表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/101

29.兄が見ている世界 —憂鬱な朝—

次の日の朝になっても、兄の機嫌は……良くなっていなかった。

いつも通り淡々とお務めを終え、おにぎりを食べながらバス停へ向かう。


すると兄が、前を向いたまま口を開いた。

『……わかってるだろうから、余計なお節介かもしれないけど』

『聞きたくないなら聞き流していい』

『お前が退院した後、俺はもうお務めをしない。次期当主じゃなくなるからだ』

兄は淡々と続ける。

『退院した後は、毎日お前がやるんだから、ちゃんと覚えておけ』

『次、あのお方を含めた分家の人達を怒らせたら、何をされるかわからないから』


『……わたし、出来るかな?』

わたしが不安そうに言うと、兄は即答した。


『知らない。でも、“出来るか出来ないか”じゃないから』


『う……』

わたしは何も言い返せなかった。


少し沈黙が流れた後、兄がぽつりと呟く。

『今日の夕方までだからな。“俺の中”』


わたしが、何か言葉を口にする前に


『あー、あっくん! おはよー!』

ありさが明るい声を上げながら近づいてきた。


兄も、

『ありちゃん、おはよ』

といつもの柔らかい声で返す。


ありさは嬉しそうに兄の前へ回り込む。

『ねぇねぇ、今日は あっくん、私の隣ねー』

『昨日は、まりちゃんの隣だったからー』


兄は軽く頷き、

『まりちゃん、今日から朝と放課後は受験勉強の補習なんだ』

『しばらくは、この時間のバス、ありちゃんと二人だね』

『部活も引退したし、就職試験の筆記や面接練習が無ければ、帰りも一緒かな』


その言葉に、ありさの目がぱっと輝く。

……が、すぐに不思議そうな顔になった。

『何で、まりちゃんの予定、そんなに詳しいの?』


『昨日、部活終わった後に二人で帰った時に聞いたから』


兄がそう答えると、ありさは納得したように、

『そっかー』

と笑った。


そして少しだけ緊張したように続ける。

『そういえば昨日、メッセージ送ろうとした時、今まで送ったやつ全部既読になっててビックリしたよ』

『毎日送ってたから……引かなかった?』


兄は少し考えてから答えた。

『件数には驚いたかな』

『でも内容は、“ありちゃんが、その時どんな気持ちだったか”っていうのが伝わるものだったから』

『そんな風に思ってくれてたんだなって、嬉しい気持ちの方が大きかったよ』


ありさは照れたように笑った後、ふと真剣な顔になる。

『ねぇ、あっくん』

『なんか今日、寂しそうな顔してる』

『前に家族喧嘩した後みたいな感じ……かな』

『あの時は、まりちゃんが“シャキッとしなさい”って感じで立ち直らせてたけど』


ありさは少し照れながら両腕を広げた。

『私で良かったら、話聞くけど、どつする?』


兄は一瞬だけ目を伏せ、

『……いいの?』

と聞く。


ありさは真っ直ぐ兄を見て言った。

『まりちゃんの代わりにはなれないし、“代わり”って思われるのも嫌』


『だから私は、私のやり方で、あっくんを慰めてあげる』


……可愛い笑顔やなー。

わたしがそう思って見ていると、兄はそのまま、ありさに抱きついた。


おいおいおいおい!!

朝っぱらから何やってんだ、バカ兄貴!!

わたしは心の中で叫ぶ。


しかも、ありさのおっぱいが兄に押し付けられて、形変わってるし!


ありさは顔を真っ赤にして驚いた後、優しく微笑んだ。

『よしよし』

『ありちゃんに話してごらん?』

とありさが、言うと、



兄は静かな声で話し始めた。


わたしが“知らずにやったこと”だったとしても、結果的に悪いことをしてしまったこと。


された側の立場や気持ちも、少しは理解しているつもりなこと。


だから許す気にはなれない。


でも、これからどう接すればいいのかわからないこと。


……わたしの目の前で、それ聞くかー。


いや、今までなら相談できる相手がいたし、今はずっと わたしが居るしで、

タイミング無かったんだろうけどさー。

なんかモヤモヤする。


ありさの返事は、意外とシンプルだった。

『まず、お兄ちゃんとして注意するべきことは、ちゃんと注意する』

『でも、本当に困った時は手を貸す』

だった。


いやいやいや。

“本当に困った時だけ助ける”って、それ、

わたしの持つ兄のイメージでは、


「バッドエンド直前」

もしくは

「もうバッドエンド入ってる」

時に対応に入ることになるよ!?


もっと早めに助けて!


と、全力で訂正したかったけど、当然わたしの声は届かない。


そのもどかしさに、歯噛みしそうになる わたしなのでした。

ご意見 ご感想よろしくお願いします

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ