33.
イ・シン王国王都。
人々は、いつもと変わらない日常を過ごしていた。
だがそれは、一つの轟音と共に破られた。
粉々になる、王都を守る結界と壁。
次々と、上空から魔族が降ってくる。
瞬きの間に、王都は阿鼻叫喚に包まれた。
逃げる場所など、もはやどこにもないのに、少しでもこの場から去ろうと走る。
ついさっきまで笑い合っていた友人が、店主が、家族が、物言わぬ骸になっていく。
いつ、自分の番が来るかわからない恐怖。
大切な人の死。
見慣れた街が、見慣れない光景に見えてくる。
近くで子どもの泣き声がする。
いつもなら声をかけるだろう。
けれど今は、誰もがその声を無視する。
他人にかまっていられないのだ。
自分のことで、精一杯なのだ。
皆んなが、行き先もなく逃げ惑っている中、一人の男が、人の波を縫って歩く。
纏う服は、陽の光を反射した白色。
胸には神殿のシンボルと、聖ロベスタ公国の国章。
音もなく腰の剣を抜き、魔族に斬りかかる。
半精族の魔法で、間一髪、避けることができた。
「何者だ?」
「魔族ごときに、答えるつもりはない。」
「ああ、聖騎士か。」
相手のことに気がついた魔族は、空に光の玉を放った。
ーーーーー
王都に灯った光を見る。
私はそれを見て、瞬時に現場に転移した。
転移した先にいたのは、白い服を着た男。
「新手か。」
「どちらかと言うと、私が本命かしら。」
魔族に手を振り、この場を去らせる。
「あなたが聖騎士第十三席、ランチェスター・ロン?」
「よく調べている。魔族なら子どもと言えど、容赦しない。」
フード付きのローブを着ている私を、聖騎士は魔族と判断したようだ。
まあ、魔族に指示を出しているから、あながち間違いではないか。
「遊んであげる。」
「ぬかせ。」
聖騎士が剣を構える。
私は異空間から、細身の剣を取り出して構える。
剣と剣が重なり、甲高い音がした。
二合、三合、離れては近づく。
聖騎士は全力で切り掛かっているのに、少しも揺らがない。
速さも互角、強さも互角。
聖騎士の息が荒くなっていく。
剣も荒さが目立ってきた。
この程度かと、私は残念に思う。
出来るだけ瞬殺しないように、相手に合わせているのに。
期待外れだった。
「雷よ、神の裁きを!!」
聖騎士が剣を頭上に掲げ、詠唱する。
私の頭上に、雷の雨が無数に降り注ぐ。
溜め息を吐きながら、剣の一振りで、雷を打ち消した。
「期待外れ。」
私は残念に思いながら、一閃。
一拍の後、聖騎士の頭が落ちる。
大量の血が、辺りを真っ赤に染める。
それを視界から外し、剣をしまった。
周囲は静かになっていた。
人間の生命の灯火が感じられない。
「皆んなの方も、終わったみたいね。」
私は転移して、ダールベルクの元へ戻った。
「おや、早いね。」
「思っていたほど、強くはなかった。皆んなは?」
「問題なく完了したようだよ。」
「そう、終わりね。」
「ああ。」
人間の声が聞こえなくなったそこは、魔族たちの歓声に包まれていた。




