53.兄が見ている世界 —試験勉強②—
わたしは兄へ聞いた。
『ねーねー、あっくん。まき、絶対ヤバいって!
家に入れない方がいいんじゃない?』
兄は少し困ったように笑った。
『その時は、元部活の先輩と後輩だったから、上下関係を気にしているのかなって思ってたんだよ。
就職の内定も決まって、やることもほとんど無かったから、毎日まきちゃんの隣で資格勉強を教えたり、たまに授業で分からないところを教えたりしてたんだけど……。
距離が縮まるどころか、ますます態度が硬くなっていくから、おかしいなとは思ってた。』
そう言うと、放課後の部室の記憶が映し出された。
部員のまきと、元部長の兄が机を並べて勉強している。
兄が声を掛ける。
『まきちゃん、お疲れ様〜。
昨日は夜中に急に電話してごめんね。起こしちゃったりしなかった?』
まきは視線を逸らしながら答えた。
『いえ……そんなことは無いです。
寝転がって動画を見ていただけなので……』
昨日みたいな元気が無いな、とわたしは思った。
『ちょうど良い場面だったとかじゃなかった?』
兄がそう聞くと、
『全然、全く、そんなことないです』
とまきは慌てて答えた。
兄は安心したように笑う。
『よかった。
昨日の電話の時、なんだか様子が違う気がしたから心配してたんだよ。』
まきは下を向いたまま、
『なんでもないです……
ご心配お掛けしました……』
と小さく答えた。
兄は少し首を傾げる。
『もしかして土曜日、他に予定が入っちゃったとか?』
すると、まきは勢いよく顔を上げた。
『違います!楽しみにしてます!』
兄は笑顔になる。
『よかった。
俺もまきちゃんと会えるの楽しみにしてるよ。』
そう言った後、兄は少し心配そうな顔をした。
『でも顔が赤いね。風邪とかじゃない?』
そう言って額に手を当てる。
すると、まきの顔はさらに真っ赤になった。
兄は本気で心配したらしい。
『体調悪いなら今日はやめておこうか?』
まきは両手で自分の頬を軽く叩いた。
『問題ありません!』
『それならいいけど……
無理したらダメだからね。』
兄はそう言った。
わたしは思った。
そりゃそうだ。
唯一、あっくんに料理を教えてくれる人だもん。
失うわけにはいかないもんねー。
しばらく勉強を続けた後、
兄が嬉しそうに言った。
『まきちゃん、凄いじゃん!
昨日間違えてた問題、ちゃんと解けてるよ!』
『ありがとうございます。』
『あと、この問題なんだけど、引っ掛けになってるから少し注意して読んでみて。』
『はい。』
まきは問題を解く。
『正解!
もう、この資格試験の内容はほとんど理解できてると思っていいよ。
よく頑張りました。』
そう言って兄はまきを褒めた。
すると、まきはまた自分の頬を叩こうとする。
兄は慌ててその手を止めた。
『はーい、ストップ!』
まきは固まる。
『自分で自分の顔を叩いたらダメだよ。』
兄は少し真面目な表情になった。
『まきちゃん、本当に何かあった?
俺じゃ相談しづらいことなら、保健室の先生でもいいし、女性の先生でもいい。一人で抱え込まないでね。』
その様子を見ていた部員達がざわつく。
『え、何あれ。』
『まり先輩と付き合ってたんじゃなかったの?』
『振られたとか?』
『いやいや、最近も仲良かったじゃん。』
『じゃあ何なんだろ……』
副部長は頭を抱えながら、
『今日の活動はここまでにしたいと思いまーす……』
と締める。
そして全員が片付けをしながら、まきと兄をチラチラ見ていた。
わたしは兄に聞いた。
『おいおい、あっくんさんよ。』
『どうした、あいちゃんさんよ。』
『流石にこれは良くないんじゃないか?』
兄は少し考えてから答えた。
『ああ、今なら分かる。
こういう場合は、保健室とか女性の先生に繋ぐべきだったな。女の子特有の悩みとかもあるだろうし。』
『あーー、はいはい。そうですねー。』
わたしは呆れながら答えた。
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