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62.兄が見ている世界 —料理対決③—

兄は笑顔で、

『勿論!』

と言い、

『まきちゃんのご両親が心配するのは当然だからね。もし事前に挨拶へ行った方がいいなら、挨拶へ行こうか?』

と続けた。


洗濯乾燥が終了したアラームが鳴り、まきは脱衣所へ行き、着替え始めた。


扉を挟んだ反対側にいるまきへ、兄は、

『ねぇ、まきちゃん。今回のこと、巻き込んじゃってごめんね』

と声をかけた。


すると、まきは、

『そんな事ありません。私を選んでくれて嬉しかったです。』

と言い、


『それと親のことですが、今日の晩に話すつもりです。でも、もしダメだと言われた場合は、明日親が休みで家にいますので、一緒に説得してもらえませんか?』

と続けた。


兄は、

『そのつもりだから安心してね。』

と答え、

『そこで、一つお願いがあるんだけど。』

と言った。


まきは、

『どうしました?』

と問いかけた。


兄は、

『今から、まきちゃんのご両親に会いに行く時に渡せるような物を買いに行きたいんだけど、付き合ってもらえないかな?』

と言った。


まきは、

『わかりました。』

と返事をし、着替えを終えて脱衣所から出てきた。


兄は笑顔でまきへ手を差し出し、

『まきちゃん、行こうか。』

と声をかけた。


まきは、

『はい。』

と言って、その手を握った。


いや、なんでそんなに自然なんだよ。


付き合ってもいないのに、手を繋ぐまでが自然過ぎる。


二人はそのままバス停へ向かい、買い物へ出かけた。


バスが来るまでベンチに座り会話をしている二人は、わたしの目には普通に付き合っているようにしか見えない。


だって、付き合ってもいないのに兄の太ももに頭を置いて、兄に腰をさすってもらった事なんて、少なくともわたしには無かったから。


そして、バスの座席に座ってからも同じだった。

バスが駅に到着し、

兄は、

『まきちゃんのご両親の好みの食べ物って何かな? お菓子とか?』

と尋ねた。


まきは、

『ケーキとか甘い物をあまり食べているイメージは無いですね。煎餅とかで十分なんじゃないですか?』

と答えた。


手土産売り場へ到着し、

兄は、

『じゃあ、この中だったらどれがいい?』

とまきに尋ねた。


まきは少し悩んだ後、

『これがいいと思います。』

と答えた。


『じゃあ、これを買おうか。』

と兄が言い、買い物を済ませると、そのまままきを自宅まで送った。


歩きながら兄は、

『明日は、まきちゃんの家に直接迎えに来るね。その時、ご両親と挨拶できそうなら挨拶させてね。』

と話していた。


すると、

まきの父親と母親が庭で落ち葉を集めていた。


まきは、

『あ! お父さん、お母さん! ただいま!』

と声をかけた。


まき父とまき母は、

『おかえり。』

と返事をした後、


まきの隣にいる兄へ視線を向けた。

そして、手を繋いでいる事に気付いた。

二人とも一瞬目を丸くしたが、

まき父は少し首を傾げ、

まき母は、

「まぁまぁ仲の良いこと」

と言いたげな微笑ましい表情を浮かべた。


兄は一歩前に出て、

『まきさんと仲良くさせて頂いている、大坂篤志と申します。よろしくお願いします。』

と挨拶をした。


まき父は、

「ああ、思い出した」

と言いたげな顔をしたが、

兄は、

「何かありましたか?」

という表情をしている。


まき父は、

『大坂くんじゃないか。夏休みの初め頃に、うちの会社へ職場体験に来てくれただろう? 覚えているかい?』

と言った。


『まさか、まきと仲が良かったとは思わなかったよ。』

兄は思い出したような顔をして、


『島田さん、こちらこそお久しぶりです。その節は大変お世話になりました。』

と、にこやかに返した。


『知り合いなの?』

と、まきが聞くと、


まき父は、

『ああ。職場体験に来た子が一人いてな。やたら覚えが良くて、効率重視で……って話をした事があっただろう? その子だよ。』

と言った。


まきは納得した顔をして、

『この作業は何のためにしていて、しなかったらどんな影響が出るのか聞いてきた人がいたって言ってたけど、その人?』

と尋ねた。


『そうだ。』

とまき父は答えた。


そして兄へ向き直り、

『うちの会社も求人を出していたと思うが、受けなかったんだね。』

と少し残念そうに言った。


兄は、

『〇〇株式会社の内定を頂きました。』

と答えた。


『〇〇株式会社?』

と、まき父は少し首を傾げた。


その後、

まきと母親を交互に見た。

まき母が静かに頷く。

それを見て、まき父も納得したような表情になった。

そして、

『まきの将来だ。まきの好きなようにしなさい。』

とだけ言い、再び落ち葉集めを始めた。


まき母は、

『こんな状態で申し訳ないけど、お茶でも飲んでいって。』

と言った。


兄は、まきを見る。

まきが頷いたのを確認して、

『ありがとうございます。それでは、お邪魔させて頂きます。』

と答えた。


まきの家へ上がり、本来は明日渡す予定だった手土産を渡し、お茶をご馳走になった。


二十分ほど話をした後、

兄は挨拶をして帰ろうとした。

だが、外へ出ると、

まき父はまだ庭の手入れを続けていた。


兄は、

『お手伝いさせて下さい。この袋に落ち葉を入れたらいいですか?』

と言った。


まき父は、

『わざわざ手伝わなくても……』

と言いかけたが、

『ありがとう。』

と笑った。


作業をしながら、

まき父は学校でのまきの様子を聞いてきた。

兄は少し考えてから、

『島田さんの言われていた通り、少し慌てん坊で、おっちょこちょいな所もあります。』

と言った。


そして微笑みながら、

『でも、放っておけない、かわいい娘さんですよ。』

と続けた。


さらに、

『ただ最近は、何事にも頑張り屋さんで、周囲へも目を向ける事ができる、大人の女性になってきている感じもします。』

と言うと、


まき父は、

『そっか。』

と答えた。


その表情は、

嬉しそうでもあり、

少し寂しそうでもあった。

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