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世界の隣人 -Another World-  作者: タンス
第1章 始まりの地
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「あぁ。やっと夏休みだよ。テレビで放送してからみんなひどかったもんな」


 ついつい独り言が出てしまった。何で取材を許可したのか、あの日の僕をぶん殴ってでも止めてやりたい。

 当たればいいな程度で応募したのに当選メールが着てから有頂天だったもんな。顔は写さず、認証が終わるまで放送しないって条件だったのが救いだった。声はぼかしてくれなかったからバレたのだけど。


 あれか、宝くじに当選した人は周囲の人間が信じられなくなるって言うけどこれと似たようなものなんだろう。わかるなその気持ち。他人から慣れなれしく声をかけられたら不審に思うよね。それをわかってるのかわかってないのか……。


 まぁいいか。今日からその煩わしさからも解放されることだし。テスト開始時刻まであと1時間あるし適当に説明書でも見ておくことにする。

 

 「へぇ。ステータス表示が無いんだ。あるのは職業とスキル、装備品の表示のみか」


 現実世界を目指したと言うだけあってデータで表すことはしないみたいだ。最低限の情報だけってのも面白そうだ。疲労度の設定があり現実に即したものと注意書きがなされ、説明書もゲーム内で読めるようアイテム化してあるらしい。


 

 そうしているともう開始時刻を過ぎていた。

 慌ててベッド型の機器に寝転び、頭にディスプレイを取り付ける。だんだんと意識が無くなっていき、完全な闇に落ちる。

 

 僕はそうしてこの「Another World」、もう一つの世界に飛び込んだ。






 知らない土地に来た時のような、嗅ぎなれていない空気が鼻を刺激した。

 遠くからは鳥の鳴き声も聞こえ、肌を撫でる風は心地よい。

 踏みしめる大地は柔らかいが、しっかりと僕を支えてくれる。

 

 暗がりから覚めた視界に飛び込んできたのは、今までいたはずの現実と錯覚してしまうほどの世界だった。 



 よくわからないけどすごい技術で僕の分身、アバターは作られているようで体にほとんど違和感が無い。ほとんど、というのは産毛が全くないつるつるの体だからだ。元から体毛は薄めだけどつるつるなんてことはなかった。こんなにすべすべな手なんて僕の手じゃないみたいだ。

 よく見ると指紋もない。物を持てるのは指紋の摩擦のおかげとかどこかで聞いたことがあるけど関係ないのかな。 



 個人認証で問題が無い範囲で変えることができるのは髪の色と髪型、目の色、それに身長が±5センチだった。

 染髪は校則で禁止されていたのでやっていなかったけど、この世界では何の問題も無い。赤茶色に設定して違う自分になってみようと思った。目の色はなんとなく変える気がしなかったのでそのままの黒。他の人からしたらもったいないと言われるかもしれない。


 

 ここは始まりの地と呼ばれる場所らしい。

 頭に浮かんだ地名はまさにそのまんま、といったところだ。草原の向こうにはうっすらと建物が見える。あそこが最初にたどり着く町か村なんだろうな。というか、僕以外に人がいないのが気になるけど。みんな最初はここに飛ばされるんじゃないのか。

 

 うんうん唸っていると、突然目の前に光の球が出現して女性の声が頭に響く。


「初めまして冒険者の方。私は始まりの精霊。世界に貴方の存在を伝えるため朧からやってまいりました」


 朧?なんだそれ。朧おぼろ……。なんかぼんやりした様子だっけ。よくわかんないな。精霊って言ってたから精霊の住む世界か何かだろう。


「さぁ私に触れてください。そして貴方の目指すものを思い浮かべるのです。世界に届くよう強く強く」


 説明書に書いてあったチュートリアルか。最初に目指す職業を決めるってあったな。確か戦士に弓使い、魔道師だったはず。

 

 やっぱりここは魔道師しかないよね。せっかくなんだから現実で絶対にできないことをしたいし。では精霊さんに手を伸ばしてと。



「……貴方の想いが世界に届きました。これから貴方は世界の理と共に生き、時には歪めることもあるでしょう。貴方の未来に精霊の加護を」



 頭に響いていた声がそこまで言うと光の球は薄くなっていって消えてしまった。これで僕も魔道師の仲間入りってことか。早速試してみることにする。


「ステータス表示」


 説明書には念じて人差し指を横に動かせば表れるってあったけど、最初はやっぱり口に出してみたいもんなんです。

 視界の左寄りに半透明のウィンドウが出てくる。現実にもこの立体ウィンドウはありふれたものだしこの辺は似ているものか。

 なになに……。


 ・ケイスケ

 ・職業:魔道師

 ・称号:見習い

 ・スキル:炎魔法Lv1・水魔法Lv1

 ・装備:布のローブ・布のズボン・革の靴



 しょっぱい。感想はそれしか出ない。

 確かに見習いというか、今転職したからね。というか転職した瞬間に服がローブに変わったんですけど。精霊すごいね! リスペクトライトボールだよ!

 スキル欄に輝いて見えるのは魔法だ。使ってみたい。うずうずしてきた。目の前にはちょうど何もない草原が広がっていることだし。

 いいよね。被害とか絶対出ないから。大丈夫大丈夫。


 


 ごくり、と唾を飲み込んで記念すべき瞬間に備える。

 そして、ゆっくりと口を開いた。

 

「赤き願いよ 焔とならん フレイムスピア!」


 ちなみに先の詠唱部分は省略すると威力が半分になるらしい。ちなみに「詠唱破棄」や「無詠唱」というスキルがあれば威力半減は無い。

 腕を伸ばして広げた手のひらから炎の槍が! なんてことは無く、右肩あたりの空間から30センチくらいの炎の槍が現れて目標としていた地面に飛んでいった。

 着弾地点は大地が軽くえぐれて、白煙が立ち上っている。感動だ。魔道師バンザイ! 僕って今人生で一番輝いているんじゃなかろうか。

 

 でも……。



 

 手から出ようよ。なんか気合い入れて伸ばした腕が恥ずかしい。顔は絶対赤くなってると思う。誰もいなくてホント良かった!

 そういえば魔法が発動した瞬間、体の真ん中からスッと何かが抜ける感じがした。この何かが魔力ってやつなのか。

 水魔法は後まわしにする。普通の人ならここで目一杯使うかもしれないけど僕は魔力の温存をしておく。これから何が起こるかわからない。


 

 ふふっと鼻歌が出てしまう。さて未来の大魔道師さまの船出といこう。目指すはあの村! いざ出発!







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