駄弁編Ⅲ 廃人ゲーマーってだいたい人間卒業してると思う
時間軸は本編より結構前です。
〈時は、麻義がプルファと出会って少し後くらいのこと…〉
『フルコンボだドォンッ!』
うーん。
ここ最近暇つぶしにゲーセンで目隠し鬼フルコンチャレンジをしていたけど、いい加減飽きてきた。
麻が無事定職に着いたのは良いことだけど、その分僕の暇な時間が増えちゃったんだよなぁ…。
『曲を選ぶドォンッ!』
これならいっそ僕も麻の隊に入っちゃおうかな。
討伐者の資格は前に暇つぶしで取ったし、少なくとも足手纏いにはならないよね。
『難しさを選ぶドォンッ!』
いや、それも悪くないけどまだ働きたくないなぁー。
今は気が向いた時にバイトしたりゲーム実況したりスキル開発したり株やったりして収入はそこそこあるから、正直定職につかなくてもなんとかなってるんだよねー。
『さぁ、始まるドォンッ!』
でも、このままだとほんとに死活問題だ。
麻は平穏に暮らしたいって言ってるけど、何かと色々巻き込まれる面白…かわいそうな性質だから、一緒にいると退屈しなかったんだけどなぁ。
…これから何を楽しみにしよう。
麻はあまり自分のことを積極的に話す方じゃない。
この前は僕への愚痴のついでにあの時のことを話してくれたけど、そういうのはなかなかにレアなケースだ。
だから麻の職場での話はあまりゲットできなそうなんだよねぇー。
うーん、どうしよう。
盗聴器でも仕掛けようかな。
『500コンボ!』
ダメだ。
麻はそういう勘はすごく鋭いから、きっとすぐにバレるんだろうなぁ。
あ、ストーキングしようか。
『フルコンボだドォン!』
「「「「「「「おおぉぉぉ‼︎」」」」」」」
「また画面隠してフルコンしたぞ⁈あれで今日何回目だ⁈」
「今日は9回目だ!でも、あいつはここ数日フラッと現れては余裕な顔で神プレイかまして帰っていく、制作者泣かせのバケモンプレイヤーだ!これでもう50曲はやってるぞ!」
「50⁈何それ、透視能力者なんじゃないの⁈」
「いや、あいつたまによそ見しながらやってるんだよ。あの実力は本物だ!」
「はぁ⁈じゃああいつ何者なんだよ?!」
うーん、並んでる人も増えてきたし、今日はもうこの辺でいいか。
「お待たせしました。すみませんね占領しちゃって」
「っいえいえとんでもない!むしろ素晴らしいものを見せてもらって…」
素晴らしいもの、か。
さてなんのことかなー。
「っと、今日はこの辺でいいかな。他の台ちょっと見て帰ろっか」
僕はばちを後ろにいた人に譲り、太鼓の音ゲーの台を後にした。
クレーンゲーム系はなんか良いものあるかな。昨日はクッション取ったし、今日はお菓子でも取ろっかな。
…ん?
「あぁぁぁぁ!!なんで、なんでそこで止まるのよ!!あんたもう少し頑張りなさいよ!!あと1cmくらい根性で動いてみなさいよぉぉぉ!!」
「お客様、落ち着いてください!台に泣きつくのはやめてください!」
クレーンゲーを見て回っていると、狐のぬいぐるみの台の前で女性と店員が揉めていた。
女性は青髪ボブの、20代くらいと思しき人だった。
「そんなこと言ってもしょうがないじゃない!私この子のために3000円も溶かしたのよ?!もう今月10000円しか残ってないの!あと半月どうしろってのよ!」
「そ、そんなこと言われても。他のお客様のご迷惑になるので…」
店員は困ったようにしつつも女性を制止しようとしているが、当の本人はちっとも気にしていない。
すると、急に女性が縋り付く相手を台から店員に乗り換えた。
「じゃあお兄さんが取ってよ!ゲーセンで働いてるんだから、こんなのちょちょっと取れるでしょう?!」
「…え、いや、こういうのは自分で取ってこそでは…」
否定しないところを見ると、まぁ取れはするんだろうな。
でも店員は仕事中だし、代わりに取ってあげるなんてことは出来ないだろう。
「知らないわよそんなこと!もうゲームとしては満足したから!この子がゲット出来ればそれでいいからぁぁぁ!!!!」
しかしそんな事はお構いなしに、女性は店員から離れない。
というか、そういえばあの服、なんか見た事あるな。
…あ、そうだ。
麻が着てたのと同じ、隊服のデザインだ。
ということは…
「あの、ちょっといいですか?」
「何?!…ん?あんた誰?」
この遠慮のない物言い、やっぱり予想どおりだ。
「いえ、ちょっとその台やりたくて」
〜A few minutes later〜
「いやー、あなたデキル男ね。私じゃなかったら惚れてるわよ」
そう言いながら女性は、僕が取った狐を掲げて目をキラキラさせていた。
あの後、結局僕はぬいぐるみを100円で取ることができた。
それで話のきっかけを作るために、それを彼女にあげたのだが…
「しかも1発よ1発。私は30回以上やっても取れなかったのに。ほんとすごいわねー」
「お褒めに預かり光栄です」
あのぬいぐるみは本当にいい所まで来ていて、余程のヘマしなければあと1発で取れる状態だった。
…というのは、まぁ黙っておこう。
「ところで、お礼といってはなんですが少し話を聞かせて貰えませんか?夏目真凜さん」
ゲーセンを出たところで、僕は彼女に尋ねた。
「話?…悪いけど、私も暇じゃないの。これから今日のご飯を狩りに行かないと……あれ?私名前言ったっけ?」
思った通り、ビンゴだ。
これはいい暇つぶしができるぞ。
「申し遅れましたね。僕は二階堂という者で、小鳥遊麻義の友人です。もし良ければ麻の職場での話を聞きたかったのですが、忙しいなら仕方ないですね」
そう、忙しいなら仕方がない。
…仕方がないけど、ここで引くほど僕も諦めが良くはない。
「もちろん立ち話もなんですので、お話していただけるのでしたら昼食奢りますよ?」
「さぁいくらでも話して差し上げましょう!」
真凜さんは音速で前言撤回して、流れるように隣のサイゼリ屋に入っていった。
「では誘ったのは僕なので、遠慮なく注文してください」
「良いの?!言ったからね?!」
「はい、ご自由に」
真凜さんはさっきのを超えるキラッキラした目でメニューをめくっていった。
「えーっと、それじゃあドリンクバーと辛味チキンとアロスティチーニとコーンスープとコーンのピザとミラノ系ドリアとビーフステーキとフォッカッチャと…」
「ご自由にとは言いましたけど、すごい量頼みますね」
「昔先輩に、『1回確認して大丈夫って言われたらとことん遠慮しなくていい。途中でやっぱり少し控えめでとか言われたら甲斐性なしですねって言い返してやればいい』って言われたのよ。だからそれを実行したまでよ」
なんかそれ聞いたことあるな。
そんでこの人、麻にすごい似てる。
その後、結局真凜さんは合計13品を注文してオーダーストップとなった。
「じゃあ改めて、僕は二階堂 今と申します。麻とは高校以来の友人で、今は作家とか実況とか…まぁ色々やってます」
「へー、あいつ友達いたのね。あんま積極的に話をするほうじゃないし、てっきり学校じゃあ教室の隅で本読んでるタイプだと思ってたわ」
全くもってその通りでした。
…というのは、麻の評価のために黙っておいてあげよう。
「まぁ、名乗られたのなら答えてあげるが世の情けよね」
そう言って真凜さんは立ち上がり、右手を上げてポーズをとった。
「私の名前は夏目真凜!無知蒙昧にして、天下不滅の無一文!よろしくね!」
真凜さんは大声で名乗りを上げ、いい笑顔で親指を上げた。
真凜さん、周囲の目線が痛いです。
「…はい、よろしくお願いします。それでは…」
「あぁ待って。そういうキャラじゃないなら敬語は要らないわ。その方が私も話しやすいしね」
そういうキャラってなんだろう。…まぁ言いたいことはなんとなくわかるけど。
僕は別に敬語キャラってわけではないし、そう言うなら普通に話した方がいいか。
「…じゃあそうするよ。それで早速本題なんだけど…」
「分かってるわ。麻義が入ってから今までのこと、洗いざらい話してやろうじゃない!」
〜A few minutes later〜
「それで、初めは『俺パートナーとかいらねぇから』みたいな態度だったのに、急に『よし、こいつは俺が飼うことにする』よ⁈あいつほんと、言ってることとやってることが全然違うのよ!」
僕は、真凛さんと麻が出会ったところから最近ペットをゲットしたところまで、文字通り洗いざらい話しを聞いていた。
真凛さんは酒は飲んでないはずなのに、ずっと酔ったようなテンションで話している。
「あー、それすごく分かるな。麻は結構はっきり言うタイプなんだけど、大したこだわりがないから意外と流されやすいんだよね」
まぁ、面白いから麻にはそれ伝えていないけど。
「そうそう。あとさ、あいつめっちゃ顔に出るじゃない?それで思ってること当てたら、『なんでこいつ分かるんだよ』みたいな顔して、面白いのよね」
「へぇ、そこまで知ってるんだ。でも当の本人は気づいていないっぽいんだけどね」
「嘘でしょ⁈あれで真顔でいるつもりとか超ウケるんですけど!」
真凛さんはさっきからケタケタ笑いながら麻の話をしている。
でも、事務仕事の様子とかについて一切触れられていないのはどういうことだろう。
まぁ、別に面白くもなさそうだし触れないでおこうか。
「…とまあ、直近までのイベントはこんな感じね。いやぁいい話を聞かせてもらったわ」
「こちらこそ、面白…いや、貴重な話を聞かせてもらったよ」
ここ数日なんとなく物足りなかったけど、久しぶりに満足だ。
これだから知り合いの観察はやめられないな。
「はー笑った笑った。んじゃ、今日はごちそうさま。いい加減仕事行かないとだし、そろそろ行くわ。次の冒険が私を呼んでいる」
そう言って彼女は羽織っていた制服を翻し、席を後にした。
これからも麻の話を聞きたかったから連絡先くらい聞きたかったんだけどな。
真凜さん自体も面白かったし。
…あ。
「まだプリン来てないけど良いの?」
いい感じの空気を纏って歩いていた真凜さんだったが、何も言わずに回れ右して再び席についた。
かっこつけて席を立った手前、決まりが悪そうだ。
「…えっと、さっきのやつって1期10話ラストのセリフだよね。真凜さんも見てるの?」
それを聞いて真凜さんはバッと顔を上げ、驚いたようにこちらを見た。
「え、あなたも見てるの?!まぁそうよね、あれは超名作だものね!」
さっきの気まずい空気をどうにかするために言ったことだったが、想像以上に食いついた。
「そうだね。あれは世界も人間もぶっ飛んでるから、異質の面白さがあるんだよ」
「そうそう!推しキャラは?私はあの水の女神なんだけどさ!」
「うーん、あの銀髪のお頭と迷うけど、やっぱり頭のおかしい爆裂娘かなー。麻はあのドM令嬢って言ってた」
「あー分かる。超分かるわー。爆裂っ娘ははっきりした物言いにプラスで主人公に惚れてる感じが最高なのよ!あのラブコメだとなかなかない感じの恋愛はやっぱり異世界系のポテンシャルよね。ほら他にも双子の片方のモーニングスター系メイドとかさ。あぁいうキャラはメインヒロインを差し置いて人気が出るのも分かるわー。特に劇場版。私は映画館にはいけなかったんだけど、あのシーン見た時はマジで発狂したわ。そんであの幹部にマジで殺意湧いたわ。あと、こだわりがブレないのもポイント高いわよね。やっぱり何よりも大好きなものがあるキャラってのはいつの時代も定番よね!そんでその娘と主人公のシーンがいいのよー!物おじせずに豪速球ストレートぶん投げてくるその娘に対して若干ツンデレも入ってるヘタレの主人公ってのがまた他にないコンボなのよ!てか、麻義はあの令嬢なのね。結構意外だわ。確かに彼女もラブコメ展開だと健気な負けヒロインという素晴らしい立ち位置だし、普段も所々控えめだったり責任感が強かったりする反面、やっぱりあの作品のキャラだからまともじゃなくて、たまにポンコツだったり遠慮がなかったりするのはポイント高いわよね!でも、麻義の評価は少し改めないといけないようね。あとさ…」
アニメの話のなった瞬間、真凛さんはものすごい勢いで話し出した。
いやまぁ見るけど、そこまでの熱意は…。
「他は?他のアニメとかは何見てんの⁈」
ひとしきり話した後、彼女はテーブルに手をついて立ち上がって食いつくように聞いてきた。
「そうだね…アニメはなろう系メインで、漫画は少年誌メインかな。ジャンルは色々見るけど、ファンタジーよりはラブコメとかアクション・バトルとかが多いかも」
「ふむふむなるほどね?私もなろう系はよく見るけど、異世界系が多いからそこはちょっと違うかもね。じゃあさ、ゲームはやる?」
「もちろん。ていうか、僕はアニメ見るよりもゲームの方がよくやるね。普段のメインは格ゲーとか音ゲーだけど、FPSとかRPGとかサンドボックスとか、まぁ色々やるよ。最近のメインはMI-CRAかな」
「へー、MI-CRA。私も結構やるわよ?暇な時とか延々と露天掘りしてるわ」
「あーやるやる。達成感はあるんだけど、アニメ見ながらやってるとそんなに苦じゃないんだよね」
最近はやってなかったけど、久々にやってみたくなってきたな。
いや、ここ一年くらい麻はプレイもしてなかったらしいし、銅ツールが超優秀なんだよって言ってやらせてみよう。
「あ、そうそう。ナウって実況者知ってる?最近よく見てるYouChuberなんだけど、これが酷くてさー」
真凛さんは少し落ち着いたようで、そう言いながらドリンクバーのソーダを飲んだ。
「知ってるよ?だってそれ僕だもの」
「ッブフー!」
僕がそう言った途端、真凛さんはソーダを吹き出した。
「ゲホッ、エッホ!…え、ナウってあの、色んなゲームで神プレイの実況してる?」
「うん。神プレイって程じゃないけど、まぁそういう系のことはしてるね」
「あの、PvPだと途中までいい勝負させて最後に容赦なく蹴落とす外道プレイで有名な?」
「え、そうなの?」
麻には散々外道外道と言われてきたけど、そんなにかなぁ。
「え、嘘、ほんと?マジ?Really?Vraiment?」
「ほんとほんと。ほら」
めちゃくちゃ疑ってきたので、僕は証拠にYouChubeのアカウントを開いて見せた。
真凜さんはそれを、なんども目をこすって見ている。
「え、マジじゃん!いや、あなた只者じゃないと思っていたけど、まさか登録者数100万人超えの超人気実況者だったとはね」
「いやぁ、元々暇つぶしに始めたんだけど、やり始めたら意外と面白くてね」
元々ゲームは好きだったし、編集とかも結構好きな方だったからまぁそれなりに向いていたんだろうな。
「あ、あなたたまにマルチもやってたわよね⁈今度私も誘ってよ!これでもPSはある方よ⁈」
「え?あぁ、それは別にいいけど…」
「言ったわね⁈約束だからね⁈じゃあほら、これ私の連絡先だから、絶対誘ってね⁈」
「えっ、あっ、はい」
真凛さんの推しが強すぎて軽く引いたけど、こんな感じで僕は真凛さんの連絡先、もとい麻義の様子を聞けるスパイとのコネクションをゲットできたのだった。




