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てくてくと30分くらいだろうか。歩き続けてやっと村の入り口までやってきた。
最初は軽く走ったりもしたんだけど、すぐにバテてしまって休憩を取る羽目になってしまった。疲労度ってこのことだったのか。
普段の僕の体力と全く同じ、一体どうやったらそんなことまでアバターに設定できるのか。謎の技術って恐ろしいな。
何はともあれ、入り口にいる自警団らしきおじさんに声をかけてみる。
「こんにちは」
おじさんは村の方にやってくる人間にとうに気づいていて、なんだかぴりぴりした雰囲気だった。
身を隠すものなんてない草原だったから誰でも気づけるとは思ってたけど、意外に警戒されてたんだな。
「君は? 冒険者にしては軽装だが……」
ですよねー。さっき冒険者になったばかりだとそんなもんです。
眉間に皺を寄せてこちらを見てくるおじさんは、金属製の鎧で身を固め、右手には戦国時代かというような槍が握られていた。最初の村なのになんだその装備。
近くに来てわかったけど、顔にはこめかみから頬にかけて大きな傷跡があった。やばい、それを見てから僕の中でおじさんの地位が村のおじさんから歴戦の自警団になった。
なんて考えていたら怪しい人を見るような目に変わっていた。何か返さないと。精霊にって信じてもらえるのかな? あぁこれゲームだった。さくさく答えるとしよう。
「冒険者になったばかりなので。精霊に会ったのもついさっきなんです」
精霊に、という部分でおじさんの目が見開いた。なんか変なこと言った? 普通はそうかそうかさあ村へ、みたいな流れじゃないだろうか。
「精霊か。存在しているとは聞いていたが会ったという人間を見るのは初めてだよ。見たところ武器も無し……。よくここまで来れたもんだ」
いやいやモンスターらしき生物なんていなかった。ついでに動物さえ見なかったのはどうしてでしょう。鳥の声だけは聞こえてたけど。
その時ポーン、と気の抜ける音が頭に響き、女性型の合成音声が流れてきた。
「クエスト『ウルの村へ行こう』を達成しました。これより戦闘行為の制限解除が行われます。同時にモンスターが発生します」
戦闘の解除って。今までモンスターの影さえなかったのはそのせいか。意外と親切設計なんだな。
ふと、遠くから何かが走ってくるような音が聞こえた。振り返ってみるとイノシシによく似た生物がこちらに向かってきていた。
いや何で! 牙とかあるよ! どうしよう!
おろおろする僕を見ておじさんは軽く手で僕をどかすと、槍を右手で構えイノシシを睨みつける。
3メートル弱くらいか、イノシシの毛並みまでわかるような距離まで来たとき、おじさんの右腕が光り槍をイノシシに向かって投げつけていた。
「ふん!」
槍って投げて使うもんだっけ? そんな疑問が頭に浮かぶ。
ドスンと重量物でも落ちたかのような音が響き、槍はイノシシの頭を貫通して地面に突き刺さっていた。
うわぁ。ちょっとグロい。出血表現とか制限かけてないんだろうか。他のゲームならこれでイノシシが消えてドロップアイテムが代わりに現れるだろうけど何もない。
「ファングか。こいつの肉は絶品だからな。後でミーナさんに持ってくとしよう」
おじさんはそう言ってイノシシに近づいて触れる。
すると光の粒子となってイノシシは消滅し、僕では全部持てないだろう肉の塊がそこに現れた。腰につけていた小さな袋にそれを詰め込み、大地に突き刺さる槍を引き抜いた。
なんかこの世界の住人ってパワフルだな。あと、袋の大きさと肉の量が釣り合わないです。
もしやインベントリですか。いくらでも入る不思議袋。NPCもみんな四次元ボックス持ちですか。僕それ持ってないんですけど。
いろいろ思うところがあるけど、ひとつだけ確かなのは、おじさんがいなければ僕の冒険は終わってたということ。
さすがに魔法が使えるといっても最初の敵があれとかムリだ。ありがとうおじさん。
「ファングを見るのは初めてだったようだね。一体どこから……いや冒険者に過去を聞くのはルール違反だったな。忘れてくれ」
そんなルールなんてあるのか。このままおじさんがどんどん情報を出してくれるのを待ちたい気分でいっぱいです。なんだかこのおじさんも冒険者をやっていたように思う。
きっと設定はこの村出身の冒険者で故郷に帰ってきたとかなんだろう。
「いえ、気にしてません。それよりさっき腕が光ってたけどあれは?」
おじさんの目が不思議そうなものを見る目に変わった。また何かやったのかな。
「君は見たところ魔道師か。戦士のことを知らなくても無理はない。それに見習いになったばかりならね。戦士はスキルを発動するときに該当する部分が光るんだよ。昔、これを利用して夜の森で狩りをしたものさ」
なんか納得の仕方が無理やりじゃないか? まぁ最初に会う村人だしそんなもんだろう。
というかスキルをライト代わりにしてたのか。なんだかすごい泥臭いな。
でもライトなら逆に強い獲物が寄って来たらどうするんだろう。冒険者ならそんな危ない所では狩りなんてしないかな。
「着いてすぐモンスターに会うとは君もなかなか運が良いね。とりあえずは村に入っていろいろと話を聞くといいよ。わからないことだらけだろうからね」
そう言ってにこりと微笑むおじさんは素直にカッコいいと思えた。でも運が良いって……。皮肉にしか聞こえない。
言われた通り村の中へ入って、おじさんおばさん方に話しかける。外からやってきた人間が珍しいのかいらないことまで教えてくれる。
「食材屋の娘さんが旅商人の見習いに惚れたとかどうでもいいよ。どっと疲れたな。今日はもうログアウトするとしよう」
ステータス画面を開き、そこからログアウトを選択する。
この世界に来た時と同じように意識が闇に飲み込まれていく。この感覚は好きになれそうにない……。




