236. わたしの新学期準備④
部屋へ戻ると、わたしは制服から部屋着へ着替える。
その後、居間へ行くと、なっちゃんが春さん達から注意されていた。
そっと聞き耳を立てると、
『あまり亜衣様をからかってはいけませんよ。亜衣様はお優しいので許してくださいますが、度を超えてしまった時は困りますから……。』
どうやら、さっきわたしと戯れ合っていた時の話をしているようだ。
わたしは足音を立てないように近づくと、そのまま春さんとなっちゃんへ抱きついた。
『春さん、なっちゃん! わたし、それくらいじゃ怒ったりしないよ!
話しかけてくれて嬉しかったから、どんどん話しかけてきてよ。』
春さんは少し驚いたような表情を浮かべる一方で、なっちゃんは満面の笑みになる。
春さんは頬を膨らませ、
『あーいーさーまー!』
と、少し拗ねたような声を出した。
しまった……。
びっくりさせちゃったかな。
わたしは申し訳なさそうに、
『ごめんなさい。やり過ぎちゃいました?』
と尋ねる。
すると春さんは苦笑しながら、
『いいえ。ただ、私が注意している最中にこのようなことをなさいますと、示しがつきませんので……。』
と優しく答えてくれた。
わたしは胸を張って、
『いいじゃないですか。春さんもなっちゃんも、かわいいんだし。
「可愛いは正義」って言葉もありますし。』
と言う。
『何ですか、それは?』
春さんは思わず笑った。
すると、なっちゃんがすかさず、
『さっき亜衣様が篤志様の気を引こうとして失敗した時も、似たようなこと言ってましたよねー。』
と笑う。
続けて、
『ねー、はるねー! 私や、はるねーだったら、篤志様、わがまま聞いてくれるかもだよ!』
と無邪気に言った。
春さんは目を丸くして、
『なっちゃん、それは……。』
と止めようとする。
しかし、その時にはもう、わたしはなっちゃんを優しく抱きしめていた。
『なっちゃーん。
それはどういう意味かなー?
わたしは可愛くないってことかな?』
作り笑顔を浮かべながら尋ねる。
なっちゃんは少し首を傾げ、
『亜衣様は、次期当主様だから、「かわいい」とか、そういう言い方はするべきじゃないというか……。』
と言った後、にっこり笑って、
『でも、私は可愛くて、お美しいと思っていますよ!』
と無邪気に言ってくれた。
わたしは嬉しくなり、
『なっちゃん、ありがとー! 大好き!!』
と言って、そのまま思いっきり抱きしめた。
春さんは、その様子を見てホッとした表情を浮かべる。
……しかし、その直後。
なっちゃんが無邪気な笑顔のまま、
『亜衣様は、十七歳なのに寝る時はオムツを付けてるところも、赤ちゃんみたいでかわいいです。』
と言った。
その瞬間。
わたしと春さんの表情、そしてその場の空気が一瞬で凍り付いた。
そんなふうに皆で戯れていると、
『あら? 今、外が騒がしいと思っていたら、亜衣ちゃんが来てたのね。
そろそろ晩御飯にしましょうか?』
と、お母さんが居間へ入ってきた。
わたしは、
『うん、お母さん。ありがとう。晩御飯食べる。』
と笑顔で頷く。
春さんとなっちゃんは、わたしへ頭を下げ、それぞれの仕事へ戻っていった。
わたしはお母さんと一緒に食卓へ向かい、晩御飯を食べ始める。
しばらくして、わたしは恐る恐る口を開いた。
『ねぇ、お母さん。
わたしって、かわいいよね?』
お母さんは驚いた表情になり、
『亜衣ちゃん、急にどうしたの?』
と尋ねる。
わたしは苦笑しながら、
『あっくんもだけど、さっき春さんやなっちゃんにも、「わたしってかわいいよね?」って聞いたんだけど、何だかはぐらかされてる感じがして……。』
と答えた。
お母さんは真面目な顔になり、
『亜衣ちゃんは、とってもかわいくて綺麗な、お母さんの自慢の娘よ。『
『そんなこと、何を今さら心配してるの?』
と優しく微笑んでくれた。
わたしは思わず笑顔になり、
『わーい! 良かった。』
と安心して食事を終える。
やっぱり、お母さんの言葉が一番信用できる。
そう思いながら、わたしはそのまま脱衣所へ向かった。
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