32.兄が見ている世界 —戻されたわたし—
兄が病院へ到着し、わたしの入院している病院へやって来た。
ICUへ入ってきた兄は、一瞬だけ動きを止めた。
……そりゃそうだ。
わたしは全裸だった。
今までは、火傷部分にはガーゼ、火傷していない部分には最低限の服やタオルが掛けられていたのに、今日はガーゼ交換と清拭のタイミングが重なったらしい。
下半身には火傷はない。
だから、この機会にまとめて身体を拭いてしまおうということなのだろう。
いや、分かるよ?
分かるけどさ。
わたし17なんですけど?
一応、乙女なんですけど?
看護師さん達も配慮はしてくれていた。
拭いている所以外はちゃんとタオルで隠してくれている。
……でも、その“隠してる感”が逆に恥ずかしい。
『外の看護師さん、出払ってすぐで中の様子を知らないのに中を確認せず入れちゃったみたいね』
わたしの股を拭いていたおばちゃん看護師さんが、困ったように笑った。
いやいやいや。
もうバッチリ見られてますから!!
『見れば分かると思うけど、今ちょっとタイミング悪いから。あとで呼ぶね』
『3階の自販機前にいますので、よろしくお願いします』
兄は妙に真面目な声でそう言うと、ICUから出て行った。
自販機で水を買ってる兄にたいしてわたしは言った。
『……見た?』
『何を?』
『……だから……』
さっきの光景を思い出し、恥ずかしくなって言葉が詰まる。
『なんだよ。はっきり言えよ』
少しずつ、昔みたいな会話に戻れている気はする。
でも兄は、あの日から一度もわたしの名前を呼ばない。
わたしが小さくため息を吐くと、兄は呆れたように言った。
『あーもう。薄い胸と、小さいドングリみたいなのが見えたくらいだろ。それに、下も無駄に綺麗に整えてあったし』
言い切った。
つまり、見られたくないところは全部見られたってことだ。
わたしは顔が熱くなり、
『お嫁に行けなかったら責任取ってよね』
と呟いた。
すると兄は即答した。
『それ言うなら、股開いて拭いてた看護師さんに言えよ』
『はぁ!?』
言い返した瞬間、自販機のある場所に看護師さんがきた。
『お待たせ。……本当はこういう事、あっちゃいけないんだけどねぇ。お兄さんだから大丈夫だよね?』
看護師さんが苦笑しながら言った。
大丈夫じゃありません!!
わたしは心の中で全力で叫んだ。
そして、再びICUの中へ戻る。
兄はわたしへ静かに言った。
『戻れ』
その言葉だけで分かった。
また、“わたしの中”へ戻れってことだ。
わたしは首を横に振る。
『嫌だよ……』
『怖いんだよ……痛いんだよ……悲しいんだよ……』
兄は少し黙ったあと、静かに口を開いた。
『兄として、注意するべき事はちゃんと注意する』
『どうしようもなくなった時は、また会いに来る』
そして小さく、
『ありちゃんも言ってたし……』
と呟いた。
……おい、ありさ。
退院したら覚えとけよ。
わたしはハッキリとした憎しみをありさへ向けながら、ゆっくりと自分の中へ戻っていった。
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