かった。
出来れば、我が国で縁を繋いでもらいたいが、彼女の言う通り、あの目と攫われた期間が、縁談に障りがあるのは事実。
王族や貴族の夫人として、と考えると難しいだろう。
彼女の選択が、この国にとって良いものであってほしい。
そう、願わずにはいられない。




