後編
数日後、村は三つに分断されていました。
大きなかぶを円の中心にし、均等に三等分に分けるように。分かれ目には、木で作られたバリケードが隙間なく張られており、有刺鉄線が張り巡らされていました。それぞれ、力自慢達、司祭達、若者達のエリアになっていました。バリケードの近くで、それぞれの者達が「早く村から出てけ!」「この村は俺らものだ!」「かぶは渡さない!」といがみ合っている様子が見られました。
そして、今日は、三つのグループの長が会合する日です。少し、覗いてみましょう。
「だからずっと言ってるんだ! 俺らは何も変わらねえ!」
突然、怒号が聞こえてきました。声の主は、力自慢の長です。
「いいか? 最近は不作で小麦は全然取れていないし、野菜もやせ細ったものばかりで栄養にならない。なのに、村には大勢の人が腹をすかしている。そんな中、あんなに大きなかぶだ。今後しばらくは食い物に困らない。食い物があれば俺らは元気に畑仕事ができる! そしたらもっと色んな食料を作れるっていうのに何で分からねえんだ!」
長の顔が噴火しそうなくらい真っ赤に染まっています。どうやら、今の食料問題を解決するために、あのかぶを食べようというのが、力自慢達の考えだそうです。
「なんという暴挙か。まことに無礼であるぞ」
粛々としながら真向正面から立ち向かうその発言をしたのは、敬虔な司祭でした。
「よいか? あのような荘厳なお姿。人間が作れるものではない。きっと、神が宿っているのだ。あのかぶは神様の作りし賜物である! だから、あのかぶは信仰せねばなるまい! 皆でかぶを信仰し、キリスト教ならぬ、『かぶ教』を設立するのだ! その信仰が強くなれば、必ずや、この貧困から抜け出せるに違いない!」
司祭は、声高らかに言い放ちました。司祭はかぶを神様だと考え、食べるのはもっての外。村の信仰力でどうにかしようと考えていたのでした。
「やれやれ。二人ともおかしなことを考えてらあ」
二人の演説を聞いて呆れながら話すのは、若者のリーダーでした。
「あのな? この貧困は、畑がやせ細っているからなんだ。やせ細った地をどれだけ耕しても、やせた物しか作れねえ。だからよ。あのかぶを肥料にすればいいんだよ。そうすりゃ、将来、土が肥えてくる。その土で育てりゃ、上手い野菜や小麦が取り放題だ。そうすりゃ村だって安泰だ」
リーダーはかぶを使って、未来の村の安泰を計画立てていました。
「神を肥料とは・・・なんと不敬な」
「俺らの方がやせ細ってるのに、何呑気なこと言ってるんだ!」
三人はいきり立ち、にらみ合います。彼らの我慢も限界のようです。
「俺らにとって大切なのは、今、この瞬間だ! 栄養にして皆を救うんだ!」
「皆、神を信じるのです。そうすれば、皆が救われます」
「将来への希望が皆を救うことが繋がる!」
目指す道は同じなはずなのに、決して交わりのないまま、時が過ぎていきました。
そして、村の人々は争いを始めました。自分の考えこそ正しいと信じて。初めは、単なる諍いだったのに、少しずつ規模を広げ、死人が出たことをきっかけに激化の一途を辿りました。
何日も、何日も。そこに人が居なくなるその時まで。
そうして、村は焼け野原になりました。それでも、カブはあの時の姿のままでした。
栄養にも、神様にも、希望にもなれなかったカブは、これからも、抜けないままでした。
終わり




