31.兄が見ている世界 —お疲れの兄—
今日も朝のお務めを行い、朝ご飯を食べながらバス停へ向かう。
あれ?
今日はまり姉がいる?
どうしたんだろう。補習があるから、もっと早く行くんじゃなかったの?
兄が近づき、
『まりちゃん、ありちゃん、おはよー』
と挨拶をする。
『あっくん、おはよー』
まり姉とありさが返事を返し、兄がベンチへ座ろうとした瞬間――
まり姉に取られまいとしたのか、ありさが兄の腕を引っ張り、自分の隣へ座らせた。
まり姉が、
「はあ? あれ? どうなった? 昨日何かあったの?」
と言いたげな顔をしている。
ありさが、
『昨日、面接練習お疲れ様〜』
と言うと、
『ありちゃんもお疲れ様。出席番号一番だから、ありちゃんもやったんでしょ?』
と兄が返した。
ありさの苗字は荒木。
だから出席番号も早いわけかー。
そんなことを考えていると、ありさが不満そうに話し始めた。
『うん、そうなんだけど聞いてよ〜。
先生たち酷かったんだよ?
質問に対する答えが曖昧だーとか、
答えがズレてるーとか。
しかも五人の先生の五段階評価で、平均4.5以下だった人は、本番前日まで毎日面接練習だって!
まずは全員の状態を把握するために、進路指導の先生と練習するみたい』
それを聞いた兄は、
『そっかー。ありちゃんも大変だったね。
面接なんて、今まで練習したことないもんね。いきなりやれって言われても戸惑うよね』
と優しく返した。
『そーなの! 他にもね――』
ありさは昨日あったことを次々と話し始める。
兄も、一つ一つにちゃんと相槌を打ちながら反応を返していた。
そんなことをしている間に、バスが到着した。
次は私の番――と言わんばかりに、まり姉が兄の腕を引っ張る。
兄は少しふらつきながら、まり姉の隣へ座った。
ありさは、むーっとした顔をまり姉へ向けた後、空いている席へ座る。
兄は、まり姉へ問いかけた。
『午前の補習は大丈夫だったの?』
すると、まり姉は胸を張って、
『昨日の午前と午後に過去問を解いたんだけど、ほぼ満点だったから、午前の補習は不要ってなったんだよね。
先生も、朝早く来るの大変だろうしって』
と答えた。
『まりちゃん、凄いね。さすが独学でも勉強してただけある』
『私、親戚に高校の先生がいるから、ちょくちょく来てもらって教えてもらってたんだよね!』
『やっぱり、まりちゃん偉いよ』
そう言うと兄は、まり姉の肩へ頭を預け、そのまま腰辺りへ腕を回すような体勢になった。
部活の引き継ぎも終わり、ずっと張り詰めていた気持ちが少し緩んだのかもしれない。
毎日の朝夕のお務め。
学校。
実習。
病院へのお見舞い。
面接練習。
それに加えて、兄は、寝る前に実習レポートまで仕上げていた。
今まで気を張っていた分、一気に疲れが出たのだろう。
……そして、そのまま寝落ちた。
『あれ? あっくん? ……あっくん!?』
まり姉の焦った声が聞こえる。
目を覚ますと、兄は保健室のベッドに寝かされていた。
保健室の先生が様子を見に来て、
『目、覚めたみたいだね。
疲れが出たのかな?
女の子二人が、あなたの腕をそれぞれ肩に回して運んできたんだよ。
まさに両手に花だね〜。モテる男は大変だ』
と笑った。
そして続けて、
『次の休み時間まで休んで、今日は帰ったら?
どうせまた、あの二人が様子見に来るんだろうし。
少しは元気になりましたって顔と、感謝くらい見せてあげな』
と言った。
兄は苦笑しながら、
『モテたことなんて無いですけどね。
……はい。次の休み時間にお礼を言って、そのまま帰ります』
『先生、ありがとうございます』
と返した。
すると先生は、一瞬だけぼーっとした顔になり、
『無自覚って罪だよねー……』
と呟いた。
チャイムが鳴り、しばらくすると、まり姉とありさが保健室へ入ってきた。
『あっくん! 心配したよー!』
そう言いながら、ありさが抱きつこうとした瞬間――
まり姉に止められる。
ありさは、自分が今何をしようとしたのかを理解し、顔を真っ赤にした。
『わたしも心配したよ。
まさか四時間目まで寝てるとは思わなかったし。もう昼休みだよ?』
まり姉は、苦笑しながら言った。
兄は二人へ笑顔を向け、
『まりちゃん、ありちゃん。心配してくれてありがとう。すごく嬉しいよ』
と答える。
そして、
『それと、今日は早退しようと思うんだけど……
実習の先生に、昨日のレポート提出をお願いしてもいいかな?』
と二人へ頼んだ。
『了解。私から渡しておくよ。
毎度毎度早いねー。レポートなんて次の実習まででいいのに』
まり姉は、呆れたように笑う。
兄は、そのまま帰り支度を済ませ、学校を後にした。
そしてバスへ乗り込み、わたしが入院している病院へ向かった。
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