11.兄が見ている世界 —デート?—
『おいおいおいおい、あっくん。
ありさを普通にデートへ誘いやがったな』
わたしがツッコむと、兄は真剣な声で言った。
「マジでこのまま二時間、炎天下で待機とか死ぬだろ。
こっちは毎朝早起きしてるせいで、ウル〇〇マン並みの活動時間しかないんだぞ」
ありさと篤志のやり取りを見ている、いかついおじさんはガッツポーズしてるし、おばさんも口に手を当てている。
『周囲は応援しているみたいだ。
くれぐれも失望させないようにしてくれたまえ』
「あいちゃん、なんか偉そうだな……」
「じゃあ、ありちゃん行こうか」
どんだけ早く涼しい場所へ行きたいんだ、と私は心の中で思った。
「うん」
ありさは嬉しそうにベンチから立ち上がる。
立ち上がった瞬間に揺れるおっぱい。
汗でシャツが少し張り付き、薄く透けた下着。
そして、この笑顔。
世の男達なら、きっと簡単にやられるんだろうな。
そんなことを、わたしはぼんやり考えていた。
―イ〇ンへ到着。
「少し喉渇かない?
お昼ご飯もまだだし、何か食べようよ」
兄ちゃん、必死だ。
朝早くから動き回っていた上に、朝ご飯も食べ損ねていたことを、私は知っている。
「フードコートの方がいいかな?
それとも、レストラン見ながら決める?」
どこでもいいから早く座って、水分と食事を摂りたい。
そんな兄の切実な本音が、私には透けて見えていた。
「私、あんまりお金持ってきてないから…
フードコートでいいかな?」
「俺が誘ったんだから、そこは気にしなくていいよ。
ありちゃんの食べたい物食べよう」
そう言うと兄は、自然な動作でありさの手を取った。
ありさの顔が、一気に赤くなる。
きっと彼女には、
“手を繋いでエスコートしてくれている”
ように見えているのだろう。
でも実際の兄は、暑さと喉の渇きで限界寸前だった。
イ〇ンの中へ入って涼しくはなったものの、空腹は暑さでの移動のせいで、吐き気へ変わり始めている。
ありさは、
「私の歩幅に合わせてゆっくり歩いてくれてる」
と思っているかもしれない。
だが兄に残っている体力では、それが限界速度だった。
すると突然、ありさが言った。
「やっぱり私、あんまりお腹空いてない……かも」
その瞬間。
兄は満面の笑みになった。
「そっか……
それなら、アイスだけでも一緒に食べて欲しいな」
心の中では、盛大にガッツポーズしていた。
なぜなら兄の空腹は、とっくに吐き気へ変わっていたからだ。
二人はアイスを注文し、フードコートの空いている席へ座った。
そして兄は、とても幸せそうだった。
冷房の効いた空間。
しっかり冷えた空気。
給水機の水。
生き返るとは、こういうことを言うのかもしれない。
ありさは楽しそうに色々話している。
兄は、ありさの方をしっかり向き、笑顔で頷く。
ありさが笑えば一緒に笑い、少し真剣そうな顔をすれば、兄も真面目そうな顔になる。
そして時々、問いかけられたら
「難しい問題だよね」
「ありちゃんは、どうしたいと思ってるの?」
と返す。
それを見て、私は驚愕した。
兄は今、極限状態から快適な状態へ移行し、ほぼ反射だけで会話している。
なのに…会話が成立している。
女子は、
「話を聞いて欲しいだけ」
なんてよく言うけれど。
まさか、これが真理だったのか?
そんなことを考えているうちに、時刻アラームが鳴った。
二人はフードコートを後にし、バス停へ戻る。
バスへ乗り込んだあと、兄が言った。
「今日は途中で降りて、あいちゃんのお見舞い行こうと思ってるから、途中で降りるね」
「うん」
ありさは、とても綺麗な笑顔で手を振った。
その笑顔を見ながら私は、
…兄ちゃん、私が思ってるより、ずっとモテるんじゃないか?
と、少しだけ思った。
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