78.兄が見ている世界 —料理対決19—
朝、兄はお務めを終えて部屋に戻った。
まきは、ぐーぐー寝ている。
これでこの光景も最後かと思い、兄は少し寂しそうな顔をしていた。
記念にこっそり動画でも撮るか?
そう思ったが、兄のスマホは相変わらず充電切れで、電源すら入らない。
後で動画を送ってもらえないか交渉してみようと思い、兄はまきのスマホで撮影した。
少しいびきの音が大きくなってきた。
まきは相変わらずぐっすり眠っている。
『だいぶ緊張も解けてきたんだろうな』
と、兄の優しい声が動画に入った。
時計を見ると、そろそろ起きないといけない時間になっていた。
『まきちゃん。そろそろ起きて!』
と兄が呼び掛けた。
『ブッ』
まきが、オナラで返事した。
一瞬、兄はポカンとしたが、もう一度起こす。
『プーーッ、ブッ!』
と、またオナラで返事をした。
もはや、おっさんじゃねーか!
それと、撮影すんなよ!!
と、わたしは心の中で突っ込んだ。
流石にこの動画を欲しいとは言えないので、撮影は止めた。
だが、動画の削除にはパスワードが必要なようで、兄は諦めてそのままにした。
まきが大きなあくびをしながら起きてきた。
『まきちゃん、おはよ』
と言うと、
まきは、
『おはようございます。』
と返事をした。
朝ごはんは、
ご飯、味噌汁、焼き魚、漬物、大根おろし。
まきはしっかりおかわりをして、満足そうにお腹を撫でた。
兄はいつも通り、小さいおにぎり一つ。
兄は、
『そろそろ、準備して行こうか。』
と、まきに手を差し出した。
まきは、
『はい。』
と少し寂しそうに返事をして、二人はまきの実家へ向かった。
バスの中、まきは兄の太ももに頭を置いて寝ている。
兄は、まきが寒くないように膝掛けを掛けた。
まきの家に到着し、みきが出迎える。
『姉ちゃん、おっかえりー!
それと、いらっしゃい。』
と、まきと兄、それぞれを見て言った。
みきは、まきを見て、
『姉ちゃん……』
と何か言いそうになったが、言うのをやめた。
まきは、
『どうしたの?』
と聞くが、
みきは、
『やっぱいいや。どーせ遅くても明日の朝には気付くし』
と言った。
まきは、
『早めに分かるなら、早めに教えて欲しいんだけど。』
と言うが、
みきは既に兄への会話に移っていた。
『今日は、私の意見を聞きたいって事で、持って来てくれたんですよね?』
兄は、
『ご迷惑をお掛けしますが、宜しくお願いします。』
と言った。
みきは、
『いえいえ。これですか? 温めてきますね。』
と確認すると、昨日兄が準備したものを持って行った。
リビングに通され、兄はまき父へ挨拶をした。
『ご無沙汰しております。
この度は、まきさんと一緒の生活をご許可頂き、ありがとうございました。』
と深々と頭を下げた。
まき父は、
『まきも楽しそうにしているから、こちらとしては節度を持って接してくれたら、それでいいと思っている。』
と言った。
そして、
『まきは……』
と、まきの方を見た父親が一瞬固まり、
軽く咳払いをした後、
『随分とグータラしてたんじゃないだろうな』
と言った。
まきは一瞬眉間にシワを寄せ、
『な……』
と言った後、
『ちゃんと勉強も、お手伝いもしてました。』
と言った。
『温め直し終わったわよー』
と、まきの母が声を掛け、リビングに兄の手料理が並んだ。
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