143.兄が見ている世界 —自動車学校42—
家電を一通り見終えたありさと兄は、ニ〇リへ向かった。
食器や包丁などの台所用品から始まり、バス用品、寝具、カーテン、テーブルなどの家具を見て回る。
ありさは、家電売り場にいた時よりも目をキラキラさせていた。
『デザインもシンプルだし、ここで揃えるのもアリかもー。』
兄は周囲を見回しながら、
『どこで買うにしても、何がどのくらい必要なのか見当がつかないなー。食器にしても、タオルにしても、どのくらいあれば足りるんだろう。』
と呟いた。
その間にも、ありさは買い物カゴへ気になる商品を次々と入れている。
兄は慌てて、
『ありちゃん、待って。まだアパートも決まってないから。このカーテンだって、下手したらサイズが合わないかもしれないでしょ?』
『収納スペースがどのくらいあるか確認してから買おうね!』
と声を掛けた。
ありさは頬を膨らませながら、カゴへ入れた商品を戻しに行く。
しばらくして戻ってきたありさの腕には、大きな猫の抱き枕が抱えられていた。
『この子は今日、私と家に帰るから!』
兄は思わず笑い、
『お利口さんに商品を返してこられたから、それはいいよ。』
そう言いながら優しく頭を撫でて購入した。
ありさは、
『え?』
と兄の反応に少し驚いたようだった。
会計を済ませた二人は、自動車学校近くのバス停へ戻る途中、
『カフェでも行こうか!』
と兄が提案する。
ありさは首を傾げ、
『詠唱できないけど?』
と返した。
兄は苦笑しながら、
『そういう所じゃない。』
とツッコミを入れる。
案内された先にあったのは、少し年季の入った鯛焼き屋だった。
メニューはたい焼きのみで、飲み物は店先の自動販売機。
兄は、
『たい焼き二つください。』
と注文した。
商品を準備してもらっている間に、
『ありちゃん、飲み物どうする?』
と尋ねる。
『午〇ティー。』
ありさが即答すると、兄は二人分の飲み物を購入した。
たい焼きを受け取り、近くのベンチへ腰掛ける。
ありさは笑いながら、
『随分と味のあるカフェですこと。』
と周囲を見渡した。
兄は満足そうに、
『でも落ち着けるんだよ。』
『ほら、ありちゃんの好きな猫もいるよー。』
と指差す。
ありさは、
『野良猫じゃん。』
と笑った。
兄はたい焼きを頭から食べ始める。
『ほら、尻尾まで餡が入ってない…って、あちっ!』
熱さに驚いてたい焼きの尻尾を落としてしまった。
ありさは声を上げて笑い、
『ふざけてると火傷するよ。』
と呆れている。
兄が落としたたい焼きを拾おうとした瞬間。
野良猫の一匹が素早く駆け寄り、たい焼きを咥えて逃げていった。
兄は固まり、
『猫って魚のイメージだったんだけど……しかも猫舌じゃないの!?』
と本気で驚く。
その姿を見たありさは、ついに吹き出した。
兄は、そんなありさを見ながら少し嬉しそうに微笑む。
『ありちゃんが笑ってくれた。』
ありさは不思議そうに、
『え?』
と首を傾げた。
兄は少しだけ遠くを見るような目をして、
『陽子とカフェに行った時は、三人で六千円くらい使ったのに、結局笑顔は見られなかったんだ。』
『でも今日は、二人で五百円も使ってないのに笑ってくれた。』
そう言ってから、
『ありちゃんが笑ってくれると、俺も嬉しい。』
と穏やかに続けた。
ありさは抱き枕を抱えたまま、たい焼きを食べようとしていた。
兄は、
『俺が持ってるから。』
と抱き枕を受け取る。
兄は、たい焼きを食べるありさをしばらく眺めた後、抱き枕の顔を見つめ、
『似てる……。』
と呟いた。
ありさはニヤリと笑う。
『誰にでしょー?』
兄は少し考え、
『ありちゃんと俺を注意した後に、“もう!”って言う時のまりちゃん!』
と答えた。
ありさは満足そうに笑い、
『せーかい!』
と声を弾ませた。
たい焼きを食べ終えたありさは、兄から抱き枕を受け取る。
『モンローちゃん、おかえりー。』
そう言いながら、ぎゅっと抱きしめた。
そして時計を確認すると、
『そろそろ時間だし、バス停へ向かおうか!』
と兄へ声を掛けた。
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